第37話 遺産の番人
「リッドと会ったことがある? セレンが?」
「うん。
間違いない……と、思う。」
それが本当なら、セレンの誕生の謎についてかなり範囲を絞れることになる。
いや、それだけじゃない。
リッドの話を聞いて、リッドの面影を感じて、記憶が戻ったのなら――
「リッドの遺産を調べれば、もっと記憶が戻るかもしれない……!」
「ま、待て!! どういうことだ!?
その少女は人間じゃなくて? 記憶? リッドの遺産だって?」
話について行けず混乱するばかりなリーエに、あらためてセレンのことを説明した。
セレンが開けた痕跡のないムサシスタッグの中にいたこと。
以前の記憶がほとんどないこと。
僕たちがそれを求めていること。
「そんな!? ホーガン博士は人造人間まで造っていたっていうのか!?
あまりに"天才"すぎる! リッド・マグラッドなんて、まるで話にならないじゃないか!!」
「いや、ホーガンが造った、ってのはありえない。」
僕がホーガン本人であり、死ぬまでの記憶が完全にある以上、断言できる。
とはいえ、僕の前世なんて話はセレンの正体以上に証拠のない戯言なので、別の説明が必要だが。
「ムサシスタッグに組み込まれている補助頭脳プログラムは、超旧式ではあるものの現在流通している物と同系統……つまりリッドが作ったものだ。
もしホーガンの方が人工頭脳の造詣が深いなら、最終傑作たるムサシスタッグにリッドの作ったものを組み込むはずがない。」
「少なくとも、セレンの本質部分である頭脳だけは、ホーガンの作ではありえないってことだね。」
「セレンを造ったのはホーガンではなく、別の……例えば弟子たちの誰かってこと?」
「わたしは、やっぱりリッド・マグラッドだと思うけどなぁ。」
「だけど、それだと手記と辻褄が……」
「それを確かめるためにも、リッドの遺産をセレンに見せてやってほしいんだ。」
リーエは顔をしかめ、深く悩んでいる様子だった。
急にこれほど信じがたい情報を流し込まれれば無理もないだろう。
「……貴方達に、そこまでする義理は――」
「もし、リッドの遺産の閲覧を許可してもらえるなら、ムサシスタッグを譲ってもかまわない。」
「「え?」」
セレンとリーエの声が重なった。
「パスコードの解除法も教えるし、修理や改造で得たデータもすべて渡す。」
「ちょっ、ちょっと待ってクロウ!?
ムサシスタッグを渡すって……!!?」
セレンは、僕にとってどれだけムサシスタッグが大切なものか知っている。
リーエも、僕がムサシスタッグに執着していることくらいは感じているのか、提案に対して困惑している。
「ムサシスタッグは、僕の命よりも大事なものだ。……だけど、所詮はただのクリーチャーギア。ただの機械。
セレンは"ただの機械じゃない"。」
「クロウ……」
●●●
交渉した結果、僕の要望は叶うことになった。
帝国のほぼ中央に位置する、帝都のさらに地下700メイル。
クリーチャーギアに乗っていても周囲を気にせず歩けるほどの巨大空洞。
太古のメガビーストの巣であったその場所は、今は地下水の流入で半分ほどが地底湖と化していた。
「地下なのに、明るいんだね。」
「ああ、相当強く魔力が流れてる土地なんだろうな。
魔力に反応する鉱石が光を出してるんだ。」
僕とセレンはムサシスタッグに乗り、リーエが乗るヘヴィソルジャー・カスタムに先導されて進んで行く。
『この先に、かつてリッドが工房として使っていた施設がある。
生前に描いた設計図から走り書きのメモまで、クリーチャーギアに関わる遺産の原板はすべてそこに保存されている。』
「リーエさんはよくそこに行くの?」
『年に一度程度はね。』
交渉してからここに至るまで、3週間が経過している。
リーエの口数は多い方ではないが、少なくともセレンに対してはかなり態度が軟化していた。
『莫大な魔力の影響か、この地下空洞は意外なほど物の保存が良いけれど、それでも確認は必要だから……
……止まって!』
少し離れた場所に、頑丈そうな鉄の門が見えた。おそらくその先にリッドの工房があるのだろう。
だが、その間に立ちふさがるかのように、二つの影があった。
現在の一般的なクリーチャーギアよりも大柄なムサシスタッグよりも、さらに一回り大きい武者型のクリーチャーギア。
純白と漆黒、2体のクリーチャーギアは、竜を思わせる装飾をしていた。
何十年前のシロモノかはわからないが、確かに稼働している。
『どういうこと!?
前に来たときはこんなのいなかったのに!?』
「『何か』が近づいてきたのを察知したってことかな?」
「『何か』って?」
「ムサシスタッグか、あるいはセレンの方か……」
いずれにせよ、白黒の門番はハルバードをかまえ、やる気のようだ。
「無人で稼働できるほど高度な頭脳プログラム……流石リッドだな。」




