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異能力で単純な戦争をしましょう  作者: シマアザラシ
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戦いの始まり

 ショーというものは単純でわかりやすくなければならない。


 特別なルールなどいらない。10の特殊能力による殺し合い。ただ、それだけでいいのだ。


  ◇◇◇


 高校生の新島修二にいじましゅうじは今の状況を何とか理解しようとしていた。


 だが、頭が現実に追いつかず、その場に立ち尽くすことしかできない。起こった現実離れしすぎて脳が思考を辞めているのだ。


「…………」


 修二は街にいる。東京の新宿。日本でも有数の繁華街だ。ここへは妹と買い物に来ていたが……そこには退屈ないつもの日常があった。


「こ、これは……どういうことだ」


 修二の声色のには明らかに強い困惑の感情が出ていた。


 それはそうだ……突如空が【赤色】に染まり、修二の周りにいた大勢の買い物客、最愛の妹――その姿がかき消えたのだ。


 それなのに街は人が消える前のままだ。街頭の大型モニターには人間が消える前と変わらず、ニュースが流れていた……その中途半端な日常がさらに言いえぬ恐怖心を煽る。


 これは……この世の理を逸脱した現象だ。


「……俺の頭はとうとうおかしくなったか」


 超常現象が起こった……と、考えるよりは自分の頭がおかしくなった――そう考えた方が自然だ。


 だが、肌で感じる気温、自分の呼吸、周りの景色は夢ではありえない現実味があり、赤い空は幻覚では再現できないリアリティーがあるように思えた。


『ピピピピ』


 修二が頭の中でごちゃごちゃまとまりのない考えをしていると……後ろポケットに入れていたスマホが着信を知らせる。


 非常識の中にいて、その日常的な着信音が修二の思考を止めた。


(……何が起きてるかはわからない。だからこそ状況を把握しないとな……『夕』のやつ無事だといいけど……)


 修二は妹の安否を心配しつつ、今の状況について考える。


 元々修二は計算高く、あまり物事に動揺するタイプではない。クールと周りには言われるが……自分では冷めているだけだと考えている。


 かつて『近しい人の死を目の当たりした時』も冷静でいられた。


 もっとも……逆に言えば今はそんな冷めた修二さえ思考が停止するほどの状況ということだ。


 しかし、今は冷たさを取り戻している……それが今の状況で役に立つ。修二は自分が今すべき行動を冷静に選択するように心がけ、スマホの画面を見た。


(……早速、選択肢が出やがったか……)


 修二のスマホに見覚えのない電話番号が映し出されていた。それも『123456789』という、普通ではありえないふざけた電話番号だ。


「……さて出るべきか、出ないべきか……」


 修二は基本物事をマイナスイメージで考える。『どちらが得をするか』ではなく、どちらが『損をしないか』だ。


 今の状況を鑑みた場合『出ないデメリット』の方が大きいと考えた。


 理由として、もし『このデタラメな状況を作り出した首謀者』がいるとしたら、電話を出ることによって情報が得られるかもしれない。


 こんな訳の分からない状況だ。どんな些細な情報でも得て損なことはないだろう。


(まあ、電話に出ることによって催眠の類をかけられる奴だったら、詰みだけどな……まあ、そんなことができるなら、電話をしなくてもいくらでも方法があると思うし……)


 修二は自分が依存しているゲームや漫画の世界を思い浮かべる。それは修二が人生のほとんどを捧げて来た世界だ。


 生まれてから、いくつもの創作物に触れてきた『経験』が修二の冷静さの要因なのかもしれない……。


「…………はい。もしもし」


 電話が鳴り始めて20秒。


 修二は意を決して電話に出る。するとすぐに、若い女性の『クスクス』と笑う声が聞こえて来た。


 その声には明るさがある。まるで、学校の同級生と語り合うような空気感だ。

 日常では何一つ違和感のない声色。だが、この異常な状態の中でそれは酷く歪み、狂気を孕んでいるように思えた。


『くすっ、はろはろ~。わったしは! みんなのアイドル【シシミー】ちゃんですぅ~~。ふふふふふっ』


「…………」


 最初の笑い声と同じ、楽しさの感情を宿した声が耳に届く。やはり……その楽しさに違和感がある。


 戸惑う修二を横にシシミーは話を続ける。


『新島修二君。君は【殺し合い】に巻き込まれました~。ちゃんちゃん』


「はっ……?」


『ルールはすっごく簡単。【我々】が与えた特殊能力で10人が殺し合い、ラスト4人に残ること! 期限は3日! 3日過ぎて5人以上残ってると、キル数上位5人以外は死んじゃうからよろよろ~~。わおっ、めっちゃシンプル!』


「ちょ、ちょっと待て――」


 ゲームや漫画に依存している修二とはいえ、話がいきなり過ぎてついていけなかった……。


 しかし――シシミーはその思考の遅さを許さない。


『きゃはは、待たないよ。だって……もうゲームは始まってるんだから――』


「…………」


 その声は先ほどのまでの楽しさという感情のほかに……明らかに真逆の感情が含まれていた。それは――『愉悦』と『狂気』だ。


 それがシシミーの言葉に妙な説得力を持たせた。


 修二は『過去』に……同じような人間の狂気に触れたことがあった。その経験が修二の頭の中の警報器をガンガン鳴らしていた。 


(…………ここは黙って聞くのが吉だな)


『くすっ、君適応能力高いねぇ~よきかな、よきかな。ふふふっ、【優良物件】だねぇ。今回のゲームは荒れそうでスルーしようと思ってんだけど……私、貴方を推しちゃおうかなぁ」


 黙っていた修二に対して、好意的な笑い声を漏らしながら話を進めた。


『でも……もう説明することはないんだよねぇ。あ、そうだ! 後で【メール】でも送られるけど、【能力の詳細】を教えてあげるね。ここまでは言っていいことになってるし!』


(詳細……本当に殺し合いが起こるなら一番大事な情報だな)


『得られる能力は10の中からランダムに1つ。【火を操る能力】【水を操る能力】【雷を操る能力】【1度だけ死ねる能力】【催眠能力】【武器庫になる能力】【心を読む能力】【銃を操る能力】【本能のまま暴れる獣になる能力】【機械の獣を操る能力】……』


 シシミーが10の能力を説明し終える……。非現実的だ。


 修二の頭に思い浮かんだのは、まずそれだった……。

 一部を除き、何も道具を使わずに人間ができることじゃない……。


 これはまるで――。


(本当に……ゲームだな)


 普段の日常なら笑い飛ばすだけだ。それでおしまい。


 だが……。


「くすっ、君はどの能力を得たと思う? きゃははは、せいぜい上手く使って生き残ってね。君なら【扉】を開けるかも~? きゃはは」


 その言葉を最後に電話が切られた。


 狂気と楽しさが混合するシシミーの笑い声が脳裏から離れず、ずっと耳に残りつけた。


「これが……現実か」


 修二はスマホをポケットにしまうと非現実的な赤い空を眺め続け……本能的に悟る。


 もうあの『退屈な日常には戻れない』と……。

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