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第5話 モンスターの襲撃



 ガゴン、ガゴン、ガゴン、ガゴン。

 一定のテンポで重い金属音が響き、クワガタが荒野を行く。


「ゆっくり動いてるのに、思ったより速いね?」


「人間とは脚の長さが違うからな。

 下手に速度を上げると脚に負担がくる。

 虫型、動物型にかかわらず、移動に使う時は大体この程度の速さだよ。」


 計器の表示は、時速30キルメイル。

 人間の走る速さの2倍程度だ。


「……そろそろお昼だ。

 一度止めて、昼食も兼ねて休憩にしようか。」



●●●



 ムサシスタッグを降り、大きく伸びをした。

 ゴーグル越しの太陽がまぶしい。

 サスペンションが劣化しているせいもあり、振動が体に堪える。

 セレンも僕に続いて降り、同じように体を伸ばした。


「そういえば……」


「うん?」


「ムサシスタッグを動かせたのは、村ではクロウだけなんだよね?」


「あー……

 うん、他の人でも全く動かせないってこともないんだけどさ。」


 修理中に、他の大人たちも動かせるかどうか試してみた。


「100年前の機体だからなぁ。

 クワガタ形態だけに絞っても、操縦系のクセがかなり強くって。」


 現在のクリーチャーギアは、ある程度オートマチック化されており、簡単な操作である程度勝手に動いてくれる。

 主頭脳の容量が発達しているおかげだ。

 一方ムサシスタッグは、簡易の操縦補助システムはあるものの、操縦者が判断、操作すべきことが比較的多い。

 そのかわり、反応速度は早く、使いこなせればより精密で自由な操作が可能なのだが。


「そもそも、搭乗ハッチを開けるのにパスコードが必要なんだけど、パスコードをきちんと覚えられる人がいなかったんだ。」


「パスコードって、あの光の模様のアレ?」


「そう、アレ。」


「そんなに難しくないと思うんだけど……

 わたしも覚えられたし。」


「僕もそう思ったんだけどなぁ……」


 慣れれば入力に1秒かからないし、そんな複雑でもないと思うんだが。


「クリーチャーギアの神経配線図として、ライン60本は破格の単純さなんだけどなぁ……」



●●●



 僕は一度だけ、街へ行くのに同行させてもらったことがある。

 その時はキャリーキャタピラーの荷台に乗せてもらった。


「あった、目印の残骸。

 ここまでは、予定通りのペースで着いたな。」


 日が暮れかけたころ、クリーチャーギアの残骸を見つけた。

 あの時も、そこを野営の場所にしていたのだ。


「ずいぶん大きいね。」


「あぁ、なんでも昔は、クリーチャーギアを大型化させるのが流行ったんだとか。

 これはその時代の残骸なんだってさ。」


 ムサシスタッグのクワガタ形態よりも二回りほど大きい、動物型のクリーチャーギア。

 破損が激しく、何の動物を模したものかも判断できないが、いずれ調査してみたいと思っていたものだ。


「興味は尽きないし、ちょっと調査を……と言いたいところだけど、今回は我慢だ。

 で、一旦降りて、少し体をほぐしたら、今日はムサシスタッグの中で一泊する。」


「外で寝ないの?」


「そりゃもちろん。

 メガビーストとは早々遭遇しないとはいえ、普通にモンスターが出るから。」


「……モンスター?」


「モンスターも知らないの!?

 あっ、そうか……街で生活してると今時、見る機会もないだろうしなぁ……」


 僕だって数えるほどしか見たことはないし、街の生活なら知識としてすら必要ないかもしれない。


「モンスターって言うのは、狂暴で、人を襲う、場合によっては魔導まで使ってくるような、危険な動物のことだ。

 そもそも、『メガビースト』自体がモンスターの巨大な奴を指す呼び名なんだ。」


「そんな動物がいるの?」


「大昔は相当な脅威だったみたいだな。

 でも、だいたい800年くらい前かな?

 そのころから、魔導や武器を発達させて、人間が戦えるようになってきて。

 それでもモンスターの中でも巨大な奴……メガビーストには、軍隊でも歯が立たなかったけど。

 今は普通のモンスターなんて、メガビーストを退治するついでに駆除される、ただの害獣みたいな扱いさ。」


「なら、平気……?」


「僕みたいな、普通の村人には十分危険な相手だけどね。

 一応、魔導銃は持ってきてるけど。」


 できれば、これを撃つ事態には遭遇したくない。



●●●



「遭遇したくなかったんだけどなぁっ!!」


 夕食が鶏の揚げ物だったのが災いしたんだろうか。

 ムサシスタッグに戻る直前、横合いから襲い掛かってきたのはサル型モンスターだった。


「Kykyyiiiii!!」


 甲高い声を上げながら掴みかかってくる手を、とっさに掴んだ魔導銃の銃身で押し返す。

 とはいえ、力比べで勝てるはずもない。

 再び掴みかかってくるのを転がりながら躱し、銃口を向ける。

 装填してあるのは火炎魔弾。当てれば一発で追い払えるだろうが……


「クソッ、近い!!」


 火炎魔弾は着弾点から火が吹き上がる性質上、至近距離で撃つと僕も巻き込まれてしまう。

 大火傷はまぬがれない。


「Kyii!」


「うわっ!?」


 だが、モンスターは僕よりも強く、速い。迷ってる暇はない。


「死ぬよりはマシか……!」


 腹をくくって引き金に指をかけ――


「避けて、クロウ!」


 セレンの声に、とっさに身を伏せる。

 直後、鈍い打音。

 人の頭ほどの岩が、モンスターの頭に直撃した。


「セレン!?」


 言いたいことは色々あるが、まずはモンスターとの距離を離す。

 今度こそ引き金を引く。


「kyiii……!!」


 着弾し、炎が上がり、モンスターが断末魔の声を上げた。


「クロウ、大丈夫?」


「セレン、ありがとう!

 危なかったぁ……!」


「これで、よかった?」


「うん、おかげで助かったよ!

 ……ところで、あの岩はどうやって?」


「……?

 ただ、持ち上げて……投げただけだよ?」


 セレンの腕を見る。

 どう見ても、女としても細い方だ。

 一方、投げられた岩を見る。

 重さにして、だいたい20キルガルム程度だろうか。

 持ち上げるだけでも、ちょっと大変な重さに見える。


「……セレンって、結構力持ちなんだな。」


「そう……なのかな?」


 セレンは小首をかしげた。



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