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無知で無垢な銃乙女は迷宮街で華開く  作者: ねをんゆう
02.苦悩と仲間
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51.2人の役割

「はぁ、疲れた……」


「災難でしたね」


カーン、カーンと音の鳴る熱気の溢れる空間。

その一角で2人は疲れた顔をして座っていた。

ダンジョンから戻って数時間、そろそろ日も沈む頃というくらいだろうか。この街一番の鍛治師ガンゼン、そんな彼に呼び出されたとギルドで聞いたのだが、リゼとレイナの顔から疲労の色は消えていなかった。

……だってあの後、本当に9階層を燃やし尽くし、抵抗の為に襲い掛かって来たカイザーサーペントを骨どころか灰すら残さない勢いで爆破し、それでもまだ治らないと10階層のレッドドラゴンを徹底的に殺し尽くした後、8〜6階層までの道までガンガン焼滅させていった様な女の直ぐ側に居たのだ。

あんなものどうすれば良いというのだ。彼女があれ以上にダンジョンを破壊するのを防ぐのに精一杯である。もし6〜9階層以外であんなことをしていたら、本当に強化種が出てくるところだったのだ。その強化種に苦しめられたリゼが必死になるのも当然というもの。


「……ただ、まあ、分かりました。リゼさんがどうしてあんなにラフォーレさんのことを怖がっていたのか」


「あの人は……人が普通はやらないことを、やれないことを、何の躊躇もなく本当にやるんだ。間違いなく人を殺しているし、どう考えても地上に居ていい人種じゃない。もしこの地に邪龍などという存在が現れなければ、とうの昔に牢屋に入れられている人物だ」


「リ、リゼさんがそこまで言うんですか……世の中が平和になったら真っ先に捕まりそうですね」


「捕まる……というより、捕まって欲しい。あれは人類の脅威の一つと数えて良いと私は思う」


「まあ、その、レッドドラゴンは脅威的な炎耐性を持っていると聞いていましたが、その上から炎弾で焼き尽くす様なお方ですし……確かに街一つを焼き払うくらいは出来るかもしれませんね」


むしろ、もう既に街一つくらい焼いていてもリゼは驚かない。リゼの中では"あんな人間がマドカの母親だなんて"というより、"あんな人間を母親にしているマドカがすごい"という考え方になっている。あんな怪物を仮にも人類の味方側に置いて制御出来ている(出来ていない)のは奇跡に近い。……まあ勿論、彼女の中にも彼女なりの価値観があって、根本的には人間であり、人間の味方をするのは当然なのだろうが、一度人間に失望すれば途端に反旗を翻す可能性があるのも確かなこと。こうして付き合い続けているとわかるのだ。最初の頃に思った、どうしてギルド長があれほどマドカのことを溺愛しているのか。そりゃ溺愛もするだろう。マドカがあれほど善良で街と人を助ける様な性格の持ち主であるからこそ、ラフォーレも街や人を焼き払うという手段だけは絶対に取らないのであろうから。


「おっと、すまねぇ!待たせたな姉ちゃん達!こっちの部屋に来てくんな!」


「あ、はい。行こうか、レイナ」


「はい、よろしくお願いします」


そんなことを考えていたら、どうやらガンゼンの方の用事が終わったらしい。ドワーフらしく低い身長に隆々とした筋肉、そして所々が焦げている髭や髪。彼と話したのはそれこそリゼがこの街に来てマドカから案内をされた時だったろうか。

彼は2人を鍛冶場から連れ出し、大きな食堂の一つに連れて来た。街の中でも最大級の鍛冶屋ということもあり、人も多ければ施設も大きい。しかし機能に必要のない無駄な部屋は存在しておらず、会議室の様なものはないようだ。今も数人のドワーフやヒューマンが大量の飯を喰らいながら大声で話している様なそんな場所で、この鍛冶屋のトップである彼は話をしようとしているようだ。

