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5 デザイナーズチャイルド

ゲームを行うことになった四人。

テニスの技量は、それぞれかなりのものである。


 その中で、透也より柿崎のほうが、少し上手い。

英理華より、那央のほうが、少し上手い。


 したがって技量のトータルを考えれば、たしかにこの組み合わせのほうが、試合は白熱するであろう。


 三田は、柿崎よりもさらに上手い。

藍は、テニスはそれほど上手くない。


 だからもうひとつのコートで行われるシングルスは、真剣にゲームの勝敗を競うということではなく、付き合っているふたりが、テニスを楽しむ。

 三田が、藍の喜ぶように相手をする、ということになる。


 ふたりは、仲がよかった。

 藍が、体重を減らしてもっとスタイルがよくなりたい、と、強く望めば、ロイヤルブルーは、食事と普段の生活を、そうなる方向に管理するであろう。

 藍がぽっちやり体形なのは、三田がそういう女の子が好きだからであるし、藍に三田の好みに応えてあげたい、という気持ちが強いからである。


 透也は、何の屈託もなく、今の世界の毎日を楽しんでいるふたりを見ていると、時々羨ましくなる。

「エリートになりたい」

 その気持ちを捨ててしまえば、毎日はどんなに楽しいことだろう。


 自分の行動と言動はすべて、ロイヤルブルーに直結している。

 ロイヤルブルーへのアクセス履歴、利用内容は、もちろんロイヤルブルーの持つ個人情報に蓄積されていく。

 ロイヤルブルーは、それらによって、各個人のポイントレベルを決定する。


 それらの全てにアクセス権限を持つのは、エリートクラスの中でもさらにごく一部の人に限定される。

 ノーマルクラスの人には、そのアクセス権限はない。


 犯罪、あるいは犯罪に近いことが行われれば、ロイヤルブルーが、直ちにその罪の大きさに応じて、その当事者を処分する。

 人間同士の間でトラブルが起きれば、ロイヤルブルーが、直ちにその正邪を判断する。


「エリートになりたい」

 その気持ちを無くしてしまえば、自分のポイントレベルがどうなるかを気にすることがなければ、毎日はどれほど楽しいことだろう。


 他人に対して、直接的にあるレベル以上の不快を与えることさえしなければ、何をやっても何を考えても何を喋ってもロイヤルブルーは咎めたりはしない。

 自分の好きなように毎日を過ごせるのだ。


 透也は、もうすぐ十五歳になる。

 もう数年前から、女の子に対しては、それまでとは違う思いも加わるようになった。

 その延長線上にあること。リアルでは、透也にはまだ経験はない。

 透也の年代でも、リアルでの経験者はそれなりの割合でいるであろう。だが透也は未経験。


 バーチャルでは、透也はもういくらでも経験している。

 実在する相手を想うことだけではない。非実在の相手も、ロイヤルブルーは、透也のどんなリクエストにも応えて、それに応じたキャラクターを作りあげてくれる。

 その女の子と透也は、バーチャルで、リアルとほとんど変わらない現実感をもって、自由に恋愛と、その延長線上にあることを楽しむことができる。


 だが、透也が、バーチャルで想う女の子は、全てでは無いにしろ、そのほとんどは、英理華だった。


 透也は、英理華が好きだった。物心がついたときから。

 そんな年代から親しくしている女の子に対しては、思春期になったら恋愛対象として見ることができない、ということもよくある話だが、透也は違った。


 英理華は可愛いかった。

 年齢が重なって、世の中のこと、周りのことがどんどん分かってくると、英理華は、客観的に言えば、凄く可愛いと言われるほどのレベルの美少女ではない、ということも分かったが、それでも透也にとっては、英理華が一番、特別に可愛いかった。

