漫才「生中継」
漫才「生中継」
配役:ボ……ボケ
ツ……ツッコミ
二人「よろしくお願いします」
ボ「最近新しい仕事が決まってさ、テレビの生中継でいろんな場所をレポートをするんだ。すごく楽しみ」
ツ「良かったじゃん。でも、初めてで不安じゃない?」
ボ「そう。だから生中継の練習したいんだけど、付き合ってくれない?」
ツ「いいよ。僕はスタジオのアナウンサー役をやればいいのかな?」
ボ「話が早いね」
ツ「僕と君の仲じゃん。……さあ、ボケさんに中継がつながっております、ボケさん」
ボ「ブクブクブク」
ツ「どうかしましたか?」
ボ「現在、私は水族館の水槽の中にいます」
ツ「なんでだよ、陸上でレポートしろよ」
ボ「この巨大水槽は、なんと世界最大。今回は酸素ボンベを背負いダイビングをして、こちらを体当たりでレポートします」
ツ「頑張ってください」
ボ「水槽のガラスですが、縦は三十メートル、横は五十メートルもあります」
ツ「巨大ですね。魚を思う存分鑑賞できそうです」
ボ「はい、感動しますよ。こちらの中には約百種類の生き物、合計数万匹が飼育されています」
ツ「すごい数。迫力満点ですね」
ボ「その九割がナマコです」
ツ「きんも。もぞもぞ動くだけじゃん」
ボ「白い液体も出しますよ」
ツ「ナマコの雑学は結構です」
ボ「下の方でひしめき合っていますね。水槽の底がナマコで見えない」
ツ「それはそれで迫力がありそう」
ボ「映像をそちらに送ります」
ツ「あ、結構です」
ボ「周りの方にこの水槽の感想を聞いてみましょう。こちらの水槽はどうですか? マグロさん? あ、逃げちゃいました」
ツ「誰に聞いているんだよ、人間に聞けよ。マグロは止まらないよ」
ボ「今度はお客さんに話を聞いてみたいと思います」
ツ「お子さんに聞いていただけますか?」
ボ「お嬢ちゃんちょっといいかな? 私の酸素ボンベの残量がゼロなんけど、どうしよう?」
ツ「何を聞いているんだよ。早く上がれ」
ボ「嘘ですよ、生死に関わるので」
ツ「生中継では本当のことを言ってください」
ボ「実は私、この水槽でおしっこしてしまいました」
ツ「やめろ、別に言わなくていいことだろ」
ボ「その他の生き物ですが、アジ、タイ、ヒラメなども飼育されています」
ツ「まるで寿司屋ですね。人気のジンベイザメやエイはいませんか?」
ボ「ほかは、イクラ、エンガワ、ネギトロですね」
ツ「寿司のネタじゃねえか。そんなもの泳ぐか」
ボ「訂正します。こちらの水族館は寿司屋も併設していて、そちらのメニューですね」
ツ「魚を見て楽しむ、食べて楽しむ。素晴らしい水族館ですね」
ボ「この水槽で泳いでいる魚も提供されるそうです」
ツ「巨大な生け簀なんですね」
ボ「近日中には私のおしっこを飲んだ魚も提供されますよ」
ツ「おいやめろ。食欲がなくなる」
ボ「ちなみに、一番人気のネタはマグロです」
ツ「みんな大好きですよね」
ボ「逆に人気のないネタは、ナマコです」
ツ「だろうね、僕もナマコを食べたことないし」
ボ「こちらにいらした際には、ぜひ召し上がってください。臭みも無く歯ごたえがあって、噛めば噛むほど旨味が出
てきて癖になりますよ。見た目からは想像できない繊細な味です、ポン酢でどうぞ。現場からは以上です」
ボ「どう? 俺のレポート」
ツ「全然向いてないね」
ボ「そんな~」
ツ「なんで水中でレポートするの?」
ボ「そこに海があるからさ」
ツ「サーファーかよ。理由になっていないよ、海じゃないし。あと、大事なことを伝えていないよ。水族館の名前も、場所も、交通手段も分からなかったよ」
ボ「ごめん。他にもアドバイスある?」
ツ「ナマコの味の説明に力を入れすぎ。でも僕、ちょっと食べてみたいと思った。食レポは上手かもね」
ボ「よっしゃあ。それじゃあ、改善点を踏まえて、再挑戦していいかな?」
ツ「いいよ。……中継がボケさんにつながっています」
ボ「ブクブクブク」
ツ「また水中かよ、ダイビングが好きだな」
ボ「現在私は、北緯42度、西経50度、沈没したタイタニック号にいます」
ツ「なんでだよ。想定外の場所だな」
ボ「交通手段は飛行機で、成田空港からシカゴ、モントリオールを経由して、カナダのセントジョーンズ空港まで行き、さらに船に乗ります」
ツ「遠すぎるわ、気軽に行けねえよ」
ボ「ちなみこちら、水深四千メートルです」
ツ「深海魚かよ。ダイビングの深さじゃない」
ボ「ちゃんと、施設の名前も、場所も、交通手段も完璧に伝えられたでしょ?」
ツ「場所のチョイスがおかしいんだよ」
ボ「魅力的な観光地だと思うんだけどな。あ、海底なんだから潜水艦の方が正しかった」
ツ「行き方はどうでもいいよ。というか、なんで水中ばっかりなの?」
ボ「どうしてもレポートしたい場所があって、そこは海の中なんだ」
ツ「どんな場所なの?」
ボ「竜宮城なんだけど」
ツ「ねえよ、無理だよ。いい加減にしろ」