11 スプレマシー・イレブンの会合 ラストミッション消去後
―既に誕生しているデザイナーズチャイルドは、どうされます。
―遺伝子の改変部分を修復します。彼ら、彼女たちは、改変前の本来あった遺伝子に戻ります。
―では、年齢を重ねるにしたがって、あの超絶的な美しい容姿ではなくなっていくわけですね。完全に戻すのであれば、急激にそうなるでしょうね。
ーエリートたちも、容姿の面では、ある傾向、穏やかさが外面にも滲み出ている、という傾向は見られますが、美という観点では特に際だっているわけではない。そうなるでしょうね。
ーしかし、彼ら、彼女たちは、デザイナーズチャイルドとはいえ、既に独立した人格をもって、誕生以来の日々を過ごしています。早急に、はっきりとした形でその遺伝子修復を行うことに問題はありませんか?
―彼ら、彼女たちは、みんなひとつの激しい志向を持った存在です。それは、この宇宙創生の根源的な問題に取り組まざるを得ないということ。神との対話を求める人びとなのです。
彼ら、彼女たちは、成人したらラストミッションの解明に全身全霊をあげて取組むでしょう。
ラストミッションを喪失した、来たるべき新しい世界に、その志向を持ったままでいることは不幸なことです。
―その容姿が普通になることを、本人たちはともかく、両親たちは、肯んじるだろうか。そうか肯んじるな。
―ええ、みんな、この世界におけるエリートたちです。それを嫌だという人はおりますまい。
そして、デザイナーズチャイルドたちとその両親に、普通の親子関係はありません。
親たちは、わが子は特別な使命を持って、この世界に誕生したということを理解していました。世界からの大切な預かり者という態度で接しています。
デザイナーズチャイルドたちも世界に対する普遍的な愛で満ちた人。その親に対しては、一緒に暮らしている人としての親しさ以上の気持ちはありません。
―遺伝子修復後、デザイナーチャイルドたちは、本来の人間らしさを取り戻します。そしてその親たちと、普通の親子関係も取り戻してくれるでしょう。
しかし、誕生してから今までの時間はもう取り戻すことはできません。
全ては、私が設定したラストミッションによること。
私は、彼ら親子に深くお詫びしなければならない。
―でも、彼らはノーマルが持てない子どもを持てたわけですから。それにナンバー1、あなたは、この世界に巨大な貢献をなさった方だ。
―ラストミッションにより、新たに誕生する子どもは、デザイナーズチャイルドだけだったわけですが、これからはそうではない。しかし、現に生きている人間が数百年、細胞活性化処置技術の進展に従い、さらなる長寿も予測される中、やはり産児制限は継続しなければならない。
一方、月、火星、金星の、人類が居住可能となる環境改変も進展しています。
―産児制限を解く、それもエリートだけでなく、ノーマルもひとり子どもが持てるようになる。そのことによる人口爆発にも、いつ以降であれば許容できるようになる、と、ロイヤルブルーは言っていますか?
その時期が、この会合のメンバーたちに示された。
―では、それを全世界の人びとに開示する時期は?
その時期も、メンバーたちに示された。
―では、その開示に合わせて、ノーマル、エリート、エクセレンス、ハイエスト、そしてスプレマシー。
クラス分けは維持するにしても、このクラス呼称はやめる、と言うことでよろしいですね。
―異議なし。
必要がないのであれば、そんな呼称は即刻やめてもらいたい。スプレマシー、至高か。居心地が悪い。
ハイエストも、エクセレンスも、そしてエリートたちもそうだろう。
そのような上下関係を連想させるような呼称ではなく、もっと穏やかな、そう、このクラス分けの本来の意味に沿った呼称にしましょう。
レベルポイント制は継続するが、70.0ポイント以上の人にも本人への開示はやめる。
エリートに相応しい人間と判断したら、その時点で本人に告げる。
そして、このクラス分けが、いかなる意味の元になされたかも明らかにしましょう。
全員が同意した。
―クラス分けの意味をはっきりと知って、それでもエリートになりたいと思うノーマルの人はいるのかな。
―ほとんどいないでしょうね。
―今のこの世界の穏やかさは、かなり異なった雰囲気になるでしょうね。
―まあ、ロイヤルブルーが、ファーストミッションとセカンドミッションの範囲内で可能。それに、世界は今よりもっと楽しくなりますよ、と言ってくれているのだから。
―ロイヤルブルー、最近生き生きしていませんか
―自分には解くことのできない問題が無くなったので張り切っているんでしょうね。
―すまん。
―はいはい、ナンバー1もいつまでも落ち込まずに。失われた十年以上の時間ですか。
そんなもの人類全体の歴史からみたら、へ、みたいなものです。
―で、呼称はどうします。ロイヤルブルーに考えてもらいますか?
―まあ、それくらいは私たちで考えてみましょう。今すぐにしなければいけないわけではないし。
―あまり、あらためての過剰な思い入れのない、無機質で平板な呼称がいいかもしれませんね。
―たしかに。うん、そうしましょう。でもちょっとヒネリも効かせてみたいですね。
―であれば、私たちも今の、お互いをナンバーで呼ぶのも、もうやめませんか?
今までは、そこはかとなく漂っていたこの会合での緊張感、その理由も今は分かりましたけど、それも今後は失くなっていくでしょうから。
みなさん、それぞれの本名も、その出身地も、その経歴もよく知っているんですからね。
ロイヤルブルーを、この世界においていかに位置付けるか。そのことを討議し、最終決定したメンバーなのですから。
もう無理してナンバーで呼ぶこともないでしょう。
―ああ、それは良い提案ですね。そうしましょう。
みなさん、よろしいですね。
全員同意。
―はい、採択されましたよ。ナンバー4。
いや、イ・チュンニョン(李忠寧)。
―了解です。元ナンバー3の、クラウディア・アデナウアー。




