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ヒガンバナ

作者: ちゃこん

「もう、もう……イヤダアアアアァァァァ!!!」

灯舞ひまっ!!」


辺りに凄まじい咆哮が響く。フルールの、灯舞の、わたしの妹の咆哮だ。

灯舞が怪人に攫われてからわたしは、魔法少女【サワーイエロー】として毎日必死に闘ってきた。灯舞のような被害者を出さない為に。

けれど、灯舞は生きていた。魔法少女の敵、【ディーシプス】の姫として。

こんなことを考えている今も、灯舞は暴走し、魔法少女の仲間たちは傷ついていく。


(わたしの力は煌めく癒し。けれど、今の状態の灯舞には外側からの癒しはほとんど効いていない。だから……)


灯舞の中に入って癒すしかない。そう決意したアクアは早速、フルールの元へと向かう。そして魔法の道具を使い、フルールの精神へ入り込んだ。


** * *** ***


「うんとね、わたしはオレンジレモンにしようかな」

「お姉ちゃんはいっつもそれだよね」

「いっつも同じで何が悪いのよう」


ショッピングモールの中にある有名アイスクリーム店のチェーン店。少し休憩しようということでアイスを選ぶ。


「まあ、悪くはないよ。私だってヒバナにするし」

「いっつもそれだもんね」


ヒバナ。パチパチッと口の中で火花のように弾けるキャンディが特徴の、紅色のフレーバー。小さい頃に興味本位で食べた時に衝撃を受け、それ以来お世話になっている私にとって定番のアイスだ。


「っ……油断したよぅ……」

「頭にキーンと来た?」

「そう……」

「後先かんがーー」


後先考えずに食べるからでしょ。そう続けようとした言葉は、振動と悲鳴に掻き消された。


「怪人……?」

「初めて見た……逃げなきゃっ!!」


近年世界で多発している怪人による被害。ここら辺では怪人の目撃情報すら無かったからイマイチ怪人の恐ろしさを感じなかったけれど、今、身を以て知った。


「走るよ!!」

お姉ちゃんに腕を掴まれ、必死に走る。けれど、それは大きな怪人にとっては無意味に等しく……。


「っ!きゃあぁぁぁぁぁっ!!!」

「え……灯舞っ!」


怪人に体を掴まれてしまった。お姉ちゃんがこちらに向かって走って来るが、来た道を引き返そうとする怪人との距離はだんだん離れていってしまう。


「おねえちゃあぁぁん!!たすけてえぇぇぇぇ!!!」

「まてえぇぇ!!!」


こういう時、物語だと、来ないで、逃げて、というのだろうけれど、私はみっともなく助けを求めた。

しかし、お姉ちゃんの姿も声も次第に聞こえなくなって……そこからは覚えていない。






ぼんやりと目を開ける。今まで何をしていたんだっけ……、思い出せない。

目の前には白髪混じりのおじさんがいる。

こういう人をダンディっていうのかなあ、なんてことを頭の冷静な部分が考える。


「ごめんな……」


不意に、おじさんが話した。なんて言ってるのかは聞き取れなかった。何言ったのかな……、そんなことを考えていると、口に何かが入ってきた。

それは、あのフレーバーの味がした。






「お父様、私、そろそろ魔法少女を見てみたいですわ!」

「……そうだな、そろそろ大丈夫な頃合いか」


いつも反対されていたのに。まあ、私も強くなったからか。

……魔法少女。それは、お父様の治める【ディーシプス】を破滅させようとする悪しき力を持つ少女達のこと。

【ディーシプス】の人々は必ず、身を守れるよう一定以上強くならなければならない。特に支配階級のお父様やお姉様、お兄様や私などは。


「……いいぞ、では見学がてら、次に戦いに行くオリーブについて行くといい。あいつなら、お前を充分に護れるだろう」

「有難うございます!」







「フルール様、今日を楽しみにしておりました。本日は護衛を勤めさせていただくオリーブと申します」

「オリーブね、知ってるわ。夕食の席でお兄様が、貴方のことを優秀と言っていたわよ」

「左様でございますか」


今日は魔法少女を見に行く日。私の護衛を勤めるのはお兄様の補佐であるオリーブ。


「それではフルール様、参りましょう」

「やっと、魔法少女が見れるのね!」


そうしてやって来た世界で、早速オリーブは怪人を召喚する。


(凄いわ、あんなに強い怪人を召喚できるなんて!)


