俺のことが大好きな世界で一番可愛い妹
久々に小説書きました。よろしくお願いします。
「集まってもらったのは他でもない」
俺は学校帰りに寄ったファミレスで正面に座った幼馴染にどこかで聞いたことのあるよなセリフを口にしていた。
「今世紀最大の悩みを聞いて欲しいんだ」
そんな俺の真剣な言葉に、対面に座る幼馴染……斎藤紗奈はスマホを片手にフライドポテトを摘まみながら適当な返事をする。
「んー」
「って人の話をちゃんと聞けよ!」
やれやれといった表情で紗奈はスマホから顔を上げ、俺と目を合わせる。
「それで? 悩みって何なの? あたし友達と予定あったのに」
「それに関してはほんとすんません!」
予定がある中わざわざ付き合ってくれた紗奈に俺は素直に頭を下げた。ここのお代は俺が奢るので今回の借りはチャラにして欲しい。
「ごほん」と俺は一度咳払いをして、話を仕切り直す。
「それで相談なんだが……」
真剣に聞く気になった紗奈に対して俺は先日起きた人生最大の悩みを打ち明けるのだった。
★
俺こと天月秋人には一つ年下の妹がいる。
その名前を白雪といい、透き通るような白い肌に腰まで届く程の黒く艶やかな髪。そして才色兼備、スポーツ万能という完璧美少女だ。
そんな妹との出来事が今回の相談内容だ。
「ただいまー」
その日は学校帰りに友達と寄り道をして少し遅めに帰宅した。両親はどちらもまだ仕事中らしく、玄関には白雪の靴しか置かれていない。
俺は自室には直行せず、いったんリビングへ入る。明かりがついていたため白雪がご飯の用意でもしているのかと思ったがそこは静寂に包まれていた。
「白雪?」
気がつくと白雪はソファーでスマホ片手に寝落ちしているようだった。
すぐに起こすこともないと思い、俺は一度キッチンで手を洗う。今日の夕飯はハンバーグのようだ。
手を洗っているとガタンという音が聞こえてきた。どうやら白雪が、持っていたスマホを床に落としてしまったみたいだ。
俺は丁寧に手を拭いて、落ちてしまったスマホを拾う。画面にヒビが入っていないだろうなと思いながら画面を覗いてみると、そこに写っていたものに俺は息を詰まらせる。
「……っ」
俺が拾った白雪のスマホ。その画面には寝顔が写っていたのだ……それも俺の。
「え? どういうこと?」
スマホの写真アプリの中に俺の寝顔写真が無数に保存されていた。悪いと思いつつもアプリをいじってみる。その中には兄さん1、兄さん2、兄さん3……とアルバム分けされて俺の盗撮写真が大量に保存されていた。
「……」
俺は無言のままスマホをスリープモードにしてそっと近くのテーブルに置く。そして白雪の眠るソファーとは反対側に腰を下ろす。
「つまり」
無邪気な顔で涎を垂らして寝ている白雪を前に俺は今見た光景のことに対して一つの結論を導き出す。
「白雪は俺のことが好きなのか?」
ここではライクではなくラヴで。それも盗撮写真を大量に保存するほどのストーカー気質。
★
話を聞き終わった紗奈は食べ終わったパフェ(話の途中で追加注文した)をテーブルに置き、丁寧に口元を拭く。そして長い間を置いてから……。
「ついにバレたかー」
「は!? バレた?」
「なんなら白雪ちゃんわざとバレるように仕向けたまであるね」
「え? どういうこと? 紗奈知ってたのか? 白雪が俺の事好きだって。いつから?」
紗奈の発言が予想外過ぎて思わず質問攻めにしてしまう。
「知ってるも何もはたから見ればわかるわよ。多分おばさんとおじさんもわかってるんじゃない?」
「父さんと母さんまでわかってるのかよ! 俺全然気づかなかったんだけど!」
「そりゃあんたは鈍感すぎるからね。だから白雪ちゃんはこういう方法取ったんじゃないの?」
「うっ……」
確かに白雪は基本的には誰にでも優しいいい子なのだが、実際はかなり計算高くて腹黒い。だから寝たふりをし、わざとスマホを落とし自分の真意を兄に伝えるなんてことをやってのけることはあり得る。
「それで、どうするの?」
「どう……すればいいんだろうな。っていうのが今日の相談なんだよ」
ズズズっとグラスのコーラを飲み切り、テーブルに項垂れる。
そんな俺を呆れた目で見ながら紗奈はスマホをいじり出す。流石JK。スマホは親友だよな。
「結局のところあんたが取れる行動は二つしかないんじゃない?」
「二つって?」
「今回のことを直接白雪ちゃんに聞くか、それとも見なかったことにして今までの関係を続けるかの二つ」
やっぱそれしかないよなー。
「俺はどうすればいいと思う?」
「それくらい自分で考えなさい」
そう言って紗奈は俺にデコピンをしてくる。痛い。