……まあ、そんなことを気にする2人ではないけれど。やはりこんな仕事をしているだけあって、豪快な人達なのだなぁと思うくらい。


「うし、じゃあ先ずは自己紹介からすっかぁ。あぁ、リゼの嬢ちゃんは前に会ったよな?マドカちゃんが紹介してくれた時だ」


「ええ、この街一番の鍛治師であると」


「はっはっは!よせやい照れるだろ?……ま、そんな訳でこの鍛冶場を仕切ってるガンゼンってんだ。悪いが家名はなくてな、実家と縁切った時に捨てちまった」


「それでは私も改めて、リゼ・フォルテシアと言います。私の祖父が銃を造っていて、なんだかここの雰囲気を懐かしく思います」


「あ、私はリゼさんの、その、パーティメンバーのレイナ・テトルノールです。鍛冶とかは、その、正直よく分かりません……」


「よしよし!名前はちゃ〜んと覚えたかんな!こんな商売してんだ、客の顔と名前を覚えるのは得意ってもんよ!」


特に将来有望そうな探索者の名前は。まあそこまでは言葉にはしないが。ただやはり鍛治師という商売、特に名前の売れた腕のある職人は、担当する探索者の目利きも重要だ。街一番とは言え、ガンゼンも1人の人間。出来ることに限りはあるし、一人で全ての探索者の武器は作れない。

いくら有名なクランの新人でも直ぐに引退しそうな探索者の担当なんてしていられない、いくら長続きしそうでも大成しなさそうな探索者の担当なんてしていられない。より長く、そしてより高品質な武器を求めてくる探索者。それこそがガンゼンほどの腕を持つ鍛治師が求める客の条件だ。その点で言えば……


「ま、両方とも客としては合格だな」


「え?」


「合格……というと?」


「見込みがあるってことだ、そのうち俺が武器を造ってやってもいい。それくらい良い探索者になりそうな予感がする」


「ほ、本当ですか!?それは素直に嬉しいな」


「ま、俺がお前さん達に武器を造るってことは未来永劫無いだろうが」


「どっちなんだ!?」


上げて落とされて、困惑する。

造ってやると言ったり、造ってやらないと言ったり、その言葉にいちいち素直に反応をするリゼを見てガンゼンは笑っていた。レイナもまたそんなリゼの反応を可愛らしいと楽しんでいたことは言うまでも無い。


「取り敢えず、俺が今日お前さん達を呼んだのは、それこそお前さん達2人の武器のことについてなんだが」


「武器、ということは……」


言うまでもなく、リゼの大銃のこと。

銃に取り憑かれたリゼの祖父が作り出し、先の戦闘でも脅威的な攻撃力と精密性を見せた兵器とも言える様なその武装。


「えっと……でもリゼさんの武器だけでなく、私のもですか?」


「そういえば……」


ガンゼンの言葉のおかしなところに気付き、思わず持っていた普通の大槍に目を向けるレイナとリゼ。それこそ何処にでも売っている様なそんな武器に、ガンゼンともあろう鍛治師が興味を向ける筈がない。


「覚えてねぇか?お前さんが見つかった時に一緒に転がってたっていうおかしな槍をよ」


「!」


「なるほど、あれのことか……」


「そうだ、あれの調査も俺に回って来てんだよ。魔力を使わない大砲を作れだの、全く意味分からん機構で出来た大槍を傷付けずに解析しろだの、ギルドは無茶を言いやがる。まあ楽しいからいいけどよ」


そう言ってガンゼンは自身の長い髭を撫でながら至極嬉しそうに笑う。よくよく見てみれば目の下に若干の隈、睡眠時間を削って何かをしているということがよく分かる。

言われるまで2人ともすっかり忘れていたのだが、リゼがレイナを見つけた時、彼女の側に一本の銀色の槍が落ちていたのだ。使ってみた感触としては少し重たいが頑丈な槍……程度の認識でしかなかったが、カナディアがその後に調べたいからと持っていってしまったことを覚えている。

まあ確かに見た目は銀色の板を何枚も貼り付けた様な奇妙な姿をしていたから不思議には思ったが、どうやらその槍もリゼの大銃と並べられるくらい不思議物体だったらしい。少なくとも街一番の鍛治師であるガンゼンがこれほどのめり込んでいるくらいには。


「ただ、私達にその槍に関する知識はない。役に立てるとは思えないのだが……」


「……はい」


「いや、この槍に関しては"使い方"くらいまでは判明してんだ」


「え、そうなんですか!?」


「ああ。ただ問題はその機構っつーか、無理矢理にでも再現出来ねぇっつーか」


「……つまり?」


「あの槍だけ2、3歩時代を先取りしてやがる」


「!」


「俺はあれが50年先の未来から飛んで来たって言われても驚かねぇ、それくらい時代を先取りしてやがる。少なくとも俺は『スフィアを嵌め込んで起動させる』武器なんてものは見たことがねぇ」


