第35話 鋼鉄のアギト
~ジガット~
「まったくもって、恐ろしい少女だ……!」
純粋な性能という点で言えば、このライトソルジャー16式ですら可変機1号には劣るだろう。
しかし、それでも相手は100年前の機体だ。
「高度な主頭脳を持たないはずのクリーチャーギアを、完全マニュアル操作であそこまで操るとは!」
士官学校でのクリーチャーギアの歴史の授業を思い出した。
過去の技術の体験という名目で、博物館にあるような、最初期型のクリーチャーギアを操縦させられたのだ。
オートマチック化の恩恵を受けていないそれで戦闘するということは、毎秒変化する莫大な量のパラメータを、両手両足の指を使っても扱いきれない数のスイッチ類によって管理する地獄。
クリーチャーギアの神経系はフレームと一体化している以上、たとえあの可変機1号が改修によって現代の人工頭脳を導入していたとしても、絶望的な操縦性の悪さであることは間違いない。
「私とて、エースの端くれ。高速の機動戦闘にはいささか自負があったのだがな……!」
機動性で勝る機体に乗っていながら、あんな幼い少女相手に押し切れないとは。
『隊長、助太刀します!』
「っ……来るなっ!! 手元が狂う!」
部下が手を出すことで、逆に私の攻勢が途絶える可能性が高い。
徹底的に『押し』に徹しているから反撃を食らっていないが、この攻撃の手を一瞬でも緩めれば逆襲を受けるのは必定。
そして、ライトソルジャーの装甲は非常に薄い。一太刀でも受ければ容易く切断されることだろう。
「我慢比べだ!」
私の集中力が切れて手元が狂うか、可変機1号に限界が来るか。
しかし、戦況の変化は意外なところから来た。
「……罠か!?」
可変機1号の剣筋が、明らかに鈍くなった。
あからさまな『誘い』だが、急に剣を止めることもできない。
ライトソルジャーの振るう剣が直撃し、可変機1号の左前腕装甲に大きな傷が入る。
同時にカウンターが……来ない。
「何のつもりだ!?」
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「これは、もう…… 諦めるしかないか……?」
「え、クロウ!? なに言ってるの!?」
「僕の技量じゃまともに戦っても勝てない! 『諦めて後で直す』!!」
「え? ……きゃあぁ!?」
わざと長剣による攻撃を受ける。衝撃が機体をゆらす。
だが、今なら。
黒の機体の腕は突き出した形で伸び切り、次の動作までに数瞬の間がある。
「『九百九十九』納刀……!!」
音声コードを受け、ムサシスタッグがクワガタ形態へと変形する。
敵の腕を巻き込んだまま。
『なぁっ!??』
黒の機体から声が響くが、もう遅い。
ムサシスタッグ異常に高い出力は、高速変形を戦術に組み込めるレベルで実現するためのものだ。
短いストロークでフレームが伸縮し、回転、折りたたむその動作は、機体の中心部に近いほど強い力がかかることになる。
つまり、変形に巻き込まれたものはグチャグチャに潰されスクラップになる。
黒の機体は右腕部が肩から完全にもぎ取られ、露出した胴体フレームの一部から魔力光を吹き出していた。
『何てマネを……!』
当然、こちらも無事では済まない。
曲がりなりにもクリーチャーギアの腕一本、異物として機構に巻き込んでしまったのだ、こちらのフレームにも歪みが出る。
だが、それでも根本的な強度の差が出た。
ムサシスタッグは、まだ動ける。
「まだ、続けますか? 全滅するまで。」
外部スピーカーから脅しの声を流す。
ほとんどハッタリだ。流石にムサシスタッグがこの状態で10を超える軍用クリーチャーギアと戦うのは厳しい。
『いや……撤退だ。』
意外なほどあっさりと、関所守は僕たちを見逃す決定を下した。
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~ジガット~
「隊長、よろしかったのですか!?
ヤツも相当なダメージを受けていました、あのまま我々も加勢していれば……」
関所に戻り、ライトソルジャーから降りたところで、僚機から降りた部下が詰め寄ってきた。
「今の私の仕事はあくまで関所を守ることだ。
あのまま戦い続けていては、たとえあの機体を拿捕できてもこちらの損傷は多少では済まない。それでは関所を守る戦力が不足する。
可変機1号の拿捕はあくまで余禄、本分をおろそかにはできん。」
「それは、確かにそうですが……」
「まあ、君達としては手柄を上げるチャンスだったところを、戦いもせずに帰る羽目になったのだから不満はわかる。」
「いえ、私はそんな……!」
「だが、結果として最低限の仕事はできた。十分に情報は得られたし、手傷も負わせた。
そしてそれは君達の迅速な行動と逃亡を阻止した連携のおかげだ。
上への報告は私がまとめる、休んでいたまえ。」
「はっ。」
部下が離れた後、誰にも気づかれないようにため息をつく。
実のところ、私のわがままなのだ。
私の負けとはいえ、決着がついてしまった勝負にケチをつけられたくなかった。
私に勝ったあの少女が、あのクリーチャーギアが。地に伏す姿を見たくなかったのだ。
「まあそもそも、数を頼みにしたところであの少女に勝てるかというと、微妙なところだがな……」
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一週間後。
「現状だと、これが限界か……」
関所からさほど遠くもない山中にて。
僕とセレンはムサシスタッグの修理にかかりきりになっていた。
何しろ設備がない、部品もない。
「う~ん……戦闘になったら、って思うと不安だね。」
「とはいえこれ以上ここに隠れててもなぁ…… 見つかるリスクもあるし、切り上げるしかないかな。」
修理の甲斐あって、旅をする分には問題はない。
ただ、中型以上のメガビーストや、対クリーチャーギア戦にはかなり不安が残る具合だ。
「部品を買うにも、情報を集めるにも、なるべく大きな街へ向かわないと……」
「その必要はない。」
聞き覚えのない声だった。
「誰だ!?」
振り向いた先にいたのは、30を過ぎたくらいの女性。
かっちりとしたスーツを着こなし、見知らぬはずなのにどこか懐かしい面影を感じる顔立をしている。
「私はリーエ・マグラッド。
貴方達が苦境に立つことになった黒幕……といったところかな。」
「なに!?」
意外な言葉に詰め寄ろうとした僕を、リーエは手で制した。
「おっと、下手に動かないで。
私の部下が貴方たちを狙っている。」
藪の向こうから金属の反射がチラついた。
「何で今更、その黒幕さん本人が直々に?」
「私の目的は可変機1号……『ムサシスタッグ』。
貴方達のことはどうでもいいと思っていたけれど。一つだけ、聞き出しておきたいことがある。」
「……何が聞きたいって?」
「どうやってムサシスタッグを動かした? あのリッド・マグラッドでさえまったく手が出せなかった代物を。」