「それにあんた達別に本当の兄妹って訳じゃないんだからどうとでもなるんじゃないの?」
「まあ、そうなんだけどさ……」
そうなのだ。俺と白雪は血が繋がっておらず、俺は父さんの子で白雪は母さんの子。2人が再婚したことで出来た義兄妹になる。
再婚したのが俺が小学1年生の時だからほぼ本当の兄妹のようなものなのだが。ちなみに紗奈は親同士の仲が良く、家も隣で生まれた時からの付き合いになるので白雪にとっては姉のような存在である。
その後は特に妙案が生まれることもなく、うんうん唸る俺を置いて紗奈は先に帰宅し、辺りが暗くなったころに俺も家路についた。
★
家に帰り夕飯を食べ、風呂に入り気持ちをリセットした後俺は白雪の部屋をノックした。
「白雪、今いいか?」
はい。という返事のあとゆっくりと扉が開かれる。
「どうしました? 兄さん?」
「ちょっと、話したいことがあるんだ。中に入ってもいいか?」
「はい」
俺は白雪に促されて部屋の中に入っていく。そのまま差し出されたクッションに座り、白雪は対面のベットに腰を下ろす。
「それで話って何ですか?」
「白雪はその……」
俺は躊躇いながらも意を決して言葉を紡ぐ。
「俺のことが好きなのか? 恋愛的な意味で?」
「はい。好きですよ」
俺の質問に白雪はいつもと変わらぬ調子で返答した。
「い、いつから?」
「いつからですかね~。気づいた時には好きになってましたね! あ! ついでに言うとこの口調も距離感を作ることで私を妹ではなく女の子として見てもらうために始めたんですよ! あとそれからそれから……」
その後俺は白雪からどれだけ俺のことを愛しているかと説明され、それに全く気付かないバカ兄だと怒られて気づいたら二時間ほど経過していた。
「と、いうわけで兄さんは私と付き合ってくれますか?」
最後にはそんな質問で白雪の話は締めくくられた。それに対する俺の返事はもう決めてある。だから俺は白雪の目をまっすぐ見て、答えるのだ。
「ごめん。俺は白雪とは付き合えない」
これが俺の答えだ。俺は今までこの完璧美少女の妹が誇れるほどのカッコイイ兄であるように努力して生きてきた。だからこそ俺に兄らしくない行動は取れないのだ。
俺の返答に白雪は顔を強張らせた後、ゆっくりとしゃべりだした。
「そうですか。ちなみに兄さん今彼女はいますか?」
「? いないぞ」
「好きな子は?」
「それもいないな」
「そうですか」
白雪の質問に疑問を持ちつつも素直に答える。
「では、問題ないですね」
「何が!?」
「私たちが付き合うことにですよ」
「あれ? 今俺断ったはずだよね!?」
「そうですね。まあ、それはそれとして私たち付き合いましょう!」
「なんでそうなる!」
「別にいいじゃないですか! 好きな子いないなら!」
「お兄ちゃんが妹に手を出すのはダメだろ!」
「私義妹ですから大丈夫ですよ!」
「大丈夫じゃないよ!」
「据え膳食わぬは男の恥ですよ!」
「くっちゃったら完全に事案だよ! お兄ちゃん豚箱に送られるよ!」
「同意の上では問題ないです! ささ、準備はできてますから!」
「準備ってなんの!?」
ぜえ、はあ。とお互い肩で息をする。
どうやらこの妹一歩も引く気が無いようだ。
「では兄さん一つ提案があります」
この膠着状態を打開する案が白雪にはあるらしい。
「明日デートしましょう」
白雪のその提案に俺はじとーっとした視線をぶつける。
「そもそも兄さんは別に私の事嫌いじゃないですよね?」
「ああ、もちろんだ。愛してるといってもいい」
「愛! では私たち結婚するしかないですね!」
「俺のは兄妹愛だ!」
「ぶー」
俺の答えに白雪が頬を膨らませる。というかさりげなく要求がランクアップしているんだが。
「それでなんでデート何だよ」
「そう。これはデートという名の勝負なのです!」
「勝負?」
「戦争といっても過言ではないかもしれません。さあ、私たちの戦「それ以上は危ないからやめておこうか!!」
白雪の危なっかしい発言を全力で阻止する。
「で? 勝負とは?」
「要は簡単な話です。もし今回のデートで兄さんが一瞬たりとも私にドキッとしなければ、私は兄さんのことを諦めます。逆に兄さんが一瞬でも私にドキッとしたら兄さんが恋愛をする相手に私がいることを肯定してください。兄妹だからなんて理由で選択肢から除外しないでください」
白雪のその真摯な言葉に俺は少し考えた後、しっかりと目を見て返す。
「わかった。その勝負に乗るよ」
「男に二言は無しですよ」
「わかってるよ」
