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第3話 少女の名前



 とりあえず、謎の少女と共にムサシスタッグから降りた。

 様子を見るために、近くまで来ていた父さんと村長は随分と驚いていた。

 まずは、母さんの無事を確かめるため家に戻ることに。

 謎の少女も、分が誰だかわからないというので、ひとまず付いてくることになった。

 幸い、村の被害は最小限にとどめられたようで、母さんも怪我一つなかった。


 そして、滅茶苦茶怒られた。

 この非常時に勝手に一人で行動して心配をかけたのだ、怒られるのは当然だろう。

 父さんがあれほどまでに怒っているのを見るのは初めてだった。

 母さんには泣かれてしまった。


 ただ、最後に父さんが、


「……だけど、クロウが戦ってくれていなかったら、もしかしたら村ごと皆殺しにされていたかもしれない。

 大人としては不甲斐ない限りだが……ありがとう、クロウ。」


 そう言ってくれた。


 僕は、ムサシスタッグで戦ったことに関して、間違ったことをしたとは一切思っていない。

 だが、こんな無茶はこれっきりにしよう。

 いずれにせよ、ムサシスタッグには大規模な改修が必要だ。

 この村で、しばらくは時間をかけて、ゆっくりと直していこう。


 ホーガン(ぜんせ)の記憶を得て、最後の心残りであった旅に出たいとは思っていたが……

 クロウ(いま)の体になってからの、15年近い記憶がなくなったわけではないのだ。

 両親に心配をかけるのは心苦しい。

 なら、もう何年か待ってから、旅に出ればいいさ。


 そう、思っていたのだが……



●●●



 半壊した村長の家に、僕、父さん、村長、そして謎の少女が集まっていた。

 少女はあの奇怪な服では目立って仕方がないので、母さんの昔の服を引っ張り出して着ている。


「どこの誰だかわからない?」


 少女が誰なのか、村長に調べてもらえるよう頼んでおいたのだが、結果は不明ということだ。

 もっとも、この返答は予想していたことではある。


「うむ。

 住人の安否確認をしながら聞いて回ったのじゃが、誰も知らないそうじゃ。」


「まあ、小さな村ですからね。

 僕も父さんも村長も見覚えがない時点で、こんなことだろうとは思ってましたが。」


「じゃが、どこからともなく人間が湧いて出るはずもなし。

 この娘にも親御さんがいるはずじゃ。

 きっと心配しておることじゃろう。」


 村長の言葉に、父さんも共感して辛そうな顔を見せる。


「わたし……どうすればいいの……?」


 少女は相変わらず、ぼうっとした様子のままだ。

 記憶がないせいか、親というものが何なのかすらピンときてないようだ。

 父さんと村長が、一層痛ましい顔をする。


「じゃあ、余所の村か街の子だということですよね?

 身元を調べるとなると……」


「領主様のところに行かねばならんな。

 どちらにせよ、野盗に襲われたことは報告せねばならん。丁度いいといえば丁度いい。」


「でしたら、俺がキャリーキャタピラーで……」


 父さんがそう言いかけた時。


「……嫌。」


「え?」


 少女が、初めて自分の意思を見せた。


「わたし……クロウと一緒がいい……」


 そう言って、僕の袖をつかんだ。

 最初に会ったのが僕だったからか、なつかれたのかもしれない。


「これは……困ったな……」


「いや、それはそれで問題ないかもしれん。」


「どういうことです、村長?」


「今まで言い出せなかったのじゃが……

 クロウが学校に行くのに、学費を村の皆で貸してやる約束じゃったろう?」


「ええ。

 ウチのクロウなら、きっと立派な技師になれるだろうから、返済はそれからでいいと皆さん言っていただいて……

 ありがとうございます。」


「その、貸すはずの金が……ないのじゃ。」


 僕よりむしろ、父さんの顔が一瞬で青ざめた。


「あー……

 そういえば、そうなりますね……。

 村のクリーチャーギアの3/4が壊れたから……」


 来年の畑のためにもプラウブルは必須だし、滅多に来るものでは無いとはいえ、メガビーストに対する戦力も必要だ。

 そう考えると、僕はむしろ納得がいった。


「そこでじゃな……

 代わりと言っては何じゃが、領主様の街にはクロウが行って、短い期間だけでも図書館に行けるようにしてやるというのはどうかな?」


「本当ですか!?」


 100年前の記憶を得たせいもあって、僕の知識欲は爆発寸前。

 100年間でクリーチャーギアにどんな変化があったのか?

