第三話 ギルドマスター
フエベス国立学園の入試まであと9日。
この国では、学生でもギルドに加入することができる。
ゴウキは時間を持て余していたので、ギルド本部を訪れていた。
「うわ、広~。人も多くて暑苦しいな。」と本音を漏らしながら受付に向かう。
「こんにちは!見ない顔だね~。ギルドに来るのは初めてですか?」と受付の獣人お姉さんが言う。
「はい。メンバー登録に来ました。」
「オッケー。そしたらこの紙に必要事項を書いて、その後に魔力測定と、階級確認をしますね。」
「・・・わかりました。」
(まずいな、階級がエリートだとばれると間違いなく騒ぎになる。ギルドマスターに相談してみよう。)
「すみません。ギルドマスターとお話をさせていただけませんか?」とゴウキは尋ねる。
「え、どうしてですか?」と当然の返事が返ってきた。
「少し特別な事情があってどうしてもお話しておきたいのです。」
「・・・わかりました。ギルドマスターに聞いてきます。ここで待っていてください。」
―数分後―
階段上から一人の男が下りてきた。
「君が私と話をしたいという少年かい?」
大柄で強面。いかにも強者な雰囲気が漂っている。
「はい。俺はゴウキといいます。事情があってギルドマスターとお話がしたいのです。」
「ほう、俺はライゼ。ここのマスターをしている。ゴウキ君、何か訳ありなようだね。・・・よし、
よかろう!私についてこい!」ライゼは笑顔で応じてくれた。
「ありがとうございます!」ゴウキはライゼを追って2階に向かった。
「で、話とはなんだ。」
「あのー、階級確認についてなのですが、階級無しでギルドカードを発行していただけませんか?」
「な、なに?階級なしだと?なぜだ。」
「理由を話さなくちゃだめですか?」
「当たり前だ。」
「・・・わかりました。でもこの話は誰にも言わないでいただきたいのです。」
「うーん、内容にもよるが、善処しよう。」
「ありがとうございます。では。実は俺、エリートなんです。」
間が生まれる。
「っっっあっはっは。何を言い出すかと思えば、君のような少年がエリートだって?もう少しマシな冗談はなかったのかい?」と大声で笑いだすライゼ。
「まあ、そういわれると思いました。でも事実です。」ゴウキは真剣な眼差しでライゼを見つめる。
「ほう?ならその実力を見せてもらおうか?」
「わかりました。後悔しても知りませんよ?」ゴウキは口角を少し上げて答えた。
ギルド闘技場。ギルドに併設された訓練場でギルドマスターの許可がないと使用できない。
「じゃあその実力、見せてもらおうか。エリートさん。」
「わかりました。」
「俺は反撃しないでやるから全力でかかってくるんだな。」
「いきます!」
(まずは手始めに)
「ファイアーボール!シックス!」
魔法はこのように、技名の後にその規模を言うと発動できる。
だがそもそも、複数同時に発動できる魔法士は人口の5%もいないだろう。
ライゼはすべてよけきったが、魔法が当たった壁がなくなっていることに驚愕した。
「は?ファイアーボール?威力としてはフレアボールじゃないか。それに6つの同時発動なんて。あいつ本当に化け物だったんだな・・・。」
「どんどん行きますよ?ウィンドボール!フィフティーン!」
「フィ、フィフティーン!?しかも風属性だと!?」ライゼの顔が青ざめる。
「わ、わかった!降参だ、降参。」
「えー、もう終わりですか。わかりました。」発動寸前のウィンドボールが消えた。
ライゼは何とか一命をとりとめたのであった。
「確かにお前はエリートのようだな。アッパーで上位にいる俺も全く勝てる気がしなかった。」
「信じてもらえてよかったです。エリートが国にいると知れば、王から平民まで様々な目的で俺を狙ってきます。俺はただ、学園生活を楽しみたいだけなのです。」
「そうだな。エリートを公言して平和に過ごすのは無理だ。・・・わかった特別にお前をアッパーとして登録してやる。その強さでコモンはさすがに無理があるからな。」
「ありがとうございます。このことは他言無用でお願いしますよ?」ゴウキが念を押す。
「わかってる。ただ、魔力測定の結果をごまかすことはできないから、そこは我慢してくれ。」
「はい。」
「ちなみにおまえの魔力っていくつなんだ?」
「さあ、測ったことがないもので。」
そういうと、ライゼが魔力水晶を持ってきた。
「こいつに手をかざすと、使用者の魔力量が測れる。ほら、やってみろ」
ゴウキは言われるがまま、手をかざした。
「な、七万!?この世界の平均は五千だぞ!化け物だな」
「本人の前で化け物っていうんですね・・・」
「ああすまない。これでメンバー登録は終わりだ。んで、これがギルドカードだ。また何か相談したいことがあったらいつでも待ってるからな!」
「はい!ありがとうございました!」
手を振って見送るライゼを背に、ゴウキはギルドを後にした。
今回は少し長くなってしまいました。楽しんでいただけたでしょうか。