今の私の力では、オリーブが召喚した怪人の半分くらいの大きさのものしか召喚できない。


(もっと力をつけなくては)


怪人が暴れているのを横目に決意する。


「フルール様、恐らくあそこにいるのが魔法少女でしょう」

「あれはただの一般人ではなくて?」

「いえ、彼女達をよく見ていてください」


オリーブに言われた通りに目を凝らすと、少女達がおもむろになにかを取り出した。


「あれは!」

「変身アイテムですね」


噂の変身アイテムだ。ずっと見てみたかったのでワクワクする。次は変身シーンだ。


「残念ながら変身するのを見ることはできません」

「そんなっ!」


顔に出ていたのかオリーブにそんなことを言われる。オリーブの話は本当のようで、少女達が光の膜に覆われて見えなくなる。


「凄いご都合ですよね。私のような男性に見られないためでしょうか」

「酷いですわ……」


しかし、そんな変身タイムも終わったようで、自己紹介が始まる。


「甘いハートで包み込む!聖なるテイスト、スイートピンク!」

「塩っぱいハートで洗い流す!激流のテイスト、ソルティブルー!」

「酸っぱいハートで光り輝く!癒しのテイスト、サワーイエロー!」

「苦いハートで過ぎてゆく!旋風のテイスト、ビターグリーン!」


スタッという音を響かせ決めポーズを出していく。そして………


「「「「グーテルカラー、参上!」」」」

「美味しいところはいただいちゃうよっ!」


決め台詞を吐いた。


「オリーブ!見ました?!決め台詞というやつですわ!」

「見ましたし、聞きました。ほら、フルール様、今のうちにグーテルカラーの闘い方を見ておくのですよ」


そう。魔法少女を見たかったのは単なる好奇心もあったけれど、何より私が魔法少女と闘う時にどう戦えば勝てるかを学んでおくためだった。今のうちに見てしまおう。


ソルティブルーは足蹴りが多いです。猪突猛進な様子で罠にはまりやすいですね。

ビターグリーンはソルティブルーを助ける傾向にあります。用心深いのか罠にはまりません。

スイートピンクはリーダーなのでしょうか。他の少女達をよく気にかけ、攻撃の指示を出しています。

そしてサワーイエローは……。


そこで 思考が止まる。


「ねえ、オリーブ。あのサワーイエローという少女、どこかで見たことがある気がするのだけれど」

「はて、私は知りませんね。城に似たような者がいるのでは?」

「そう……」


やっぱり何かの見間違いだ。城にあんな顔立ちの子はいた覚えがない。


「怪人が倒されました。撤退致しましょう」







大丈夫、大丈夫。オリーブよりも強くなったし、大丈夫……。

魔法少女【グーテルカラー】の見学をしてから数ヶ月。初めて魔法少女と闘うことになった。


「一応私も一般人のふりをして見ておきますが……」

「う、煩いわね!大丈夫よ……」


ついカッとなって強く言い返してしまったが、呆れられた気がする。


「ほら、フルール様。参りましょう」


そうして向かったのはオリーブが闘っていたあの場所。


「ふう、ふう、はあー。よし」


オリーブは既に隣にいない。ここからは自分だけが頼りだ。

先ずは召喚の魔法陣を敷いて……。


「出でよ、フルール・ディーシプスの名の下に。ファントムインヴォカーレ」


失敗したときのことも考慮して声は張らないでおいたが……?

魔法陣が赤黒く光り始めた。そして出てきたのはトップクラスの怪人。成功だ。

さて、魔法少女たちは来るかな?


「みんな、行くよ!」


来た。そこから変身が始まり、自己紹介。


からい心は燃え盛る!豪炎のテイスト、スパイシーレッド!」


おや、一人増えている。でもまあ問題ないはず。さあ、試合開始だ。






「フルールッ!許さない!」

「あら、貴女に許されなければならないことは何一つなくってよ?」


初の闘いから更に数ヶ月。今や【グーテルカラー】からの認知度は百パーセントである。

しかしながら、逃げ遅れた幼女を踏んだだけで何をそんなに怒るのか。私には理解できない。


「っ!あなた達のせいでっ!灯舞は連れ去られたっ!帰ってこなくなったっ!返してよっ!灯舞をっ!返してよおおお!!!」


サワーイエローが喚く。ヒマとは誰なのか。彼女の大切だった人なのだろうか。何故か引っかかるヒマという人物についてサワーイエローの攻撃を避けながら考える。


「灯舞だけじゃないっ!真理亜まりあちゃんのお母さんもっ!静香しずかちゃんのお兄さんもっ!フレムちゃんの家族もっ!みんなみんな返してあげてよお!返してよおう!」


勢いはそこまでだったのか、サワーイエローは蹲った。


「かえしてよぉ、かえして……灯舞をかえしてぇ……」


「わたしの、たいせつな、いもうとを……」


そこで何かが引っかかった。

いもうと?芋宇都?妹?ひま?聞いたことがある?そんなはずない。確かに私にはお兄様もお姉さまもいる。私は妹だ。でも、ひま?なんでヒマという名前を懐かしく感じるのだろう。


ヒマ、ヒマ、ヒマ、ヒマ、ひま、ひま、ひま、ひま……灯舞?

灯舞。わたしの、なまえ……?


