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第6話 犬の狩人



 村を出て、一夜が明けて。


「じゃあ、セレンはクリーチャーギアの知識があるけど、どこでその知識を得たかは思い出せないってこと?」


「うん……

 誰かに教わったのかな?」


「かもしれないな。」


 僕の場合はほとんど独学だけど、条件が違う。

 今になって思うと、僕の前世が開発者ホーガンだから、あれほど簡単にクリーチャーギアの知識・技術を習得で来たのではないか、という気がする。

 ただ一方で、育ち方が違うせいか、クロウ前世ホーガンは違う面も多い。

 食べ物の好みや、ちょっとしたクセ、性格面にもある程度の差を感じる。

 例えば前世ホーガンなら、野盗相手に大昔の機体(ムサシスタッグ)で戦おうとはしなかったかもしれない。


 あまり深く考えても、答えは出ない気はする。

 何しろ、生まれ変わるのなんて生まれて初めてだ。

 ……言葉にしてみて、おかしい気がするが。


「ねえ、クロウ。

 あれは何?」


 セレンがモニターに映る何かを指さす。

 距離が離れているため気づかなかったが、よく見るとそれは動き回る2つの獣の姿だった。

 ただし、周りの樹木よりも大きい獣だ。


「あれは……

 メガビースト!?」



●●●



 遠くからだと2頭のメガビーストかと思ったが。

 気づかれないように警戒しながら近づいてみると、それは1頭のメガビーストと、逃げ回る濃紺のクリーチャーギアだった。

 追いかけているメガビーストは、二脚走竜型・ヴェロキール。

 一方逃げるクリーチャーギアは、哨戒用イヌ型・ワーニングドッグのカスタム機のようだ。


「……どうするの?

 クロウ。」


「どうするって……」


 父さんは無理に戦うなと言ってはいたが。

 クリーチャーギアによって駆逐が進んでいるとはいえ、メガビーストは人類の仇敵。

 そのため、対メガビーストに関しては国家や所属の垣根を越えて協力することが不文律となっている。

 ましてや、目の前で危険に晒されている人がいるのだ。


「……やってみるか。」


 幸い、あのヴェロキールはこちらにはまだ気づいていない。

 魔導銃の照準をヴェロキールの胴体中央に定め、移動速度はオートで補正。

 高威力モードで衝撃魔弾を射撃した。


「Gkkueeeeeeee!?」


 狙いが少しずれ、太ももに着弾。

 ヴェロキールは脚をもつれさせ、もんどりうって倒れた。

 すぐに起き上がろうとするが、もう手遅れだ。

 2射目が首に直撃。

 首が折れた。血反吐を吐き、しばらくもがいた後、動かなくなった。


「よしっ……!」


 僕は射撃が得意というわけではないが、ムサシスタッグの補正機能が十分に働いてくれたようだ。

 逃げ回っていた濃紺のイヌ型も、ヴェロキールが倒れたことでこちらに気付き、近寄ってきた。


『すまない、助かった!』


 外部スピーカーから聞こえた声は、若い男のものだった。

 けっこう美声だ。


「無事なようで何よりです。

 こちらはクワガタの村の住人、クロウ。

 領主様の街へ向かう途中です。」


 お互いクリーチャーギアに乗っているときは、敵意がないことを示すため名前と乗ってる理由を告げるのが礼儀だそうだ。

 当然ながら、クリーチャーギアが出始めたばかりの100年前にはなかった礼儀だ。


『こちら、ビーストハンターのキチジだ。

 このヴェロキールの退治を依頼されて…………あぁ! しまったぁ!!』


 名乗ったかと思うと、急に大声を上げ、濃紺のイヌ型が首を振りだした。


「どうしましたか?」


 なにか、クリーチャーギアの重要部位でも破損してしまっていたのだろうか。

 別に、中の人間の動きを真似ているわけでもないはずなのに、妙に「困っている」ことが伝わってくる仕草だった。


『あっ、いやー…… えっと、とりあえず話がしたい。

 降りてきてもらえないか?』



●●●



 イヌ型から降りてきたのは、なんというか……美形だった。

 しかし、半泣きになっている表情からは、不思議なほどに美形っぽさが消え、『残念な人』の雰囲気が漂っていた。


「すまない、わざわざ降りてきてもらって……

 ……子供!?」


「ちょっと、事情がありまして……」


 悪人には見えないが、見た目で判断はできない。

 となれば、今は無防備な村の事情を教えるわけにはいかない。

 そう思っていると、僕の後ろから降りてきたセレンを見て、


「あー…… そういうことか、若いもんな。

 まあ、馬に蹴られたくないし、首を突っ込むのも野暮かな?」


 勝手に何か納得したようだ。


「改めて、俺はキチジ。こいつは『ワンダリングドッグ』。

 君がブッ倒したヴェロキールを退治するよう、依頼されていたビーストハンターなんだが……」


「ねえ、クロウ。

 ビーストハンターって?」


「おや、箱入りのお嬢さん育ちかな?