 十二歳になって、英理華がエリートになった。

 透也は、吃驚した。もし、エリートになれるとしたらそれは自分だと思っていたからだ。


 英理華は、たしかに勉強はよくできた。透也と同じくらいに。

 透也が、努力型の秀才タイプなのに対して、英理華はたいして努力をしている風でもない。天才タイプだ。


 だが、エリートとして普通にイメージされるような、リーダーシップがあって、周囲を引っ張っていくというようなタイプではない。

 ただ、リアルで、それなりの人数が集まった時などは、ごくごく自然に、その中心になり、みんなが、英理華のことを気にするという感じになる。

 そして英理華は、自然な態度で、その中心から引いて別の人に関心がふりむくようにする。


 エリートになって、英理華はどんどん綺麗になっていった。それは、エリートになったというだけではなく、その年代の女の子が、大人になっていく過程でもあったのだろう。


 英理華は、純粋に女性として見ても魅力的な女の子になった。

 華やかさが匂いたつような女の子になった。


 今日のロイヤルブルーのワンピース姿の英理華を見て、透也は、大人になったなあ、と思った。惚れ惚れと眺めた。


  容姿については、可愛いという形容詞は、もうあまり似合いそうもない。綺麗のほうが良いだろう。

美少女というよりは、美女と呼ぶほうが似つかわしいくらいだ。


  那央は以前からそうだが、英理華も今は、実年齢よりも年上に見える容貌になっていた。


 藍は、実年齢よりも幼く見える容姿である。


 大人になった英理華。

 最近の英理華は、透也にそれまで感じたことのなかった感情をも惹きおこすようになった。


 時々ふっと英理華が見せる表情や仕草。透也は、それに形容をつけるとしたら「妖艶」とでも呼びたくなるようなものを感じていた。


 ただし、性格は以前のままだ。特に変わってはいない、とも透也は感じていた。


 英理華はエリート。ひとり子供を持つことができる。

 透也がノーマルのままであったら、その子供の父は、自分ではありえない。

 透也は、英理華との間にふたりが両親となる子供を持ちたかった。たとえ、遺伝子が改変されたデザイナーズチャイルドであっても、その元となる遺伝子はふたりのものなのだから。

 いや、もし許されるなら、遺伝子を改変させることのないふたりの子供を持ちたかった。


 透也や英理華は、自然分娩で誕生した、ほぼ最終の世代。


 デザイナーズチャイルド。

 その最年長者は、もう十歳を超えている。

 稀に、街で見かける。


 リアルで、透也よりも年下の人間を見ることはほとんど無いが、もし見かけたら、その子は全てデザイナーズチャイルド。

 たしかにみんな、恐ろしいほどに美しい容姿だ。

 その美しさにも色々なタイプはある。


 だが、そうであっても、透也は、その美しさに人工的で均一なものを感じる。


 もし、そのデザイナーズチャイルドの女の子が、さらに年齢を重ねたとしても、僕は、魅力のある女の子として、ロイヤルブルーで想うようなことは無いだろう。

 透也はそう思った。


  デザイナーズチャイルドの、どの女の子を見ても、その女の子の大人になった姿を想像しても、そういう対象にしたい、という気持ちにはなれそうもない。


 細胞活性化の技術によって、人類は、旧世界に比較してはるかに長い寿命を持つことになった。

 とは言え、永遠の生命という訳ではない。細胞活性化にも限界はある。


 しかし、ある程度の期間をおいて、細胞活性化処置で若返ることを繰り返しながら人間は数百年生きられることになった。さらに技術が進めば、やがては不老不死も不可能では無いと言われている。


 少なくとも今世界に存在する人間は、急死。事故による即死や、突発的な急病死でなければ、ずっと生き続ける。

 それに、ロイヤルブルーが管理している世界では、最初期にはごく稀にあった事故とか、突発的な急病死も、今は起こることはない。


 もし、すべての人間が旧世界同様に子供を作り続けていけば、世界は崩壊する。

 今いる人間が生存し続けるための、ほぼ全人類による産児制限。


 今、ロイヤルブルーは、月を人類が居住可能な環境になるように作り変えている。

 火星も、金星も、その改変に着手している。


 その改変が進捗すれば、ノーマルクラスの人間であっても、旧世界同様に子供が作れるようになる、と言われている。


 だが、それがいつになるのかは、分からない。


 いや、ロイヤルブルーには、もう分かっているだろう。だが、その時期はエリートクラスであっても知らないそうだ。


 それを知っているとしたら、エリートクラスの上、

 全世界で百万人程度しかいないと言われる、

 エクセレンス。


 さらにその上、全世界で一万人程度しかいないとされる、

 ハイエスト。


 そして、世界に十一人しかいない、

 ロイヤルブルーの守護者たち。

 スプレマシー・イレブン。


 ロイヤルブルーに、間違いはない。

 ロイヤルブルーは、無謬の存在。


 今あるこの世界は、ロイヤルブルーが作り上げた理想の世界。完全な世界。

 世界は平和で、静穏だ。

 毎日好きなことをやっていられる。


 デザイナーズチャイルド。

 それが、ロイヤルブルーの求める理想の人間なのだろうか。


 デザイナーズチャイルドのみで構成される世界。

 それが、ロイヤルブルーの求める理想の世界なのだろうか。


 本当にそれが理想なのだろうか。


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