「スフィアを嵌め込んでだって!?」


思わず前のめりになって驚くリゼに対して、ガンゼンは苦笑する。周囲に座っていた食事中の鍛治師達もその内容については既に知っていたのだろう、まるで子供でも見るかの様にリゼのその様子を笑って見る。


「今はうちの連中で図面回して必死に頭捻ってるところだ。だがそれもそろそろ手詰まりでな、ここでちょいと周り道をしてみるかって話になった訳よ」


「それで私が呼ばれたんですか……?」


「ああ、まあ一緒に見つかった人間なら何か起きるかもしれないし、そもそもの所有権はアンタにあるからな。仮に試し斬りをするにしても、所有者に依頼するのが筋ってもんだろ」


「なるほど……」


「ちなみに、話を遮る様で悪いのだが、私が呼ばれた理由とはなんなのだろうか?私も試し撃ちをすればいいのかな」


「いや、お前さんには助言が欲しいんだ。さっきも言ったが、ギルドから実弾兵器を造って欲しいと言われててな。解決法を知っているのならそれでいいし、知らないのならその銃を見せて欲しい」


「リゼさんは銃作りの方も詳しいんですか?」


「いや、せいぜい一般的な猟銃程度しか作れないよ。ただお爺ちゃんから大型の銃の基本的な構造と手入れの方法については教わってるから、力にはなれるかもしれない」


「おお、そりゃあいい!なんだったらその爺さんが残した資料でもあれば良かったんだが」


「あはは、家に戻ればいくらでもあるかもしれないが……恐らく解読から必要かもしれないね。私の祖父は確かに年中銃のことばかり考えていたが、全て自分の中で完結していたんだ。自分が忘れそうな事しか記録していなかったから、私も少し読み飛ばして防虫処理だけ施した後、全部仕舞ってしまったよ」


「勿体ねぇなぁ、その資料だけで実弾兵器の進歩に5〜10年は省けるってのに」


しかしなるほど、ここまで聞けば確かに自分達も協力出来るかもしれないと頷ける。それにしてもここに来て実弾兵器の実用性が改めて見直されていると聞いたら、祖父はどう思うのだろう?リゼはそんなことを考えながら、ガンゼンの案内で銃工房(仮)へと向かうことになった。

それも全て、魔法が効きにくい相手が現れたこと。

そしてそれに対してリゼが大いに活躍したこと。

この2つの要因があったからこそだ。

勿論、実弾兵器自体が敵の属性耐性に左右されず、非常に安定してダメージを与えられるという点で万能な邪龍対策になるというギルドの気付きもあるに違いない。


「……ん?もしかしてお爺ちゃんはこれを狙って私に大銃を渡したのかな」


流石にあの銃狂いがそこまで考えていたとは思わないが、もしかすれば今頃は天でほくそ笑んでいるのではないかと考えると、妙にその顔が鮮明に思い浮かんだので、リゼはイメージの中でその額に弾丸を撃ち込んだ。





リゼが銃工房(仮)へと通されている間、レイナは事務員の女性に連れられて中庭に連れて来られていた。ここでは主に造った武器の試し切り等が行われており、時折探索者達に頼んで実際の立ち合いをさせていることもあるからか、それなりに広く施設も整っているようだった。


「こちらがその槍でございます」


「これが……」


厳重に鍵の掛かったケースの中から取り出された一本の銀色の大槍。正直ほとんど記憶の中にはない代物であったのだが、確かにこうしてマジマジと見るとその姿は妙だ。

手渡されて持ってみれば今現在使っている普通の大槍よりも重く、そして硬い。刃の鋭さも見るだけで分かるほどに尋常ではなく、指で触れただけで切れてしまいそう。

正直に言ってしまうと、触って持って構えてみて、決して手に馴染むということは無かった。むしろ普通の槍とは明らかに違うからか少しの違和感があり、初めて戦闘をした時とは違うその感覚から、記憶を失う前に自分が愛用していたということは無い様に思える。


「どうですか?」


「……少し慣らしてみてもいいですか?いきなりは危ないかもしれません」


「ええ、こちらでどうぞ」


一先ずは横に振り、縦に振り、基本動作の確認から。長さ自体は今使っている大槍と変わらないので問題なく、後は重さと若干の重心の違いに慣れればいい。全体的に太くはなっているが、レイナの手でもまだ十分に持てる程度であるし、ある程度振っていれば自然とコツも掴んでくる。