記憶がフラッシュバックする。そうだ。あの日、私はお姉ちゃんとアイス食べてて……。あれ、目の前にいるのはお姉ちゃん。傷だらけになっている。なんで傷だらけ?闘っていたから。誰と?お姉ちゃんの目の前にいる人と。お姉ちゃんの目の前にいるのは誰?……私。つまり。


「私がお姉ちゃんを傷つけた……?」

「え……?」


私の言葉にお姉ちゃんは反応する。


「お姉ちゃん……?灯舞?灯舞?!灯舞なの!?ねえ!!」


何か喋っているが、聞き取れない。私がお姉ちゃんを傷つけた?嘘だ。いいや、本当だ。それに、今回だけじゃない。何回も何回も傷つけた。お姉ちゃんの仲間も傷つけた。私はなんてことをしたんだ。なんてことを、なんてことを!どうしよう、どうしたらいい?嗚呼、なにも考えられなくなってきた。考えなきゃ、考えなきゃ。罪を償う方法を。でも。


「もう、もう……イヤダアアアアァァァァ!!!」


なにも考えられなくなってしまった私は、咆哮した。


*** *** ***


「これが、灯舞の、過去……」


灯舞の精神へ入った為、灯舞の過去が頭に流れ込んできた。良かった。酷い扱いはされていなかったようだ。


「ふぇっ、くっ、グズッ、ぐすっ」


不意に、鳴き声を押し殺すかのような音が聞こえてきた。

辺り一面(いちめん)白いここではその音を出すものも簡単に見つけられる。


「灯舞?」


音のした方を振り向くと、そこにはあの日の格好をした灯舞がいた。

灯舞はこちらに気づかない。


「灯舞、灯舞、どうしたの?お姉ちゃんに話してごらん」


そう声をかけ、背中をさすろうとしたが、その手は灯舞をすり抜ける。


「灯舞、灯舞、泣かないで。お姉ちゃんも悲しくなってくるから」


そう声をかけた時、ヒマがこちらを振り向いた。


「おねえちゃん?」


その声は、その表情は、いつも大人びていた灯舞からは見たこともないものだった。


「おねえちゃん、いるの?いるの?へんじして?」

「いるよ、いるよ、へんじしてるよ」


しかし、灯舞と目が合うことはない。また視線を下に向けてしまった。


「いない、いない、どうしよう」

「いるよ、いるよ。どうしたの?」

「どうしよう、どうしよう。わるいことしちゃった」

「「わるいことしたらあやまらなきゃ」」


灯舞には見えていないと悟っても、サワーイエロー、希衣きいは呼びかけ続ける。


「おねえちゃんをきずつけちゃった。おともだちもきずつけちゃった」

「真理亜ちゃんたちには謝らないとだね」

「でも、おねえちゃんもおともだちもいない。いなきゃあやまれないのに」

「お外に出て謝ろう?みんな優しいから許してくれるよ」

「あやまったらゆるしてくれるかな?ゆるしてくれなかったらどうしよう」

「許してくれなくても謝らなきゃ。お姉ちゃんと一緒に罪を償おうね」


不意に灯舞が顔を上げる。目が合う。


「ねえ、おねえちゃん。【ピエー・デ・ピューヒケイション】をわたしにかけて?」

「え……?」


いきなり会話をしてきた灯舞に戸惑う。


「どうして?みんなに謝ろう?」

「ううん、おともだちがゆるしてくれても、わたしがフルールをゆるせないの」

「でも、でも、【ピエー・デ・ピューヒケイション】を灯舞にかけちゃったら……」


完全に染まってしまっている灯舞にかけたら、灯舞は消滅してしまう。

しかし、その言葉を希衣は止めた。灯舞の目が、それを覚悟していたから。


「本当にかけていい?」

「うん」

「どうなっちゃうか解ってる?」

「大丈夫。いままでたくさんみてきたから」

「……何か言い遺したいことは?」

「お父さんとおかあさんに、ありがとうって」

「……解った」


そう言って希衣はお呪いを唱え始める。その右手には、魔法のステッキが握られていた。


「妾は汝を癒すもの。汝は妾に癒されて、安らかに眠るであろう。満ち足りの鐘を鳴らせ。穏やかな音色を奏でろ。そのが聴こえてきたならば、幸せの神は微笑むだろう……」


ステッキの先端に淡い黄の光が集まる。


「妾が望むはただ一つ。汝が癒しを受けること。心も体も満ち足りて、幸福に包まれること。幸せの神の代理として、汝を癒し、見届けよう。汝が浄化し、新たなる道を進めることを願う……【ピエー・デ・ピューヒケイション】」


灯舞が目を瞑り光に包まれて、希衣の瞳から大粒の涙が溢れる。


「ごめんね、ごめんね……何にもできなくて……」


そう希衣が零すと、灯舞は目を開け微笑んだ。そして……


「〜〜〜〜〜……」


*** *** ***


「あれ?希衣ちゃんオレンジレモンでいいの?」

「限定があっても絶対ヒバナ選んでたのに……珍しい……」


ショッピングモールの中にある、有名アイスクリーム店のチェーン店。そこで会話をしているのは、五人の少女たち。


「まあまあ、希衣にも気分転換ってやつがあるんだろう?」

「たまには違うもの食べたらいい刺激になるものよ!」


四人の声に応えるのは一人の少女。


「ふふ、ヒバナはもういいんだっ!」


その答えに四人が首をかしげる中、少女は楽しそうに、それでいて少し切なそうに微笑んでいた。

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