愛する番の生まれ変わりの行方を捜してくれと、占い婆のもとへやってきた竜。運命の番とやらの生まれ変わりは一体どこにいたのでしょうか?
「私の愛する番の生まれ変わりを探してほしい」
「……番というものは運命のはずだろう。あんたがわからないって」
あたしは目の前にいる紅の目に白い髪をした男が、強い力を持つ存在だということはわかっていた。
竜の番は運命の相手で、絶対にわかるはずだが。
「……生まれ変わったはずの娘が16になればわかるはずだが」
「わからないっていうんだね」
あたしはどうしてこう間抜けな竜がいたもんだいとため息をつく。まぁあたしがこの男を好かないというのもため息の理由のひとつだがね。
「その娘の年齢は16でいいんだね? 名前は?」
「生まれ変わる前はテレサといった。その前はユーリア、その前は……」
「はじまりとやらでいいよ、名前は?」
「エメラルダ」
「何代前だい?」
「20代前だ」
「エメラルダ、年齢は16の娘」
あたしは水晶玉に手を翳す。竜の客ってのは初めてだ。
66歳になるまで、変な客をたくさんみてきたがね。
「……ああ、この娘だね」
「やけにすんなりわかるんだな」
「あたしは師匠に弟子入りしたときに占い師としての力は一級といわれたんだよ!」
水晶玉に映るのは青い目に金色の髪の娘、名前は? と尋ねられたので、それくらい自分で調べな! とあたしははねのけたね。
「感謝する。確かにこの娘の魂には我が番である刻印がある。これは礼だ」
「金貨1枚でいいよ。100枚以上なんて受け取れないね」
じゃらりと袋に入った金貨を差し出そうとするが、人探しは金貨1枚って決まっている。
しかしそれでも庶民の給金の半年分だよ。
「……お前の力は本物だな、名前はなんといったか?」
「あんたに名乗る名前はないね」
かなりの美形だが、なんだろうねえあたしはこういう顔は好かないね。
袋から金貨1枚だけあたしは受け取り、あとは返した。
しかし竜がここにやってくるなんてねえ。まあわかっちゃいたけどね。
あたしは完全に竜の姿がなくなるのを見届けてから、あんた出ておいでよ! と奥にいる人間に声をかける。
「あいつ、帰ったな」
「そうだね、あんた、殺気が漏れてたよ。害意を悟られてたらあんた殺されてたよ」
「逆に殺してやってもいいがな、運命の相手とやらがわからないバカ竜だからな」
出てきたのはあたしの旦那さ、ふうとため息をついてよっこらしょとあたしの横の椅子に腰を下ろす。
「魂の刻印がうまく移植できていたようだな」
「あんたの刻印魔法は天下一だからね。しかしあの娘も馬鹿だねえ。永遠の若さがほしいなんてさ」
あたしは旦那に寄り添い、ふうとため息をつく。
水晶玉に映った娘は永遠の若さが欲しいとかなんとかあたしに言ってきたのさ、あたしの遠縁のこの娘は自分の美貌を永遠にしたいとかなんとか。
あたしは魔女じゃなくて、占い師だよ!
「あの娘を番としてさらっていくのだな。思えば憐れな竜だな」
「あたしは、あんなのと番とやらになりたくないのさ、しかも、あたしは66歳だよ! あんな見かけ孫くらいの旦那なんてもちたくないさ!」
「そりゃそうだな、わしとて62歳だしのう」
「年下旦那といってもあんたくらいがせいぜいさ!」
あたしは旦那と笑いあう。あの竜の番とやらはまあ実はといえばこの婆さ。
16の年の時に番とやらとして覚醒するはずだったんだがね、この国一番の魔法使いといわれた旦那がそれを阻止したのさ。まだ12の幼子だったのにすごいよね。
「どうしていまさら番を探し始めたのかねえ」
「あいつにとってはわしらの50年なんて一瞬みたいなもんだろうが、さすがに焦り始めたんだろう。番が死んで長くても20年ほどで番の娘がいつも見つかっていたようだからの」
「あんたが占い師のあたしのことを噂であいつに吹き込んでくれて助かったよ。番の刻印とやらの移植前にあたしのことを他の占い師に突き止められても迷惑だったしね」
「そうだな」
番というものは魂に刻印として刻まれているのさ、あたしの旦那はその刻印をあたしの遠縁の娘にうつしたってわけ、本人の了解はとってあるよ。
不老の魔法をあの竜は持っている。不死の魔法はないが、寿命で死ぬまでは若さを保てるって話をしたら飛びついたね。
これまでの番としての生まれ変わりの記憶はすべてあの子に託したからうまく演じられるはずさ。
「しかし生まれ変わりなんぞ、生まれ変わった時点で別人じゃろ? なのにその生まれ変わりを探し続けるなんて憐れじゃのう」
「あたしが生まれ変わったらあんた、あたしをまた嫁にしてくれるつもりかい?」
「生まれ変わった記憶がないからわからんのう、生まれ変わったらお前はお前じゃなくなるだろう? わしのアリスや」
「まあそうだね、生まれ変わってまたあんたに出会えたらあたしもまた考えるよ」
そろそろ店じまいだねとあたしは旦那に笑う。孫のティアラがシチューの作り方を教えてくれといってたからそろそろ家にやってくるはずさ。
「……しかし番とやらに拒否されるとは」
「あたしはねえ、生まれ変わりとかそういうのは大嫌いなんだよ! テレサとかなんとか言ったかその記憶はあるが、あいつに無理やり攫われて、年をとることもできず囲われるなんてまっぴらごめんだったんだよ!」
「まあわしの魔法でなんとか阻止したがの」
「今更探し出すなんて思わなかったんだよ、本当にバカ竜だよ」
「憐れな男じゃのうやはり……」
あたしは旦那の手を取って、あんたのほうがいい男だよと笑う。旦那がそうか? と笑う。
皺は増えたが、小さいころの笑い方から変わってないねえ。
あたしはねえ、テレサの時だって、はっきりいってあいつを愛してなんかいなかったさ。悪役令嬢とか言われた性格の悪い娘で婚約破棄されて自棄になってついていっただけなんだ。
あわせてやっていただけ、だってあいつの機嫌をそこねたら家族を殺すと一度脅されてね。
ああ、せいせいした。あれから離れられた。
あたしはありがとうと旦那に笑いかけた。旦那は間抜けな竜じゃのうと笑う、好きな女に拒絶されるのはつらいのうというが、こんな婆なんぞ番にしたくないだろとあたしは思う。
永久に若く美しいお前が愛しいとかいってやがったが、そんなのはもうごめんだね!
婆になって、爺の旦那を持ち、愛しい娘と孫に囲まれている今の生活が一番幸せなのさ。
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