オンライン練習
「相手2Cに3人!」
「やばい横から敵来てます!」
「ちょっと待てそこ下がると俺がしぬうううううううう!」
リュウのパワーユニットが絶叫と共に爆発する。
「いや横から来たら前線維持無理ですって!」
「一旦下がって2B確保しよう」
「小早川さんタレット配置は出来てる?」
「出来てるけど…これ守れるの?」
「正直2Bはきついかななるべく2Aに寄せて上の一人食えたら2A抑えに行こう」
「私と結2B着いた、ってもう敵いるじゃん!やばい死ぬ!」
ウォールを超えた先にすでに敵が3人移動していたらしい。死ぬと言葉にしている頃にはもう二人のパワーユニットは爆散していた。
「これはー…どうするのが正解?」
「うーーん………降参?」
ごらんの通り、自宅からのオンライン練習は不調である。
「だから2Cで人数割いてるんだから2Cは取りに行くべきだろ!」
「でも結局相手4人いたじゃないですか!しかも横取られてて私のパワーユニットの性能だとどっちにしろすぐ落ちますよ!」
「だからってシューターを置いて下がるタンクがいるか!?しかも後ろならまだしも横ならまだ耐えられるだろ!」
「いや絶対無理です!」
「しかも下がるとか言わずにいきなり下がるしまず何か言ってから動けよ」
「………そんなの出来たら元からやってるもん…」
だんだんと井上の声が小さく、涙声になってきた。その声を聴き、熱くなり過ぎた事に気付いたリュウが言葉に詰まる。
「いや…あの……そのさ」
「勝つために熱くなるのは分かるけどさぁ。やっぱ各々の実力も経験も差があるしそんな強い口調使わなくてもいいんじゃないかなー?リュウ君?」
「あの……ハイ。ネットに毒されてました」
俺視点からしてもこのぐらいの言葉の強さなら許容範囲だと思ったが圧を掛けられ慣れていない井上には堪えたらしい。
「酷いやつだな」
「おいアル!お前…!」
「え?悪いと思ってないの?」
「いや…えっと…ハンセイシテマス」
俺もちょっと強い言葉を使ってしまいそうだし、これまでの考え方への反省と言葉遣いへの注意を込めてなるべくリュウを懲らしめよう。矛盾してるって?いやいやいじられるリュウを見て自分はこうなりたくないと思えるさ。
「いやほんとにすいません。このぐらいなら普通だろと思ってました。泣くほどとは…」
「泣いてない」
「……いや泣いて」
「泣いてない!」
「………えっとー…ごめんなさい」
「くっ…!」
おっとしまった笑いが漏れた。井上には申し訳ないが焦って声が高くなっていくリュウを見るのは新鮮で面白い。
「アル!お前俺を見て楽しんでるだろ!」
「え?反省してないんですか?」
「いやいやそうじゃなくて!お前ももうちょいフォローとかさ!」
「リュウ君…そんなことする人だったなんて……!」
この流れを見てナオミ先輩もリュウ弄りに乗ってきた。
「いやいやいやいや違うんすよ。僕が悪いのは重々承知ですが、ただの言い方の問題と言いますか…認識の相違と言いますか…」
「ハルカせんぱーい!この人が私の事虐めてくるー!最低だー!」
時間が経って立ち直ったのか、リュウが叩かれるこの空気に機嫌を良くしたのか。井上もリュウ弄りに参戦してくる。
「そうだねー最低だねー」
「………」
「ついに観念して黙った」
「……ワタシガワルカッタデス。モウシワケアリマセン」
「女性の後輩に強い口調で命令するなんてひどい先輩だねー」
「……ワタシガワルカッタデス。モウシワケアリマセン」
「バカゴミゴリラ先輩」
「……………ワタシガワルカッタデス。モウシワケアリマセン」
ちょっと間が長かったな。多分ちょっとイラっとしたな。
「いくら対戦ゲームだからって…」
「ワタシガワルカッタデス。モウシワケアリマセン」
すでに自我は失われた。
「さてそれじゃあ反省点を上げていこうか。まずやっぱり咄嗟の連携面には問題があるね」
「まぁそれはチーム経験が浅いってこともあるし仕方ない面もあると思いますけど…」
「んー…まずゲーム中は敬語とかなしにするとか…?」
珍しく小早川さんからの提案だ。
「敬語なしとはどういう意味で?」
「敬語とか敬称付けてるとどうしても一つ一つの報告長くなるでしょ?試合中の報告が長いのも問題だし呼び方も愛称とかの方がいいんじゃないかな?」
「あーそれはあるかも鈴木君とかちょっと言い辛かったんだよね。私もアルって呼んでいい?」
「まぁ好きに読んでいいですよ」
「じゃあアルで!」
「私はハルカとか?」
「いやちょっと名前呼びは抵抗が…」
「じゃあ小早川でいいや。その代わり敬語は無しね同学年だし」
「はい……いや分かった」
なんというか小早川は同学年のわりに大人っぽい雰囲気をまとっているせいで呼び捨てに抵抗を覚える。
「私はユイでいいよ呼びやすいしみんな呼んでるしね」
「んー……分かったユイね」
「アル君?なんでそっちは通る?」
「呼びやすさとか後輩だから…とか?」
「まぁいいけど」
声しか聞こえてないが機嫌が悪いということはなくちょっとツッコミたくなったらしい。
「それであとはリュウ君はリュウ君でいいよね?」
「……ハイ」
結構雑に決まったがリュウも異論がないらしく流れで決まる。
「それで私はニキ先輩?ナオミ先輩?」
「ニキ……姉貴とか?」
「アル君それ語呂だけで強引に行ってない!?」
「姉貴結構いいかも」
「姉貴いいじゃん!」
意外と女性陣から好評だった。
「姉貴……姉貴かぁ…」
ナオミ先輩はすこし困惑していた。
「ウッス姉貴よろしくお願いします」
自我を取り戻しつつあるリュウが声を上げる。
「まぁ……いっか」
まんざらでもないらしい
「よしそれじゃあ愛称は大体決まったね。これからなるべく報告はなるべく敬語は使わないようにすること。でいいかな?」
「了解」
「はーい」
「うっす」
「おっけー」
各々返事をして練習での敗北とは裏腹に明るい雰囲気でオンラインでの練習は終わった。