「……こうしてみると、結構いいかも」


性能としては全体的にシンプルだ。

変な形もしておらず、むしろ信頼出来る強度がある分、信用して扱える。武器に配慮することなく盾代わりにだって出来る。単純に普通の槍としても性能が高く、同じ程度の物を買おうとすればそれなりの値がするだろう。……だからこそ、信じられない。


「あの……これ本当にスフィアを嵌め込むことが出来るんですか?」


「ええ、少し試してみましょう。柄の尻の部分を地面で3回ほど叩いてみてください」


「えっと、こうですか?……わっ」


言われるがままに柄の尻の部分で地面を3回叩いてみると、手元の部分の銀色の鋼板の一枚が縦にスライドする。そうしてみれば明らかにスフィアを嵌め込む為であろう窪みが見つかり、それは秘石に三つ存在する窪みとやはり同じ様なものだった。

ということは、つまり機能も……


「試しにこちらをお使い下さい」


「あ、ありがとうございます」


手渡されたのは【回避のスフィア】。

レイナの秘石にはいつも通り【雷斬のスフィア】2つと【体盾のスフィア】が嵌っている。普通ならば個数制限の関係で使うことが出来ないが、試しに嵌め込んだ【回避のスフィア】に触れてみれば……


「わわっ!?本当に発動した!?」


瞬時に背後に吹き飛ばされる様な感覚。

間違いない、効果はしっかりと発揮されている。


次に手渡されたのは【炎斬のスフィア】。

ついでに秘石のスフィアも【雷斬のスフィア】と【回避のスフィア】へと変え、これで赤色、黄色、青色と合計3属性のスフィアが揃ったことになる。属性制限の関係上、普通ならばこれではどのスフィアも効果を発揮しなくなるはずだ。

ただそれでも槍に嵌め込まれたスフィアに触れてみれば……


「……やっぱり、発動する」


槍の穂の部分が炎を纏った。

その状態で秘石の【回避のスフィア】を発動してみても、普段通りに背後に身体が飛ぶ。どのスフィアも制限に引っかかっているはずなのに、効果を発揮することが出来ていた。……否、もしかすればこれは。


「秘石と武器のスフィアは、完全に別物扱いということでしょうか……?」


「我々はそう結論付けています。例えば先程は秘石のスフィアを変えたばかりのクール時間中だったにも関わらず、槍側のスフィアは発動していました。この事からも両者に関係性は無いと考えられます」


「つまりこれは、秘石の一種?ステータスの変化は無いように思いますが……」


「恐らくスフィアを発動する機能だけが埋め込まれているのではないでしょうか。しかしスフィアの効果はステータスに左右されるというのが基本的な考えですので、やはり装備中の秘石と多少の繋がりはあるという可能性も……」


「それなら秘石を外して試してみましょう」


これならステータスとの関係がよく分かる。

スフィアさえ外してしまえば、ただの人間。

エルフでもないのだから生身で魔法は使えないし、ステータスで表せば0という形になるだろう。これでもスフィアが発動するということなら……


「……発動しましたね、規模は先程と変わらないみたいです」


「なるほど……つまり、秘石として『スフィアを発動する効果』と、武器として『一定の威力を保つ効果』の2つがあるということでしょうか」


「もしかすれば持主の魂や肉体とリンクしている可能性もありますが、その点は今度は私が別の槍で普段通りに【炎斬のスフィア】を使用してみればハッキリすると思います。……が、恐らくは仰る通りかと。普段私が使っている【雷斬のスフィア】より規模が小さく感じました」


この調査をする前に安全確認のためにガンゼンが何度か試してデータを取ってくれていた様であるが、これだけスムーズに色々と分かるとレイナも夢中になってくる。ガンゼンの気持ちも今なら少し分かるところだ。

そしてやはり炎斬のスフィアを使ってみれば、秘石で使用して方が威力は大きかった。つまり秘石が無い状態でも、この武器さえあればスフィアの発動だけなら可能ということだ。


「!……もしかすれば、この武器があればステータス不足で十分な威力を出せないスフィアも使えるようになるということでしょうか?」


「あ、それは確かに……ただ、【炎弾のスフィア】や【バリアのスフィア】の様に武器が指定されているスフィアは使えないかもしれませんね。その点で言えば、単に選択肢が増えたと考えるべきでしょう」


