第5話 モンスターの襲撃
ガゴン、ガゴン、ガゴン、ガゴン。
一定のテンポで重い金属音が響き、クワガタが荒野を行く。
「ゆっくり動いてるのに、思ったより速いね?」
「人間とは脚の長さが違うからな。
下手に速度を上げると脚に負担がくる。
虫型、動物型にかかわらず、移動に使う時は大体この程度の速さだよ。」
計器の表示は、時速30キルメイル。
人間の走る速さの2倍程度だ。
「……そろそろお昼だ。
一度止めて、昼食も兼ねて休憩にしようか。」
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ムサシスタッグを降り、大きく伸びをした。
ゴーグル越しの太陽がまぶしい。
サスペンションが劣化しているせいもあり、振動が体に堪える。
セレンも僕に続いて降り、同じように体を伸ばした。
「そういえば……」
「うん?」
「ムサシスタッグを動かせたのは、村ではクロウだけなんだよね?」
「あー……
うん、他の人でも全く動かせないってこともないんだけどさ。」
修理中に、他の大人たちも動かせるかどうか試してみた。
「100年前の機体だからなぁ。
クワガタ形態だけに絞っても、操縦系のクセがかなり強くって。」
現在のクリーチャーギアは、ある程度オートマチック化されており、簡単な操作である程度勝手に動いてくれる。
主頭脳の容量が発達しているおかげだ。
一方ムサシスタッグは、簡易の操縦補助システムはあるものの、操縦者が判断、操作すべきことが比較的多い。
そのかわり、反応速度は早く、使いこなせればより精密で自由な操作が可能なのだが。
「そもそも、搭乗ハッチを開けるのにパスコードが必要なんだけど、パスコードをきちんと覚えられる人がいなかったんだ。」
「パスコードって、あの光の模様のアレ?」
「そう、アレ。」
「そんなに難しくないと思うんだけど……
わたしも覚えられたし。」
「僕もそう思ったんだけどなぁ……」
慣れれば入力に1秒かからないし、そんな複雑でもないと思うんだが。
「クリーチャーギアの神経配線図として、ライン60本は破格の単純さなんだけどなぁ……」
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僕は一度だけ、街へ行くのに同行させてもらったことがある。
その時はキャリーキャタピラーの荷台に乗せてもらった。
「あった、目印の残骸。
ここまでは、予定通りのペースで着いたな。」
日が暮れかけたころ、クリーチャーギアの残骸を見つけた。
あの時も、そこを野営の場所にしていたのだ。
「ずいぶん大きいね。」
「あぁ、なんでも昔は、クリーチャーギアを大型化させるのが流行ったんだとか。
これはその時代の残骸なんだってさ。」
ムサシスタッグのクワガタ形態よりも二回りほど大きい、動物型のクリーチャーギア。
破損が激しく、何の動物を模したものかも判断できないが、いずれ調査してみたいと思っていたものだ。
「興味は尽きないし、ちょっと調査を……と言いたいところだけど、今回は我慢だ。
で、一旦降りて、少し体をほぐしたら、今日はムサシスタッグの中で一泊する。」
「外で寝ないの?」
「そりゃもちろん。
メガビーストとは早々遭遇しないとはいえ、普通にモンスターが出るから。」
「……モンスター?」
「モンスターも知らないの!?
あっ、そうか……街で生活してると今時、見る機会もないだろうしなぁ……」
僕だって数えるほどしか見たことはないし、街の生活なら知識としてすら必要ないかもしれない。
「モンスターって言うのは、狂暴で、人を襲う、場合によっては魔導まで使ってくるような、危険な動物のことだ。
そもそも、『メガビースト』自体がモンスターの巨大な奴を指す呼び名なんだ。」
「そんな動物がいるの?」
「大昔は相当な脅威だったみたいだな。
でも、だいたい800年くらい前かな?
そのころから、魔導や武器を発達させて、人間が戦えるようになってきて。
それでもモンスターの中でも巨大な奴……メガビーストには、軍隊でも歯が立たなかったけど。
今は普通のモンスターなんて、メガビーストを退治するついでに駆除される、ただの害獣みたいな扱いさ。」
「なら、平気……?」
「僕みたいな、普通の村人には十分危険な相手だけどね。
一応、魔導銃は持ってきてるけど。」
できれば、これを撃つ事態には遭遇したくない。
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「遭遇したくなかったんだけどなぁっ!!」
夕食が鶏の揚げ物だったのが災いしたんだろうか。
ムサシスタッグに戻る直前、横合いから襲い掛かってきたのはサル型モンスターだった。
「Kykyyiiiii!!」
甲高い声を上げながら掴みかかってくる手を、とっさに掴んだ魔導銃の銃身で押し返す。
とはいえ、力比べで勝てるはずもない。
再び掴みかかってくるのを転がりながら躱し、銃口を向ける。
装填してあるのは火炎魔弾。当てれば一発で追い払えるだろうが……
「クソッ、近い!!」
火炎魔弾は着弾点から火が吹き上がる性質上、至近距離で撃つと僕も巻き込まれてしまう。
大火傷はまぬがれない。
「Kyii!」
「うわっ!?」
だが、モンスターは僕よりも強く、速い。迷ってる暇はない。
「死ぬよりはマシか……!」
腹をくくって引き金に指をかけ――
「避けて、クロウ!」
セレンの声に、とっさに身を伏せる。
直後、鈍い打音。
人の頭ほどの岩が、モンスターの頭に直撃した。
「セレン!?」
言いたいことは色々あるが、まずはモンスターとの距離を離す。
今度こそ引き金を引く。
「kyiii……!!」
着弾し、炎が上がり、モンスターが断末魔の声を上げた。
「クロウ、大丈夫?」
「セレン、ありがとう!
危なかったぁ……!」
「これで、よかった?」
「うん、おかげで助かったよ!
……ところで、あの岩はどうやって?」
「……?
ただ、持ち上げて……投げただけだよ?」
セレンの腕を見る。
どう見ても、女としても細い方だ。
一方、投げられた岩を見る。
重さにして、だいたい20キルガルム程度だろうか。
持ち上げるだけでも、ちょっと大変な重さに見える。
「……セレンって、結構力持ちなんだな。」
「そう……なのかな?」
セレンは小首をかしげた。




