第34話 エースの腕前
『そこのカブトムシ……いや、クワガタムシ型クリーチャーギア! 止まれ!!』
関所から出てホッと一息ついたところで、背後の拡声器から声が響いた。
「やっぱりそう簡単には通らせてくれないか……!」
「どうする、クロウ?
関所自体は越えちゃったし、無視して逃げる?」
「そりゃもちろん、最終的には逃げることになるけど……逃げ切れるかな?」
すでに、回り込んで行く手を阻むように高速型の機体が近づいてくるのが見える。
「どっちにしろ、多少の荒事は避けられないな……」
変形して人型形態になれば速度で引けを取ることはないが、完全に振り切るのにどれくらい時間がかかる?
なら、短時間で追手を潰して、それから逃げるしかない。
背後に回られないように立ち位置を調整し、帝国のクリーチャーギアを迎え撃つ――つもりだった。
「……何だ?」
様子がおかしい。
多数の機体が回り込み、逃がさないように機動するのはわかるが、遠巻きにしているだけで攻めっ気がない。
これではこちらも、うかつに距離を詰めることができない。
「何か……を待ってる?」
セレンの言葉に、僕も同じ感想を抱いた。
やがて……関所の方から、一体のクリーチャーギアがやってきた。
片手に長剣、片手に盾を持ったその機体は、細身ながらどこかその動作には重厚感があった。
『ほう……本当に待っていたか。』
その声には聞き覚えがあった。
先ほど関所で僕たちの取り調べをした、関所守のジガット。
そして、クリーチャーギアのスピーカーごしに聞いて思い出した。
「あの声……それにあの構え、立ち姿は……」
「うん。間違いない、同じだよ。」
セレンが言うならその通りなのだろう。
「三度目ってことか……!」
初めて僕たちを襲撃してきた、野盗に偽装した帝国兵の部隊。
二度目、ヘヴィソルジャーを駆り、森の街道で襲撃してきた時。
そして今。
「あの時は旧式機だったけど、今乗ってるあれは……」
細身の黒い機体は、どう見ても以前の機体より洗練されている。おそらくは最新鋭の機体だ。
まずい。
向こうが旧式機でもほぼ互角。隠し技と不意打ちでなんとかしのいだ相手だ。
それが最新鋭機に乗って、部下の数も以前の何倍もいる。
「尻尾を巻いて逃げてた方が正解だったかな……?」
「大丈夫だよ、クロウなら。」
「根拠のない励ましありがとう。
……だけど、セレンにそう言われたなら気張らないとな!」
●●●
前置きもなく、黒の機体が高速で迫る。
「『九百九十九』抜刀!!」
こちらの手の内を知っている相手だ。変形を不意打ちに使う意味はない。
青黒く染まった武者は、肩の装甲で長剣を受け、返す二刀で反撃する。
黒の機体はそれを盾で受け止め、バックステップで衝撃を打ち消しつつ間合いを開けた。
一息つく暇もなく、再度の突撃をしかけてきた。
「セレン!」
「わかった!」
僕が一刀を手放すと同時に、背面ハードポイントに取り付けられた魔導銃がパージされる。
落下するそれを後ろ手にキャッチし、接近する敵に向ける。
トリガーの操作はセレンがやった。僕が操縦桿の指を置き換えるよりも、最初からトリガーに指のかかっていたセレンの方がわずかに早い。
考えうる限り最速の早撃ちで放たれた魔弾は、しかし、装甲の端をかすめただけ。
クリーチャーギアの操縦にタイムラグが生じる以上、理論的には見てから反応できる速さではなかったはず。
「あの人……僕が『何か』行動を起こしそうな間合いだったから、『とりあえず』回避行動をとったんだ……!」
純粋に、戦闘の経験によってのみ培われた『カン』。
あくまで技師、研究者であり、『扱う』専門家ではない僕には到達できない業。
「やっぱり、当たらない……!」
前に2度戦った時に見た、ジグザグに接近する機動。
何の変哲もない、常道中の常道である動作を極めた先の奥義。
「セレン……あの機体、ちょっと異常な速度じゃないか!?」
「う~ん……うん、ムサシスタッグより速いよ。」
「マジか……!」
いや、考えてもみればあくまでムサシスタッグは100年前の機体。
当時最高の素材と技術を結集したとはいえ、いずれは追いつかれ追い越されるもの。
「結局、逃げずに迎撃を選んだ方が正解だったな……とぉっ!?」
受け止めきれず、鋭い刺突がムサシスタッグをかすめる。
「ぐっ、強制放熱っ……!」
『GRuRuRuuuu……』
こちらも対応するには少しでも速度を上げる必要がある。
装甲に隙間が開き、強制放熱に伴いムサシスタッグが唸り声を上げる。
「これで、なんとか……!」
しかしそれでも向こうの攻撃をさばくのがやっとだ。
黒の機体は時に剣舞のような連撃を放ち、時にシールドバッシュでこちらのバランスを崩しにかかってくる。
向こうが速度で上回るとはいえ、操縦に対する機体の反応性は確実にこちらが上。
それでもなお押されているとは、
「なんて技量だ……!」
強制放熱が持続する時間は限られているというのに、こちらから攻勢に出ることすらできない。
受けきれない攻撃を装甲で受けることで何とか致命傷を避け続けている状況だ。
そして、こうしているうちにも装甲に傷は増え、冷却材の残量は減り続けている。
「これは、もう…… 諦めるしかないか……?」
「え、クロウ!? なに言ってるの!?」




