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鬼多見奇譚 参 戦慄の人造神  作者: 大河原洋
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「マサムネくーん! おかーさーん!」


 紫織は暗闇の中を歩き続けていた。


 何時いつからこうしているのか自分でも判らない。少し前からのような気もするし、もう何年も歩き続けているようにも思える。ここに来る前、何をしていたのだろう?


 大好きな人たちと楽しい時間を過ごしていたような気もするが、どうしてこんな事になってしまったのか思い出せない。


「だれかーッ、だれかいないのーッ?」


 叫びに応える声はない。寂しくて、心細くて、怖くて、涙が溢れる。


「おねぇーちゃーんッ、ジィジーッ、おじちゃーん!」


 声は闇に飲み込まれる。


「ボンちゃーんッ、アキにいちゃーん! ……おとうさーん!」


  ここはどこ? どうしてまっくらなの? どうしてダレもいないの?


 世界は滅んで自分だけ取り残されてしまった、そんな荒涼とした思いが心を支配する。


「マサムネくーん!」


 呼べばいつでも直ぐに駆けつけてくれる犬の名前を再び叫ぶが、周りはせきとして空気の揺らぎすら感じられない。


「みんな……みんな……どこ……?」


 歩き疲れて、とうとうその場にうずくまる。


 紫織は赤ん坊のように泣き出したが、それも長くは続かなかった。それほどろうこんぱいしていた。


  ダレでもいいから、へんじしてよ……。


 紫織……


 誰かに呼ばれたような気がして、少しだけ顔を上げる。

 

 周りは相変わらずの闇で、眼を閉じているか開いているのかもよく判らない。再び顔を伏せようとすると、


 紫織。


 先ほどよりハッキリと声が聞こえた。しかし、顔を上げると、やはり誰もいない。


 紫織、こっちだよ。


 また声が聞こえた。改めて首を巡らすと、遠くに光が見えた。


 こっちへおいで。


「ムリだよ、もうつかれた……」


 独りぼっちは嫌だろう? だったら頑張るんだ。ここまで来れば僕がいる。


 紫織はヨロヨロと立ち上がり、今度は光に向かって歩き始めた。


 中々近づけなかったが、それでも少しずつ光は大きくなっていく。


 やがて光の中に人影が見えた。


「あんたは……」


 中の人物の顔がハッキリ見えるまで近付いた。


「よくここまでたどり着いたね、紫織」


 少年は手を差し伸べた。


「僕が誰かわかるかい?」


「ヒムロ タツヤ」


「うん。もう、君は独りじゃない。君には僕が、僕には君がいる」


 再び紫織の頬を涙が伝う。だが、これはあんの涙だ。紫織は差し出された達也の手をギュッと握りしめた。


   *   *   *



 そこは窓一つない暗い部屋で、ある物はベッドが一台だけだ。


 紫織はそこで横になっていたが、今は立ち上がり、スポットライトの光の中にいる御子神の手を握りしめていた。


「そうだよ、紫織、君には僕がいる。だから、僕の言う事に必ず従うんだ。そうすれば、僕は君の側から離れない」


「うん……」


 うつろな表情で頷く彼女を見て、御子神は口元に笑みを浮かべた。

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