部室の条件
「つまりマップがランダムって言ってもね1ABCと3ABCは左右対称の地形が割り当てられるから、ゲームが始まったらすぐに何処が攻めやすくてこちらの構成にあった地形かを判断しなきゃ駄目なの」
「って言ったってナオミせんぱーい、誰がゲーム中にその判断出来るんですかぁ」
「それは…まぁ私はゲーム中だと出来る気がしないけど…」
「じゃあもう基本的に2B取りに行ってそこから流れでって感じが一番良くないですー?」
「それは連携が取りづらいランク戦での話だろ?チームで動くならもうちょい捻った動きを考えようぜ」
ランク戦とはオンラインで即席のチームを組み戦うゲームモードだ。名前の通りにランクが振り当てられ、その実力によりゲーム内のマッチングが決まる。
「じゃあリュウ先輩案出してくださいよ」
「なんかほら…あれな…023攻めとか…」
「ふわふわしてる!それなら取りあえず安定してる131,2B攻めでいいじゃないですか!」
131とは2Aに一人、2Bに三人、2Cに一人の配置で、相手がどんな攻め方をしてきても安定してエリアを取る事が出来るという戦略だ。
「なんかないのかアル」
助け舟を出せとこちらを見てくる
「まぁ…俺は131攻め結構好きだからそれが出来るならそれでもいいんだけど」
裏切ったなと「ッチ」と舌打ちをされる。逆に井上はほらみろと言わんばかりにドヤ顔をする
「でも2B地点に沼地とかの行き辛いし守り辛いみたいな地形が配置されたら他の配置にしなきゃ行けないし、他の配置を練習するのは間違っていないと思うよ」
「ほら見た事か、楽すんなよ後輩」
「むー!」
こいつら昨日会ったばかりなのに仲がいいな
「うーっすお前ら」
サエ先生がパソコン室に入ってくる
「いい話と悪い話、いい話から話す」
「選択権はないんですね」
「ない」
実に強引なことで。
「まずいい話、五人揃ったことにより部として認められることになった。」
ナオミ先輩は嬉しそうに拍手する。
「念願のチーム活動が出来るー!やったー!」
後から聞いた話によるとこの部活はナオミ先輩が発案らしく、人一倍この結果に喜んでいるようだった。
ナオミ先輩は小早川さんと結とハイタッチを交わし、我に返ったようにハッとした。
「そ…それで……悪い話の方は…」
「はぁ~~」
話すのも億劫という雰囲気を出しながらゆっくりとしゃべりだす。
「あの狸…いや教頭先生がな、Eスポーツとか良くわからないしパソコン室でもいいよねぇとかほざきやが…言っててな活動のためにはゲーム用のPCが必要だからパソコン室じゃ無理と説明しても保護者に学校でゲームしてるって思われると苦情送ってくる人もいるだのなんだの結果が出せないようだと遊んでるだけになるからだの」
要は教頭先生は保護者からゲームをしているだけの部活なんてとんでもない!という苦情が怖いらしい。
巷ではEスポーツなどと呼ばれているが年配の方々からするとゲームはゲームと思われているという事だ。
「はぁ…お…お疲れ様です。それで~?」
サエ先生の愚痴よりも結果が気になるのかナオミ先輩は催促を始める。
「来週の土曜日に練習試合を組んだからそこで勝てなかったら部室はパソコン室に決定!以上!」
「えーーー!!それってほぼ学校での活動禁止って事じゃないですか!!」
「いやまぁ出来ることもあるだろ…ちょっとは…」
サエ先生は目を逸らす。出来ることはほぼ無いって言ってるようなものだぞそれは。
サエ先生はパチンと手をたたいて続ける。
「まぁいい。取りあえず次の練習試合どうにか勝ってくれ。応援してる」
ナオミ先輩の手を握りながら言う。この先生は結構駄目な人かと思っていたが意外とそうではないのかもしれない。彼女は心の底から俺たちの事を応援してくれている。それはナオミ先輩に向けられた真っすぐな瞳が証明していた。
「先生……それは前に言っていた休憩室の為に…ですか?」
「……」
「先生……?」
「それもある!私の休憩室の為にも頑張ってくれ!!」
やっぱりこの人は結構駄目な人かもしれない。