ATGのルール
「それじゃATGの基本ルールについて説明するね」
そういってナオミ先輩はホワイトボードに図を書き込み始める。
1 2 3
A □〇□
B △□△
C □〇□
書かれた図は3×3のマス目で縦横にアルファベットと数字が書かれたものだった。
「まずこれがATGのマップ。このマス目一個一個にランダムなマップが振り当てられてて、そして一つ一つのマス目にタワーって言う建物があるからそれを制圧すればそのエリアを占領出来る。」
「そうしてどんどんエリアを制圧して多ければいいの?」
「んー多い方がいいけど多ければ勝ちってわけじゃないんだよねぇ」
ナオミ先輩は△がついたところにペンを当てる。
「まずこの三角がついているところ、1B、3Bがホームべースって呼ばれているところ。相手のマザーベースを制圧した場合勝利になるし、こっちのマザーベースを制圧された場合こちらの負けになる。そして勝った方にラウンドが1つ与えられるよ。」
「ラウンド?」
「そうラウンド、このゲームの勝利条件は2ラウンド取る事なの」
「でもこのゲームってドローがなかった?」
「ドローは1ラウンド事に時間制限10分があるからその時間制限までにお互いのマザーベースが制圧されなければドローだね。ドローの場合お互いに1ラウンドずつ入るよ」
「お互い1ラウンドずつ取っている場合は?」
「その場合はラストラウンドって言って時間制限がなくなるの」
「なるほど」
小早川さんはまだチュートリアルを終えたぐらいで基本的な対戦ルールも正確には分からないらしい。
「そして次は……マザータワーの説明をしようかな」
そう言ってナオミ先輩は〇の地点をペンで差す。
「この2A、2Cは制圧している時間に応じて次のラウンドプレイヤーの機体が強くなるの。ラストラウンドの場合は即時強くなるけどね」
「つまり基本的にこのマザータワーを取るのが正解って事?」
「んー取りたいのは勿論なんだけど正解ってわけじゃないかなぁ。上下に分かれているせいで両方取ろうとすると相手が人数固めてきて順番にエリア取られたりするし」
「難しいのね」
ここら辺の戦術は初心者には頭を抱える地点だ。ここで彼女が躓かないことを祈ろう。
「そしてこの制圧したタワー、マザータワー、マザーベースにはもう一つ効果があって、ソルジャーって言うNPCを毎分3体召喚するの。そしてこのソルジャーは相手拠点に向かってABC上を通って進行していくよ。」
「例えば自分が左側で3A、3Cまで制圧した場合どうなるの?」
「その場合は相手のマザーベースに向かって曲がってくれるよ。毎分9体のソルジャーがマザーベースに来るから放置してたらそれだけでマザーベースが制圧されちゃうレベルだね」
「その場合はプレイヤーが行かなきゃ駄目って事?」
「基本行かないと駄目だねぇ。やっぱ人数差がこういうゲームの大基本だからこういうところで人数を割かなきゃいけない時は辛くなるね」
「んーそれを聞くと基本的に攻めが有利な気がする」
「それじゃあ守り側が有利な点も教えておこうか。まず一つ目にまずは各マス目とマス目の境目ウォールって呼ばれるところだね。」
「あの白い煙の壁?」
「そうそう白い煙の壁、ウォールは反対側の光景を見れないし、音も確認できないし、ウォールを超えたら20秒間は再度同じウォールを超えることができないから、もしウォール超えた先で敵が待ち伏せてたってなるとゲームオーバーだね。でもウォールは弾を通すから、ウォール反対側に索敵系スキルとばしてこっちは一方的に撃てる状況作るってのもできるよ」
「ソルジャーの進行を待つのは駄目なの?」
「まぁ基本的に正解だけどソルジャーってマップには動いてる、止まってる、生きているぐらいの状況しか分からないからウォールの向こう側に行ったソルジャーが死んでも敵のソルジャーにやられたかパワーユニットにやられたかの区別すらつかないんだよね。さらにソルジャーの機動力も遅いから待ってるとどんどん相手に一方的にエリア取られちゃうね」
「相手の人数も分からないって事?」
「まぁ感覚でちょっと分かるけどな」
ちょっと専門的な事で口を挟みたくなったのかリュウが割り込む。
「どういうこと?」
「ソルジャーが止まってから死ぬまでの時間の早さだよ。すぐ死んだら基本的にパワーユニット相手だし。動きも止まらずに即消えたら相手は複数のパワーユニットって分かるしな」
「んー難しい」
「まぁこのレベルになると上のランクでも見れてない人だらけだし気にしなくていいんだけどな」
初心者に言う話ではないとリュウが話を切る。しかし意外にも初心者だし理解しなくていいと切り捨ててもよい部分だが、小早川さんは下を向いてブツブツと小さく呟きながら考え込んでいた。
「まぁ後は20体ぐらいいるパワーユニットの役割とか序盤の人数配置とかの説明とか説明することはいくらでも残ってるよー」
「お…お手柔らかに…」
小早川さんの笑顔は引きつっていた。
「あーもう疲れた疲れたぁー!」
途中から話に参加した井上が音を上げる。
「あんたは途中1時間しか参加してないでしょ」
「えーもうこういう話疲れるープレイしたいっ!」
「パソコン室にはATG入ってないから帰ってからね。時間もいい感じだし今日は終わろうか」
ナオミ先輩のその言葉に全員が帰宅準備を始めていると、パソコン室のドアが開いて人が入ってくる。
「うぃーいナオミどうなったー?」
「サエ先生、お疲れ様です。」
軽い雰囲気を持つこの女性は、斎藤冴先生だ。先生とは思えない緩さとフレンドリーさを兼ね備えていて女生徒からの人気が高い。
「それで見学の二人はどうなった?」
「あーそれは…」
ナオミ先輩はこちらを向く。改めて回答を聞きたいのだろう。
「んー」
どうしよう。決心がつかない。前のチーム活動のようにギスギスした雰囲気になることも嫌だし、かといって勝とうとしないチームでグダグダと適当にやるのも嫌だ。そう決めかねているとリュウが突然肩に手を掛けて言ってくる。
「俺は”賭け”てもいいと思うぜ」
振り返るとリュウと目が合う。彼はうだうだと悩むタイプではないが直感は優れている。その彼が言うのだこのチームは面白くなるだろうと。
「じゃあやるか?」
「ああやろうぜ」
そう言ってリュウは拳を突き出す。俺はその拳に自分の拳を突き合わせる。
「改めまして2年A組藤井竜也」
「2年A組鈴木有作」
「「eスポーツ部に加入させていただきます。よろしくお願いします。」」
二人で頭を下げると、パチパチと他の部員3人から拍手が起こる。
サエ先生は「よしっ!」と一言いうと入部届を机に置く。
用意がいい、というよりかは折角見つけた部員を逃がさないという圧を感じる。
「早く書け書け」
サエ先生からの催促を受け入部届を書くとすぐにサエ先生はその紙を取り上げ
「これであの狸を説得できるな」
と言って戻っていった。
狸とは多分この学校の教頭先生だろう。
「改めてよろしく」
ナオミ先輩はそう言って手のひらを出す
「こちらこそよろしくお願いします」
握手を交わし、ここに西台高校eスポーツ部が結成された。