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最終話 天才技師の最高傑作



~75年前、リッド・マグラッド~


 この地下工房を建てて何年になるだろうか。

 表向きには、私はもう第一線を退いた過去の人間だ。

 より操縦性を増したクリーチャーギアは私の手を離れて量産され、メガビーストは順調に駆逐されていく。


 すべてが順調に進み、わが身を顧みる余裕ができた時、私は己の浅ましさに絶望した。

 もう、取り返しはつかない。撤回するには、あまりに時が流れすぎた。

 真実を話しても、『謙遜して友人ホーガンを持ち上げているのだ』としか受け取ってもらえない。

 また、すべてを投げ打つには、築き上げてきたものが大きすぎた。

 私がまとめた技術は、大勢の社員と関連する業者の生活に結びついている。


 私は、半ば逃避の為にこの地下工房を建て、研究にいそしんだ。

 心の内に汚れを抱えたまま、自分の最も得意とする分野――『人工頭脳』の研究を続けた。


 ――そして、『人工知能セレン』は完成した。

 皮肉にも、この世で最も汚らわしい行いをした私は、最も無垢な心を持つ存在セレンを生み出してしまった。


 身勝手極まりないが、私は安堵した。

 この存在は、私が決してかなわないと思っていたホーガンを上回る分野があるという証拠。


 人造人間セレンは、新たなる生命と言っても過言ではない存在だ。

 はっきり言って、今の人類には扱いきれない存在。決して、公開することのできない技術。

 自分自身の力で生み出した成果を発表することすらできないのは……ホーガンの功績を奪った罰か。


 何も考えずに、走り抜けることだけを目的として走り抜けた後に生み出されたセレン。

 私が育てることはできない。

 私はこの無垢な命を育てるには、あまりに汚れている。

 何より、もう寿命がない。

 このセレンは、誰かに託すほかない。

 だが、誰に?

 人格だけの問題ではない。セレンに何かあったときに、診てやれるだけの知識が必要なのだ。


 考え抜いた末、セレンは未来に託すことにした。

 私が昨年、ようやく開くことができた友の遺産(ムサシスタッグ)

 あのパスコードを解くには、クリーチャーギアの神経系に対する造詣ぞうけいと、歴史に対する知識が問われる。

 少なくともあれが解ける者ならば、セレンの異常性にも気付き、粗末に扱うようなことだけはないはずだ。


 願わくば、正しき心を持つ者に出会えることを――



●●●



 セレンは、75年前の思い出をクロウとリーエに語り終えた。


「そういう事だったのか……」


 リーエは、安堵と罪悪感が入り混じった、複雑な表情を見せた。


「正直言って、私はリッド・マグラッドがただ悪辣なだけの人間じゃないと知って、嬉しいと思っている。

 だけど、ホーガン博士に対してしでかしたことは許されることじゃない……

 私は一体、どうすればいいんだ?」


「別にどうもしなくていいんじゃない?」


 セレンが平然と言う。


「どうもって……でも、それじゃあホーガン博士の名誉が……!」


「いや、現状でも十分な評価はされてるだろうう。

 クリーチャーギアに関する本ならどんな本にもリッドと共に名前が載っているし、最初に原型を作ったという点ははっきりしてる。

 何より、この話を下手に突っつくとセレンの事に言及することになるだろ?」


 セレンの記憶が戻り、謎がすべて解明された今、僕にとってはセレンの素性をもらさないことが最も重要なことだ。

 セレン自身がロクな目に合わないのは確実だし、そもそも『果てしなく生命に近い存在』を造ってしまう技術は危険すぎる。

 その点はリーエもわかっていることだ。


「リッドもホーガンも、クリーチャーギアを愛した。

 あんたも、クリーチャーギアの為に知識と遺産を使ってくれ。」


「そうか……

 なんだか妙な気分だ。

 貴方はまるで、リッドやホーガンを友人のように扱うんだな。」


「偉人だのなんだの言ってもただの人間だ。

 そんなことは、今のセレンの話を聞けばわかるだろう?」


「そうだな……その通りだ。」


 リーエは、つきものが落ちたような穏やかな表情を浮かべていた。



●●●



半年後。


「ようやくクワガタの村に帰れるね。」


「一応手紙は何度も送ったけど、父さんも母さんも、心配してるだろうからなぁ……」


 地下洞窟で機能停止したムサシスタッグの修理は、リーエの会社の工房で行われた。

 こまめに整備し、改修を加えながら使っていたとはいえ、大本は100年前の骨董品。

 部品の部品に至るまで完全に分解する大規模なオーバーホールは、大勢の社員を使った上でもこれだけの時間を必要とした。


 そして結局、修理を終えたムサシスタッグは僕の手に戻ってきた。

 オーバーホールした際、100年前の設計図と照らし合わせて調査した結果、僕が新たにカスタムした部分以外は当時のままだということがわかったからだ。

 あくまで設計図通りの代物なら、わざわざ現物にこだわる理由もない。


「まずは村に戻って、その後アラウィズ様やキチジさん、クラームさんにもお礼を言わないとね。」


「あっちこっちに随分世話になったからな。」


 元々、王国を追われたのはリーエの要望で帝国の工作員が動いていたから。

 結局帝国側はムサシスタッグの現物を手に入れたので、これ以上工作員を動かす理由はない。

 なので、後はイゼー中将やアラウィズ様が、僕の容疑を晴らしてくれたそうだ。


「帰ったら、あらためて勉強しないとな。

 頭脳ソフト方面も、苦手だからってそのままにはしておけないし……」


 何より、セレンに何かあった時、『直せません』じゃ済まされない。

 それこそ、セレンをもう一人造れるくらいの知識が必要だ。


「なんだかんだでリーエの工房を見せてもらったけど、帝国のクリーチャーギアがここまで進歩してるとはなぁ……

 もう完全に、僕は『追いかける』側の人間なんだ。」


 ソルジャータイプの最新型は、その性能もさることながら、僕の予想をはるかに下回る製造費の安さがすさまじい。

 ホーガンの死後100年、予想以上に技術と英知は進歩し続けていたのだ。

 その気になれば現時点でも、ムサシスタッグを上回るクリーチャーギアを、当時よりはるかに安価に造ることも可能だろう。


「その方が楽しいでしょ?」


 楽し気に微笑むセレンの首元に、いつぞや買ったロケットペンダントが光る。

 中身は僕も知っている、2枚の写真。

 1枚は、リーエに写しを撮ってもらった、リッドとセレンが写った75年前の写真。

 もう1枚は、新しく撮った、僕とセレンが写った写真。


「ああ。そうだな。

 慌ただしい旅だったけれど、いろんなものを見ていろんな人と会った。

 まだまだ、僕の知らない物事なんていくらでもある。

 セレンの事を知るにはまたリーエに協力を仰ぐ必要だってあるし、王国内だけでもいくつか、参考になりそうな研究をしてるクリーチャーギアの工房がある。」


「うん。

 もっともっと、一緒に旅しよう。 クロウ!」



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