第七話 急襲
今回から少し長めに書きます!
4月3日、フエベス国立学園入学式。
入学式は学園の3年生まで全学年が参加する。
「ん~。よく寝た!」
現在時刻、朝7時半。ゴウキは小鳥のさえずりで目覚めた。
入学式は10時からなので、ゴウキには時間が余っていた。
そこでゴウキは、白鳥亭の中庭で木刀の素振りをすることにした。
双剣使いであっても、素振りは欠かせない。腕力と体力の向上は前衛として必須だからだ。
1時間ほどの鍛錬を終えて、ゴウキは風呂に入り、少し早めに学園に向かった。
その途中でアクセサリー屋に寄った。
ゴウキが探しているのは、「魔法分裂」のエンチャントが施してある指輪である。
「すいません!魔法分裂のエンチャントが入った指輪ってありますか?」とゴウキが店主に尋ねる。
「ああ、あるよ。でも少々お高いよ?君のような小さな子が買えるとは思えないけど・・・」
と店主が怪しげな視線でゴウキを見る。
「僕はこれでもギルドに加入しているので、お金の心配はないと思います」
「そうなのか。なら、すまなかった。魔法分裂だよな?え―――と。お、あった。銀貨50枚でどうだ?」
「買います!」
「まいど!」
こうしてゴウキは魔法分裂の指輪を手に入れた。
魔法分裂とは、放った魔法の数を2倍にできるというものである。だがこの場合威力は2分の1に落ちてしまうので、魔法力が弱い人が装備しても意味はない。
準備を終えて、ゴウキは入学式に向かった。
入学式は学園の第一演習場で行われる。大きさはアーラ村3つ分くらいだろうか。とにかく広いのだ。
席順は成績順で、前に行けば行くほど高順位で入学した生徒が座るという仕様になっている。
9時50分、ゴウキは席について開式を待っていた。そこに一人の女の子がやってきて、ゴウキの隣に腰を下ろす。そこは次席の席だった。
「こんにちは。私はリズ・フィンラルといいます。よろしくお願いします」とゴウキに自己紹介をした。
「こんにちは。ゴウキ・カインズです。お願いします」とゴウキも返した。
しかしゴウキは彼女に見覚えがあった。この町に到着したばかりの時に道でぶつかったのが彼女だったのだ。だが、彼女はゴウキに見覚えがないようである。
(リズさんっていうのか。優秀だったんだな・・・)などとゴウキは失礼なことを考えていた。
10時になり式が始まった。
式は順調に進んで主席のあいさつが行われる。ゴウキは主席の顔を知らなかったのでどんな子か少し気になっていた。
「みなさま、ごきげんよう。私は主席のエリス・ハーデンスと申します。以後お見知りおきを。
私がなぜこの学園に入学したかというと、自分より強い人を探すためです」
エリスの発言に上級生がざわつく。
「皆様とは学園内でかかわりを持つかもしれないので、その時は宜しくお願い致します」
そういってエリスは式辞を終えた。
新入生は全部で155人。一クラス31人で入試の成績によってクラス分けが行われ、上位31人のクラスは「クラス・ファースト」と呼ばれる。
もちろんゴウキはクラス・ファーストであり、クラスでは友達もいない一人の状態だった。
周りからは小さな話し声が聞こえる。友達同士で入学した生徒もいるようだ。
入学して最初の授業は「自己紹介」だ。
まずはエリス。
「エリス・ハーデンスです。以後お見知りおきを」
小さな拍手が起こる。
続いてリズ。
「リズ・フィンラルです!出身はリコ地方のフィンラル領出身です!よろしくお願いします!」
とても元気な自己紹介だった。
そしてゴウキ。
「ゴウキ・カインズです。アーラ領アーラ村出身です。お願いします」
その後もクラス全員が自己紹介をしていった。
こうして1限目が終わった。
その休み時間、ゴウキは多くの視線にさらされていた。
理由は簡単。女子たちがゴウキのことをチラチラ見ているのだ。
ゴウキは、アーラ村でも友達ができず、町でも他人とあまり話していなかったので自覚していないのは仕方がないが、彼の容姿端麗でクールな言動は女子受け抜群だった。
しかし、鈍感なゴウキはその視線の意味に気づかず、ただ不快な思いをしているのだった。
そんな時、
「ゴウキ君は何属性魔法が得意なの?」とリズが突然話しかけてきた。
「えーと、俺のことはゴウキでいいよ。得意魔法は火属性だね。リズさんは?」とゴウキが端的に答える。
「私のこともリズでいいよ!私は氷属性魔法が得意なんだ」
「そうなんだ」
しかしゴウキは不思議に思っていた。彼女の髪の色は本来銀。銀色の髪は回復魔法に適性がある。それを幻惑魔法で隠しているのだ。ゴウキは幻惑魔法の対抗魔法「反状態異常」《アンチ・イレギュラー》を使える。それを反射的に使用した結果、彼女の隠蔽に気づいたのだ。だがゴウキはそのことに触れなかった。
(なにか事情があるのだろう)そう思いながらゴウキは学園初日を終えていた。
魔法適正は目と髪の色に左右される。ゴウキは本来、火・氷・風・地のすべての魔法に適性があるはずだった。だが使えるようになったのは火と風の2つのみ。この原因がずっと不明なのだ。
ゴウキは宿に帰ると城壁外の異変に気付いた。
(何かあったのだろうか・・・)そう思っていると、国内伝達員、通称国伝員が寮に報告に来た。
「皆さん!指定避難場所に避難してください!マルテスが攻めてきました!」
(隣国のマルテスが!?これはまずいな。フエベスの兵力じゃ勝てないかもしれない・・・)とゴウキは思った。
マルテス王国は軍神の加護を受けている国である。そのため、戦争に関してはマルテスがいちばん強いと言われているのだ。それに対してフエベスは全能神の加護を受けている。しかし全能神の加護は戦闘向きの加護ではないため、フエベスのほうが不利なのだ。
「1時間後に一斉攻撃を仕掛ける!それまでに今から要求する物を差し出せば引いてやる!」と
マルテスの総隊長ガイア・レイコンが告げた。
マルテスの兵力は、前衛1万5千、魔法師3千である。
それに対してフエベスは、前衛1万、魔法師4千と数で劣っていた。
しかしフエベスの国王、フエベス10世はマルテスとの交戦を宣言した。
そして午後5時20分、両国の戦闘が始まった。
30分経って、ゴウキの予想通りフエベスはかなりの劣勢となっている。
「仕方ない。自分が通っている学園がある国が侵略されたらせっかく入学した意味がないしな。助太刀に行こう」
そう呟いてゴウキは自分にかかっていた幻惑魔法を解除し、飛行魔法で寮の窓からこっそり戦場に向かった。
次回はゴウキが無双します!