「属性の相乗効果を狙うか、複数の属性を担うか、万が一のための回復防御系のスフィアを入れておくのもいいかもしれません」


「属性縛りだけが難点の【回避のスフィア】を入れておくのが良さそうですね。まあ普段から使っている人にとってはスフィアの位置が変わることになるので、押し間違いの危険性はありますが」


とは言え、現在レイナは【回避のスフィア】を基本的には使っていない。それはスフィアの数や属性制限によって噛み合わないからだ。それでも【回避のスフィア】自体は自分の戦闘スタイルに適しているという悔しさ。……この槍はそんな問題を解決してくれる。探索者の誰もが苦悩したスフィアの選定に、この槍は新たな拡張性を齎した。


「ガンゼンさんが必死になって解析をする理由がなんとなく分かった気がします」


槍と秘石の両方に【雷斬のスフィア】を装着し、その2つを同時に発動してみる。そうすれば普段通りにスキル【雷散月華】は発動し、槍の穂の部分から凄まじい雷が程走る。……どうやら秘石と槍に関係はない、とは完全には言えないらしい。

基本的には別物扱い。

しかしスフィアを揃える事によるスキルは発動する。

もし秘石の3つと槍の1つ、合計4つの枠を全て【雷斬のスフィア】で埋め尽くしたら、一体どれほどの威力になるのだろう。4乗の【雷斬のスフィア】に、【雷散月華】のスキル効果が乗って、更に4つ分の雷属性スフィアの連結効果が加わる訳だ。

同じ色のスフィアで揃えるほど威力が増すという副産物的な効果は、効果量に対して柔軟性がないことから無視されることが多いが、これが4つ分ともなれば選択肢として浮上してくるくらいの代物にはなるはず。


「試してみますか?【雷斬のスフィア】4つ同時発動」


「……いえ、今はやめておきます。恐らく今の私のステータスと装備、それと技術では制御出来ないと思いますから」


「マドカ・アナスタシア氏は相当な規模の属性攻撃を低VITで扱っているということですし、考え過ぎではないでしょうか?」


「……彼女を基準に物事を考えるのは間違いです。私が普段使っている2乗分の【雷散月華】でさえも、かなりの集中力を必要とする程の反動があるんですよ?」


「そうなのですか?……地形を変えるほどの一撃を放てる探索者さんというのは少ないので、そこまでとは知りませんでした」


「私は本当に人伝(主にリゼ)の話でしか彼女のことな知りませんが、聞いている限りでは彼女が何気なく行っている行為はその全てが常軌を逸しています。……私がするのなら、せめて全身に耐雷装備が欲しいですね。それと槍と自分の手を接着しておく必要があると思います、視界の防護も必要ですね」


「そこまでですか……」


「マドカさんが水属性を好んで使っているというのも、そういう理由があるんだと思いますよ。まあ水属性は水属性で、あれほどの振動と衝撃にどう耐えているのかという疑問は残りますが……」


顔ではスッキリしていても、実際にその身体には相当な負担が掛かっているのではないだろうか?レイナはそう考えて、振り払う。

彼女がどんな負担に耐えていて、それをどう考えて感じているのかなんてどうでもいい。ただ、戦闘スタイルが共通しているからか、彼女のことを知りたがっているリゼよりも理解が深まっていってしまっている現状は微妙な気持ちだ。

別にレイナ自身は彼女のことを知りたいとはこれっぽっちも考えていないのに。


「一先ず、スフィアの使用を続けて貰えますか?秘石と槍の関係がないと分かった以上、そのスフィアの魔力的な動力源がどこにあるのかを確認しておきたいので」


「分かりました。私の予想では槍を振ったり当てた際の衝撃がエネルギーに変換されているのではないかと思いますが……まずはエネルギーの容量を確かめないとですね」


「その変換機構でさえ、あるとしたら現時点では全く再現不可能な未知の技術なのですが……とにかくお願いします」


その後もレイナはリゼとガンゼンが戻ってくるまでに様々な可能性を事務員の彼女と調べ続けた。その中でも何より気になったのが、『なぜただの事務員であるはずの彼女が、ここまで技術的な面でも知識を持っているのか』ということであったが……結局それが分かることはなかった。

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