こうして明日俺は白雪とデートすることが決まった。とりあえず明日は学校が休みということもあり、午前十一時に駅前集合ということでこの場は解散となった。
「あ、その前に白雪」
「なんですか?」
白雪の部屋を出たタイミングで俺は言い忘れたことを思い出した。
「お前のスマホの中に入ってある俺の写真全部消してくれない?」
「……」
白雪はそれはそれは綺麗な笑顔で無言のまま自室の扉を閉めたのだった。
「ちょ! 白雪さん!」
ノックをするが返答はなく、俺は泣く泣く自室に戻って寝ることにした。さてさて、明日はどうなることやら。
★
かくしてやってきたデート当日。俺は駅前で白雪が来るのを待っていた。そして十一時を少し過ぎたタイミングで後ろから声を掛けられた。
「お待たせしました」
振り向くとそこには白いワンピースに黒のカーディガンを羽織った白雪が頬を赤らめて立っていた。普段は下ろしている長い黒髪が今日は後ろでまとめられていて大人っぽさを醸し出している。
「どうしたんですか? 見惚れちゃいましたか?」
「うちの妹はめちゃくちゃ可愛いなと思ってな」
「あまり嬉しくないですが誉め言葉として受け取っておきます」
俺の返答はどうやらお気に召さなかったらしい。とはいえ、白雪の口元は若干ニマニマしているが。
「ではでは今日は私がエスコートをしますので早速いきましょうか!」
そう言って白雪は俺の手を取って歩き出す。
「それで今日はどこに行くんだ?」
「それが結構悩んだんですけど、やっぱりシンプルさが大事だと思うんですよね」
「というと?」
「始めは結婚式場に行きウエディングドレスの試着をと考えたのですが……」
「お、おう?」
この妹やる気が違うぞ。
「やはりシンプルオブベストということで、映画を見て、カフェにより、ウィンドショッピングをするの三本立てで行こうと思います!」
「うん。それがいい。そうしよう」
少しはまともな妹でよかった。
というわけでほどなくしてたどり着いた映画館。
「何を見るのかは決まっているのか?」
「無難にゾンビ映画でも」
「あー、あのコメディチックなやつ?」
「それです」
「いいよなー。コメディ寄りのゾンビ映画って」
「基本的に辛い展開ないですからね。世界観のわりに終始笑ってみてられるのがいいですよね」
なんて雑談を挟みながら映画のチケットを買う。上映時間はこの後すぐのようなので特に待ち時間もなく中に入っていく。
「今更だけどなんか飲み物とかポップコーンとか買わなくてよかったのか」
「席に座ってからそれを言いますか。まあ、私は上映中は食べたり飲んだりしない派なので大丈夫ですよ。兄さんは?」
「俺も大丈夫かな。ジュース飲んだりとかして途中で席立つことになったりするの嫌なんだよね」
そんな会話をしていると劇場内が暗くなり、いよいよ映画が始まる。そのタイミングでひじ掛けの上に置いていた俺の手に白雪がそっと手を重ねてきた。
俺はつい白雪の方を見てしまうが、白雪はまっすぐとスクリーンを見たままだった。
「は~面白かったな!」
「ですね!」
役一時間半の上映時間が終わり、俺たち二人は映画館近くのカフェで感想会をしていた。
「ありきたりな展開だったけど、やっぱ王道だからこそいい。みたいなところはあるよな」
「最後のまとめてゾンビ爆破するシーンもこれでこそ洋画だって感じがして最高でしたね!」
「わかる。すげー偏見だろうけどカーレースと爆破シーンは洋画あるあるだよな」
俺はチーズケーキ、白雪はショートケーキをそれぞれ摘まみながらゆったりと映画の感想を楽しむ。
「兄さん。ケーキ一口交換しませんか?」
「いいぞ」
俺はチーズケーキの乗った皿を白雪の方に寄せる。白雪はそんな俺の行動を無視して一口サイズに切り取ったショートケーキを俺の口元に近づける。
「あーん。です」
上目遣いであーんしてくる妹がただただ尊い。ぱしゃり。
「なんで撮るんですか!?」
「あ、すまん。ついな」
完全に無意識に手がスマホのシャッターを切っていた。
俺は軽く謝りながら宙ぶらりんにされたショートケーキをさっと食べる。
「もうちょっと味わってもいいんですよ。私との間接キスを」
「誰が味わうか!」
今度は自分だとばかりに無言の圧力を白雪から感じたので俺はチーズケーキを一口大に切り白雪の口元に運ぶ。
「ありがとうございます」
そう言って白雪はチーズケーキをパクリと食べた。が、すぐには口を離さず、俺のフォークを余すことなく舐めまわし始めたので、すかさず俺は白雪の口から引っこ抜いた。
「ちょ! なにすんのお前!」
「てへぺろ」
舌を出して可愛く謝る白雪。可愛ければ何でも許されると思うなよ! 許すけど!