 ビーストハンターっていうのは、メガビーストの退治を専門とするクリーチャーギア乗りのことだ。

 退治の依頼を受けたり、賞金がかけられた特定のメガビーストを退治したりして、お金をもらう仕事さ。」


「……だってさ、セレン。」


「ありがとう、おじさん。」


「おにい……いや、おじさんは、そういう仕事をしているんだ。

 それで……」


 キチジさんは一瞬葛藤したようだったが、大人として振る舞うことを選んだようだ。


「俺が退治しなきゃいけないメガビーストを、君が倒してしまったからね……

 初撃を撃ち込んだまではよかったんだが、それで倒しきれず、逃げながら撃ってもロクに当たらず……

 いや、『よくも獲物を横取りしやがったな!』みたいなことは言わない。

 言わないが、これじゃ報酬を受け取れない……」


 キチジさんは、再び半泣きになってしまった。


「……おじさんが倒したって、言えばいいんじゃないの?」


「それはできない。

 もしバレた時、俺の信用がなくなっちゃうからね。」


 存外、真面目な人のようだ。


「そこで、とても厚かましい頼みになるんだが……

 俺が依頼主に報告するのに君も同行して、報酬を受け取れるよう、証言してもらえないか?」


「どういうことですか?」


 回りくどい気がするんだが。


「あのヴェロキールは賞金首じゃないから、依頼を受けた俺以外が退治しても依頼主が金を払う義務はない。

 だが君が『ビーストハンターの仕事を手伝った』、という体裁にすれば、あくまで俺が依頼を果たしたということになる。

 頼む! 俺が受け取るのは報酬全体の3……いや、2割でかまわない。残りは全部やるから!」


 随分と控えめな言い分な気がするが、それだけ切羽詰まってるということだろうか。

 しかし、こちらとしても、棚ぼた式に報酬を横取りするのは気分が悪い。

 少し考えて、


「ええと……

 じゃあ、こういうのはどうでしょう。

 僕たちは、領主様の街に行って、しばらく滞在し、それからクワガタの村に戻る予定です。

 キチジさんには、その間の護衛をしてもらい、報酬として、本来キチジさんがもらうはずだったお金を支払うというのは。」


 僕はそう、提案した。

 キチジさんは一瞬ぽかんとして、


「ありがてえ……!

 救いの神さまだっ……!!」


 突っ伏して泣き出した。

 せっかく美形なのに、オーバーリアクションで台無しな人だ。


「ねえ、このおじさんに守ってもらうの?

 メガビーストから逃げ回ってたけど、役に立つの?」


 セレンが、厳しい言葉を出す。 

 キチジさんが一瞬で泣き止み、絶望の顔を向ける。

 どうにもセレンは記憶喪失の影響か、常識に疎い気がする。

 あと、人の感情や気遣いにも。


「セレン、そういうことは本人のいるところで言っちゃダメだよ……

 いや、そうじゃなくて。」


 確かに逃げ回っていたが、それはあくまで結果だ。


「逃げ回っていたけど、その機動、ルート取りが上手いんだよ。

 自分のクリーチャーギアには負担をかけないように気を使いつつ、相手の疲労は溜まるよう動き回っていた。」


 衝撃弾が太ももに当たっただけでヴェロキールが派手に倒れこんだのも、おそらくそのおかげだ。


「あと多分、最初に撃ち込んだ一発も結構効いてたんだと思う。

 キチジさん、今回だけじゃなく、いつも最初の一発はうまく当たるでしょう?」


「ああ……よくわかったな。

 君の言う通り、基本最初の一撃で仕留めて、無理だったら逃げ回って疲れを待つのが俺のスタイルだけど……」


「長砲身の大型魔導銃に、ギリギリまで装甲を削ったイヌ型。

 欠点は、動きながらじゃ長い砲身が揺れて狙いが定まらないことかな?」


「へえ……結構すごいんだね、おじさん。」


「……いや、クロウ君の方が余程すごいよ……!

 ちょっとの動きと機体を見ただけで、そこまで当てるなんて……」


「クリーチャーギアが好きで、勉強しましたから。」


 原型になったワーニングドッグの同型機が村にあったから、見当がつけれたという面もある。


「お互いのことがちょっとわかったところで、行きましょうか。

 キチジさんも、まずは領主様の街へ向かうってことでいいんですよね?」


「ああ。

 あと、君が雇い主なんだから敬語はいらない。俺も苦手だしな。

 もっとも、俺の護衛なんて必要なさそうな気もするが……」


「わかった。

 それじゃあよろしく!」



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