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鬼多見奇譚 参 戦慄の人造神  作者: 大河原洋
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逢瀬町

 天城はオデッセイを逢瀬町にある自転車屋の前で止めた。ここで悠輝と朱理が落ち合う予定だ。


「じゃあ、気をつけてね。何かあったら必ずボクの番号に連絡してくれ」


「はい、ありがとうございます」


 ここは戌亥寺から一番近い自転車販売店『アンドーサイクル』。スポーツタイプの自転車を中心に扱っている。店主とは直接面識はないが、鬼多見家とは古い付き合いで、信用出来る人物との情報を得ていた。


 今、悠輝が牧田診療所に出入りする姿を見られるのは避けたい、どこから警察やアークに情報が行くか判らないからだ。遙香を守るためには、別の場所で落ち合う必要があり、そこで彼が指定したのがこの店だった。


「ボンちゃん、マサムネくん、早く元気になってね」


 後部座席で朱理は、一緒に乗っていた梵天丸と政宗をギュッと抱きしめる。二匹ともまだグッタリとしているが、朱理が自分たちから離れるのを察し、淋しげにクゥ~ンと鳴いた。


「朱理ちゃん」


 助手席の明人が呼んだ。


「自信を持って。朱理ちゃんは決して弱くないし、もちろん無力でもない。

 いきなり叔父さんみたいになれないのは当然だよ、験力が弱すぎるぼくは一生なれないけどね。

 でも、朱理ちゃんはいずれなれる。だから、今はお互い出来る事をやろうよ、ね?」


「はい」


 クルマから降りると、少女は深々と頭を下げた。


「それじゃ、またね」


 朱理を残し、オデッセイは走り出した。明人と二匹の犬は心配そうに後ろを眺めている。


「さてと、気持ちを切り替えよう。キミの言った通り、今、出来る事をやらないとね」


「そうですね!」


 明人が慌てて天城の方を向く。


「これからどうするんですか?」


「先ずはコイツを処分しないとね」


 スマートフォンが三台入ったプラスチック袋を、明人の顔の前でブラブラさせる。朱理と遙香、そして悠輝の物だが、何故か悠輝の液晶は割れている。


「悪いが、キミのスマホも一緒だ」


「GPSの追跡を巻くためですね」


 天城は満足げに頷いた。


「牧田診療所にハルちゃんが居ると思われないよう、偽装しないとね」


 牧田夫妻は今回の件に非常に協力的だ、偽装がバレた場合の対処も話し合っている。


「その後は?」


「アイツとの約束だ、キミたちの安全を最優先する。となると、一カ所にジッとしているのは愚作だな」


「移動している方が見つかりにくい? でも、政宗たちが……」


「だ~いじょうぶ、ちゃんと考えているさ」


 ニヤリと不適な笑みを浮かべる。


「ところで、いいんですか?」


「ん?」


「アークを自分の手で潰したいんでしょう?」


「ボクが素直にあきらめるのはおかしいかい?」


 天城は苦笑した。


「たしかにボクらしくないかもしれない。でも、探偵は信用が第一、約束は守るよ。

 ただし、鬼多見との約束は『キミたちと安全な場所にいる』だ、それ以外はしていない」


「何をするつもりです?」


「すぐに解るさ。でも、その前に……」


 天城はアクセルを踏み込んだ。


 オデッセイは逢瀬町を抜け、東へと向かい、島協立病院に到着した。


 明人にスマホを初期化させ、自分は朱理と遙香の物に同様の処理をした。


 悠輝のスマートフォンは操作不能になっているので、マイクロSDを抜き、更に踏みつけて完全に破壊する。


 そうして、これら四台を病院の脇を流れている川に投げ込んだ。


「さあ、次に行こうか」


 天城は再びオデッセイを東に走らせた。


 一〇キロほど移動し阿武隈川あぶくまがわを越えて、民家のほとんど無い森林地帯へと入った。彼女は、その森に埋もれるようにして建っている一軒の家にクルマを止めた。


「ここが目的地だ」


 天城はクルマを降りた。


「ここは?」


 明人が続く。


「ボクの秘密基地さ」


「ここに身を隠すんですか?」


「少し休息するだけだよ」


 そう言いながら、家の隣にある大きなガレージに向かいシャッターの鍵を開ける。


「家に比べて、こっちは新しいですね?」


「気が付いたかい? コイツを隠しておくために、ここを借りているからね」


 シャッターを勢いよく開ける。


「キャンピングカー?」


「ああ、『マッシュ』ていう車種を改造した、ボク専用の移動要塞だ」


 言いながら車体の側面にあるドアを開け、中に明人を誘う。


「これは?」


 本来ならシートやテーブル、キッチン、そして収納があるスペースに、様々な機器が設置してある。


「警察無線の傍受装置や盗聴の受信機などなど、もちろん非合法な物さ」


「えッ?」


 明人が青ざめた表情に、思わず口元が緩む。

         

「そんな顔するなよ、相手はアークソサエティだぞ。君が警察に頼れないのは何故だ?」


「アークの信者が紛れ込んでいるから……って、でも!」


「法の範囲内じゃ、個人でアークに対抗するなんて到底ムリさ」


 明人は肩を落とした。


「解りました。それで、ぼくは何をすればいいんです?」


「まず、ワンちゃんたちを運転席の上にあるベッドに運んでくれ。梵天丸くんはともかく、政宗くんは大変だろうけど頼むよ」


「了解です」


「その後はしばらくここで待機しながら、警察の無線を傍受して鬼多見の情報がないか確認する」


「あったらユウ兄ちゃんに報せるんですね」


「うん。それじゃ、さっそく始めようか。

 そういやキミ、高三だよな?

 受験勉強もあるだろうに……」


「それどころじゃないでしょ?」


「たしかにね」


 二人はオデッセイから犬たちをキャンピングカーに移動させ、悠輝の情報収集を開始した。


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