 一体どこまで僕の知らない技術が発展したのか?

 知りたくて知りたくてたまらない。


 だが同時に。

 僕が街に行くことは元々予定していたとはいえ、あんなことがあった直後だ。

 父さんも母さんも心配することだろう。

 もしも反対されたら、今回は諦めようか……そう思っている。


「……そうだな。

 クロウ、しっかり勉強してきなさい。」


 だが、父さんは、苦しげな顔をしながらも、そう言ってくれた。


「父さん!?」


「……心配でないといえば嘘になるがな。

 約束を果たせないのは俺達大人の責任。

 ギリギリとはいえ、まだ元服して(おとなになって)ないお前に負わせるわけにはいかない。」


「父さん……ありがとう!」


「それとじゃな、クロウ。

 お前には、守り神様を預けようと思うのじゃが。」


「えぇっ!?

 いいんですか!!?」


 てっきり、街へはキャリーキャタピラーで行くものかと思っていたのだが。

 ムサシスタッグに乗り続けていいというなら、これほど嬉しいことはない。


「うむ。

 調べてみたが、どうにもわしらには操縦が難しいようでな……

 そもそも、人型に変形するクリーチャーギアの扱いなど、わしらには見当もつかん。

 使える者が使った方が、守り神様も喜ぶじゃろう。」


「当然だが、大切に扱うんだぞ? クロウ。」


「もちろん!!」


 粗末に扱うはずがない。

 父さんよりも、村長よりも。

 僕が、世界で一番ムサシスタッグを大事に思っているんだから。



●●●



 ムサシスタッグは最低限の整備が必要なので、出発は3日後。

 壊された村のクリーチャーギアは下取りに出すが、野盗が乗っていた機体については、人型機を扱えるところが近辺にないため、好きにしていいと言われた。

 なので、パーツを取ってムサシスタッグの修理に使おうと思う。


 その日の夜。

 徹夜でムサシスタッグの修理にかかりたいところだが、父さんに止められて。


「クロウ、床で寝るの……?」


 謎の少女は僕から離れたがらないので、ベッドを明け渡し、僕は床に毛布を敷いた。

 本当はムサシスタッグのコクピットで寝たいくらいの気分だが、母さんに止められた。


「そりゃ、同衾どうきんするわけにもいかないし。」


「一緒に、寝るの……だめ?」


「ダメに決まってるだろう。

 君は変なことを……っていうか、いつまでも『君』って呼ぶわけにもいかないか。」


 何か、せめて名前だけでもわからないだろうか?


「そうだ、君が着ていた変な服!

 何か手掛かりがあるかも!」


「わたしの、服……

 これ?」


 着替えた際に、脱いだ服は丁寧に畳んで風呂敷に包んでおいた。

 少女からそれを受け取り、広げてみる。

 確か、ちらっと見ただけだが、何か文字が書いてあったはず。


「肩のあたりに……これか?」


 そこには金属のプレートが縫い付けてあり、やはり文字が刻印されていた。


「セ・レ・ン……『静穏セレン』って書いてあるのか?

 物静かな子だし、良く似合ってる名前じゃないか。」


「セレン……わたしの名前?」


 セレンが微笑んだような気がした。

 気のせいかもしれないけど、なんだか心臓が跳ねた気がした。


 金属のプレートに一度やすりをかけた跡があって、後から違う文字を刻印し直した痕跡があったことなんて、すぐに忘れてしまった。



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