わたしをみて!
彼とはもう三年ほどのつきあいになる。
三年。たいして長くないと思うかもしれないけれど、ずっと一緒だったぶん、きっとふつうの三年よりずっと濃厚だ。
つきあいといっても、恋人同士の関係ではない。
わたしが一方的に思いをよせているだけ。
彼はわたしをそういう相手としてみてはいない。
距離が近すぎるのがいけないのだろうか?
でもわたしは彼からはなれたくないし、離れられない。
でもずっとこのままっていうわけにもいかない。
もしかしたら、叶わない恋なのかもしれない。
愛。
彼のわたしに対するそれは家族にむけるものに近い気がする。
だいじにしてもらっている自覚はある。今まではそれがなによりうれしく、すてきなことに思えた。
けど今はそれじゃものたりなく感じてしまう。
なんてみにあまる、贅沢ななやみなのだろうか。
彼は小学校のころから足が速かったらしい。
だから中学生になって、陸上部にはいったそう。
どうして私たちから運動神経のいい息子ができたのか不思議だわ、なんて彼のお母さんはいっていた。
わたしは運動ができないから、放課後は彼と離れるようになった。
彼は走り幅跳びの選手だった。
とんでいるとき、いったいどんな景色が見えたのだろうか?
どれだけ近くにいても彼と共有できない世界が、わたしにはとても気になった。
彼は運動だけでなく勉強も得意で、いろんなことを知っていた。
休みの日にはいっしょに、本をよんですごした。彼がすごい速さで、あまりにたくさん読むものだから、わたしはすごくあせった。
けれどあまりに熱心だったし、とめることはできなかった。
メガネとった方がかっこいいじゃん。
あるとき彼の、隣の席の女の子がそういった。
彼の素顔がかっこいいのはわたしが誰よりもよくしってる。あなたがはじめて見つけたみたいに言わないで。
そういってやりたかったけど、いえなかった。
そのとき、彼は照れたような顔をしていた。
思えばそのときのことがきっかけだったのかもしれない。
彼は高校生になってから、コンタクトレンズをつけていくようになった。
運動部だから、なんて言い訳みたいに言っちゃって。
確かにかっこいい。でもわたしは、それをもてはやす気にはならなかった。
高校で彼といっしょにいる時間はさらに短くなった。
けれどわたしは、それでも実はほっとしていた。
高校を受験する前、彼があまりに熱心に勉強をしていたから、いっしょにいられなくなる心配ばかりつのっていたからだ。
まだ近くにいられるみたいで、よかった。
それに今までずっといっしょだったから、少し離れてみてもいいかもしれない。
すこしはわたしを恋しくおもってくれればいいな。
入学してしばらく経った。
はたして願いが通じたのか、彼がよくわたしといっしょに勉強してくれるようになった。
どうもその方がはかどる気がするらしい。
へんなの、と思った。
うそ。すごくうれしかった。
そんなある日のことだった。
「おーおまえ、メガネかけんだ?」
「ホントだ。めずらし~」
教室でいっしょに、勉強していた時、彼の友人たちが声をかけてきたようだ。
「ああ。この方が、勉強に集中できる気がしてね」
「度はどれくらいなんだ?ちょっとかしてくれ」
「おっと、いいけど気を付けて頼むよ。スペアは持ってないんだ」
まったくだ。落としたりしたら一大事。
「おわっ、結構度つよいな。」
「そうか?買ったのもう何年も前で、ちょっと弱いくらいなんだが」
・・・うそ
「ああ、お前めちゃくちゃ本読むもんな。目も悪くなるだろ」
「えー?別のに買い換えた方がいいんじゃない?」
やめて、お願いだから、
「いや、そのつもりはないんだ」
「なんでかわからないんだけど、俺、こいつがひどく気に入っちゃてさ。同じフレームの新しいやつにするのもなんか嫌で、壊したくもないんだ」
「そりゃまたけっこうな執着で」
「あー、だから普段はかけてなかったんだね」
「まったくおかしな話だろ?本来かけて使うものなのに、大事においてあるなんて」
「いやわからんでもない。おれの陸上のスパイクもそんな感じだったりする」
「でもなんで最近になってまたかけ始めたの?」
「いや、なんだ、」
「こいつが恋しく感じたからさ」
わたしにかおがなくてよかった。きっとレンズを曇らせちゃうから。
執着が恋であるならば、僕はきっと、誰にだって、何にだって恋している。