表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼多見奇譚 参 戦慄の人造神  作者: 大河原洋
11/46

戌亥寺

 けいだいに人の気配は無かった。明人はの玄関で三人倒したと言っていたが、争った形跡は残っているものの信者の姿はない。念のため、神社の方にも行ってみたが誰もいなかった。アークが回収に来たのだろう。朱理たちの避難が遅ければ鉢合はちあわせていたかも知れない。


 改めて庫裡の中に入る。物色されていたが、雑に漁っただけのようだ。本堂は確認していないが、社は荒らされた形跡はなかった。斃された信者の回収を最優先したのだ、周りに民家が少ないとは言え皆無ではないし、檀家が訪れる可能性もある。マスコミに取り上げられれば、火消しに多少なりとも時間がかかるし、世間も半年前の事件を忘れてはいない。さすがに用心はしている。


 その時スマホの着信音が鳴った。取り出して画面を見ると、バニーガールの格好をした天城の画像が表示されている。


  なんだこれ……


 呆れつつ電話に出る。


「お前、自分の画像、もっとまともな……」


〈そんなことより、今、どこだ?〉


「戌亥寺の庫裡にいる」


〈近くにテレビはあるか?〉


「ああ」


 嫌な予感を覚えるまでもなく、確実に悪い事が起こっている。茶の間に急いで移動した。リモコンはテーブルの上にあったので、直ぐさま電源を入れる。


 いきなり自分の顔が画面に映し出された、しかもかなり人相が悪い。こんな顔をしたのは数時間前、勢至堂渓谷聖堂に乗り込んだ時だ。


「鬼多見悠輝容疑者は、宗教法人アークソサエティの信者を三名を殺害、八名に重軽傷を負わせ……」


 段取りが良すぎる、やはり警察やマスコミにも信者がいるのだ。


〈これで全国指名手配だ。どうだ、ボクの助けが要るだろ?〉


「こんなに早く朱理たちにバレたのは残念だが、想定内だ。明人と犬たちを頼む。お前だってマークされているかもしれない」


〈『かも』じゃない、とっくの昔にされている。

 まったく、この期に及んで強情なヤツだな。ま、明人くんたちは任せてくれ〉


「ああ、頼んだ」


〈それと、なるべく派手な服に着替えろ〉


「え?」


〈ニュースでお前の服装が流れている、それとは全く違う格好にしろ。それに服が目立てば顔は印象に残りにくい〉


「注目されるだろ?」


〈MTBに乗るなら、メットとゴーグルを着けるだろ。コソコソすると却って怪しまれる、堂々と目立った方がいい〉


「なるほど……」


 何だかんだ言っても、はさすがは探偵だ。


 通話を終えると、すぐに青いシャツとグレーのデニムパンツから、白のシャツとコットンパンツに着替える。


  白装束か……


 鏡に映った姿を見てげんなりする。アークソサエティの信者みたいだ。


  もしくは、死に装束か……


 縁起でもない。頭を振って嫌なイメージを振り払い、服の下に鈷杵こしよ数珠じゆずなどの法具を仕込んでおく。今回は信者相手だが、借り物の霊能者が多いので必要になるだろう。


 準備が一通り終わると、自分と朱理のMTBをそれぞれ左右の肩に担ぎ、山門の石段を降りた。自転車が無事だったのは幸運だ。


「鬼多見悠輝さんですね?」


 いつの間にか背後に男の子が立っていた。


「何だお前は?」


「僕は氷室達也、がみと呼ばれています。

 ニュースは御覧になりましたよね?」


 彼は能面の様な表情で淡々と言った。


「やってくれたな」


「自首をお勧めします」


「坂本に伝えろ、紫織を素直に返せば命だけは助けてやってもいいってな」


「話し合いは無駄ですか、残念です」


 突然視界が歪むと、眼の前が真っ暗になった。


  ここは……?


 闇に眼が慣れてくると、そこが庫裡の廊下である事が判った。


 真夜中の廊下を悠輝は進んで行く、そして台所へ入った。


 誰かが立っている。


「おねぇちゃん……」


 自分の意思とは関係なく言葉が出た、それもかなり幼い声だ。


  ったく、どいつもこいつも人を子供に戻しやがって。


 法眼にも幻術で子供に戻されて、非道い目に遭わされた事がある。


 悠輝の呼びかけに、遙香は背を向けたまま反応しない。背格好からすると中学生くらいか、ならば自分は三、四歳だろう。


「ふ~ん、面白いな。心が未熟な子供の頃を見せた事は評価してやる、前鬼だか後鬼だかよりはマシか。

 しかし、まだまだだ。おれをたおしたいなら、そんな離れた所じゃなく眼の前に来い」


 意識を現実に戻すと、場所も石段の前に戻る。


 今まで無表情だった御子神が、口元に笑みを浮かべた。


「これは挨拶代わりです、近いうちに会いましょう」


 言い終わると姿が掻き消えた。


 氷室達也は、勢至堂渓谷聖堂からこの戌亥寺に幻影を飛ばしていたのだろうか、大した異能力ちからだ。


  あのガキ、まがい物じゃないな。だからと言って、天然物とも違う。何だアレは?

  それにしてもあの幻覚、ただのまやかしか、それともおれの記憶……?


 何か引っかかるが今はそれどころではない、急いで朱理を迎えに行かなければ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