俺はおしぼりで丁寧にフォークを拭いて残りのチーズケーキを食べてしまう。白雪さん。なんでそんな不満そうな顔をするんですか。
そんなこんなでカフェでの休憩が終わり、続いてウィンドウショッピングが始まった。
「兄さんこれなんてどうですか?」
「いいと思うぞ」
「これは?」
「似合ってる。似合ってる」
「じゃあ、こっちは?」
「世界一可愛いぞ」
「じとー。兄さん適当言ってません?」
「そ、そんなことはないぞ」
白雪の圧力に負けて声が少し震える。
俺たちが最初に来たのは眼鏡売り場でさっきから白雪はいろんなタイプの眼鏡を掛けているが正直すべてが似合っていて可愛い。だから俺の返答は適当じゃないんだ。違うったら違う。
「白雪、目悪いんだっけ?」
「いえ、全然悪くないんですが、ブルーライトカットの眼鏡が欲しいななんて思いまして」
「あー、それは俺も欲しいかも」
無くてもいいかなと思いつつもあったらあったで使ってみたいと思っていたブルーライトカットの眼鏡。俺も興味がそそられてきた。
「兄さんにはこれなんか似合うと思いますよ」
俺は白雪に渡された眼鏡を受け取り掛けてみる。
「どうだ?」
ぱしゃり。白雪がスマホを構えて無言で撮り続ける。
「ぐへへ。兄さんの眼鏡すがた……」
「おい!」
すかさず白雪の頭にチョップを入れる。
「いたい」
「女の子がしちゃいけない顔をしていたぞ」
「そんなことないですよ! あれくらい好きな人のいる女の子は誰だってします」
「まじか……」
妹の返答に若干引いてしまう。
「ささ、兄さん次はこっちを」
そう促されるままに俺は白雪から受け取った眼鏡を掛け、写真を撮られ続けるのであった。
その後も服屋に帽子、靴、アクセサリーといろいろな物を試着して着せ替え人形のように扱われて大量の写真(黒歴史)を量産されてウィンドウショッピングは終わりを迎えた。
そうして楽しい時間は過ぎて行き、夕日に照らされる公園のベンチでデートの最後の時間を過ごしていた。
「この公園も懐かしいな」
今いる公園はうちから一番近くのそこそこ広い公園で、昔はよく俺と白雪と紗奈で遊んだものだ。
「……」
俺の言葉に白雪は無言で返す。終わりの時間が近づくにつれて白雪の口数は少なくなっていた。ただ繋がれた右手は最初からずっと熱いままだった。
「今日のデート楽しかったよ」
「まだ終わってないです」
「だけど、もう少しで終わる……」
日は沈み続けていて、一時間もすれば辺りは真っ暗になってしまうだろう。
「今日のデートでやっぱり白雪は可愛いなってそう思ったよ」
「……」
「可愛くて一生懸命で真っ直ぐな……そんな世界で一番の自慢の妹だってそう思った」
「……はい」
「だから俺は白雪とは付き合えない。白雪は大切な妹で家族だから」
「わかりました」
俯く白雪が怖いほどはっきりとした声で返事をした。正直この俺の答えに白雪が泣いてしまうんじゃないかと思ったがどうやら泣いてはいないようだ。
「ところで兄さん言いましたよね」
そう言って白雪は勢いよく立ち上がり一歩前に出る。そして背中越しのまま言葉を続ける。
「男に二言はないって」
「ああ、言ったな」
白雪との勝負の約束のことだろう。俺はなぜそれを今聞くんだろうと疑問に思いつつも答える。
「でも、ですね。女の子に二言はあるんですよ」
「へ?」
「バカ兄相手にこの一回で落とせると思ってませんでしたし、次は……そうですね。高校卒業までにしましょう!」
「そんなのありかよ」
「あ・り、ですよ。なんたって私は嘘つきのずるい子ですから。長年のこの片想い簡単には諦められませんよ!」
そう言って振り返った夕日に照らされる白雪のいたずらっ子のような笑顔は今までで一番輝いていて、俺の心臓がトクンと微かに高鳴った気がした。
評価、感想など頂けたら嬉しいです。