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第38話 最期の鍵



 白黒2体の武者が同時にハルバードを振り下ろす。


「『九百九十九ここのおつくも』、抜刀!」


 妙な気配を感じ、攻撃を変形する動きによってかわす。

 振り下ろされたハルバードは岩盤を深く切り裂き、岩に固く食い込んだハルバードを、しかし2体は容易く引き抜いた。


「凄まじい膂力……ムサシスタッグ以上だ!」


 あれでは、クワガタ形態の装甲の厚みであっても受けきることはできなかっただろう。


『まさか……資料にあった、超高級ワンオフ型クリーチャーギア!?

 ペーパープランだけだと思ってたのに、実機があったのか……!』


「超高級機か……こんなシロモノが門番なんだ、この先にあるものは期待できそうだな……」


 リーエの言葉に、予想が当たっていることを確信する。

 なにしろリッドは、ムサシスタッグの完全な設計図を持っていた。

 晩年のリッドが所有していたであろう資産を考えれば、ムサシスタッグ以上のスペックを持つクリーチャーギアを2体も用意できても不思議ではない。

 しかし同時に、そのリッドですら大量には用意できない機体だということでもある。


「ってことは……」


 一瞬姿勢を低くした2体は、放たれた矢のように突っ込んできた。


「速い! そして早い!」


 リーエのヘヴィソルジャーの方へは攻撃しないあたり、完全にこちらが狙いだとわかる。

 同型の機体、同型の思考ルーチンを持つが故の高速かつ緊密な連携攻撃。

 二刀で勢いを殺し、肩装甲で流してようやく無効化できているが、それも長くはもたないだろう。


「流石は天下のリッド・マグラッド……!

 まともにやっては勝ち目がないか!」


「どうするの、クロウ?」


「いつも通りだ、セレン!

 そもそも僕はただの技師、まともにやりあっても勝てないのはいつもの事!!」


 今までだって、超巨大メガビーストだの一流の軍人だのと、僕の戦い方でやりあってきた。


 僕は、ムサシスタッグで湖に飛び込んだ。


『何を!?』


 予想通り、元がメガビーストの巣穴なのでかなり浅い。ムサシスタッグの腹程度の深さだ。

 完全防水とはいかないが、この程度の水で異常をきたすほどやわでもない。


「……来るか!」


 今まで何度もここに来ているリーエが、この2体のクリーチャーギアを知らないということは、どこかに隠れていたという事だ。

 そしてこの空間の中で隠れる場所があるとすれば水中だろう。

 つまりこの2体は完全防水の上に水中での稼働も可能で、水辺で戦えばムサシスタッグの方が不利と判断した。

 その判断は正しい。

 だが、僕だって考え無しにこんな行動をとったわけではない。


「引き付けて、引き付けて…………強制放熱!!」


 蒸気が爆発し、白煙が空間を満たす。


『うわっ! 何も見えない……!?』


 人間が操っているのだから当然のことだが、クリーチャーギアは視界に頼って戦う機械だ。

 それは自動操縦であっても変わらない。


 二刀がそれぞれ、白と黒の門番を貫く。


「やった!」


『すごい……これがホーガン博士の最終傑作……!!

 リッド・マグラッドの最高級機2体ですら……!』


「いや……こっちも限界だ。」


 確かに門番は、首に刀を差しこまれたことで伝達系を断たれて停止した。

 だが同時に、ムサシスタッグもその姿勢のまま動かなくなっていた。


 ジガットと戦った時の可変機構の負荷に加え、水につかった状態という異常環境での強制放熱の使用。

 そしてトドメとなったのは、2体の門番の最期の抵抗。

 自動で動く機械であるが故の、人間には不可能な高速のカウンター。

 直撃は避けたものの両肩装甲を損失し、上腕は半ばまで切断され、かろうじて一部のフレームでつながっている状態だ。


「……ここまでやられたのは初めてだね……」


「すまない、ムサシスタッグ……」


 完全には性能を活かしきれない、自分の技量不足が悔しくてたまらない。

 だが今は、さらに大事なことがある。

 僕たちは、大きな鉄の扉へと歩いて行く。



●●●



 リーエから手渡された、端の擦り切れた厚めの手帳。

 見覚えのある文字。几帳面な角ばった文字は、リッドの癖だ。


「どうだ、セレン?」


 厳重に保管されていた手記を、今、セレンが最後のページをめくる。


「……思い出せそうだけど、何か一つだけ足りないような感覚……?」


「内容はどうだった?」


 僕自身は、手記を読んでいない。

 友人だからこそ内心に踏み込むべきではないと思うし、リッドも望んではいないと思うからだ。


「技術的な事は、何も。 あくまで心の内を書いただけみたい。」


「そうか……」


 そうなると、この工房に収められた莫大な遺産を一つ一つ精査していくことになるのか?

 気の遠くなるような作業だが……


「……ねえクロウ、リッドさんって、どんな人だったのかな?」


 セレンが小声でそう聞いてきた。


「うん? そうだな……

 一見すると真面目一辺倒に見えるけど、時にはささやかなイタズラをしかけたり、実はジョークが好きだったり……人に好かれる男だったよ。

 あと、気が利くとか、細かいことによく気付くとか、そんなところがあったな。」


 僕も、リーエには聞こえないように小声でそれに答える。


「じゃあ、これも何かあるのかな?

 この手帳、裏表紙が表紙より少しだけ厚いんだけど……」


「なに!?」


 セレンの言う通り、測ってみると紙一枚分厚い。


「これは……」


 リーエも、何度かこの手記を手に取っていたが気付かなかったようだ。


「……調べてみても?」


「……ええ、やむを得ないでしょう。」


 リーエの許可を得て、薄いナイフを刺し入れる。

 中身を傷つけないよう、そっとナイフを動かし、紙の重なりをはがす。


「……写真?」


 手帳と同様に、古ぼけた写真。

 写っているのは、年老いたリッド・マグラッドと、もう一人。


 それを見た瞬間、まるで時が止まったかのようにセレンが体を硬直させた。


「……思い出した。」



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