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第33話 国境の関

前回投稿よりずいぶんと期間が開いてしまったことをお詫びいたします。

正直、今後もかなり更新頻度は低いままだと思いますが、たとえ時間がかかり、伏線を放り投げ強引な結末に持っていくことがあろうとも、絶対にエタることはしないと約束します。



~帝国軍の関所(もり)、ジガット~



「……つまらんな。」


 『可変機1号』奪取の任を解かれ、本来の仕事である国境の関所守に戻されて数カ月が経つ。

 王国との関係は険悪気味とはいえ、開戦には程遠い。

 新しく陛下からたまわり、カスタムまで施した最新鋭機『ライトソルジャー16式』も埃をかぶっていた。


「物騒なことを言わんでください。

 まるで戦争を望んでいるみたいじゃないですか。」


 書類に向かい合っていた部下が眉をひそめる。


「まさか、私だってそこまでは言わないさ。

 ただ、あの可変機1号との戦いを思い出すとどうにもな……」


 あれほどの機体に、あれほどの技量を持つ乗り手。

 

「奪取の任務が特殊情報部隊の手に渡った以上、もう二度と会うこともないか……」


 どうせ連中のことだ、陰湿な搦手でもって目的を成し遂げるだろう。

 決して好きにはなれない手口だが、時としてそれが必要になることくらい理解している。

 軽く首を振り、余計な考えを振り払おうとしたところに、


「失礼します。」


 執務室の扉をたたき、一人の部下が入ってきた。


「王国側から、1機の虫型クリーチャーギアが接近してきています。」


「……別に珍しくもないだろう。何故それを私に?」


「……見ていただいた方が早いかと。」


 部下と共に見張り台に上がり、双眼鏡を覗くと、


「なるほど。偽装されてはいるが、あの機体は……」


 どういうわけか、当の可変機1号がこの関所に向かってきていた。



●●●



「……慣れないわね。」


 スカートの裾を指でつまみ上げ、僕はひとりごちる。


「そう? 結構板についてきたと思うけど。」


 セレンは楽し気に女装した僕の手を取る。


「バレたらどうなるか……変態扱いは免れないわね……」


 僕たちはクリーチャーギアに乗ったまま、国境帝国側の関所の前で待たされていた。

 王国と帝国の関係は良くないが、国民の移動が制限されるほどではない。

 旅行者や商人の行き来は普通に行われているし、国境での審査はあるものの、特別な条件は必要としない。

 領主アラウィズ様が手を回してくれたおかげで、既に王国側の出国の手続きは済んでいる。


「帝国内でも大っぴらな捜索隊や指名手配みたいなことはされていないはず……だったよね?」


「ええ、もしそうならアラウィズ様側の情報網に引っかかるはずよ。」


 当然、アラウィズ様――というか王国側も帝国同様に相手の情報を集めている。

 直接的に潜り込んでいるスパイもいるだろうし、それこそ行き来している商人や一般人の話だけでもある程度の情報になる。


「下手に忍び込もうとするより、堂々としていた方がかえって安全とも言ってたね。

 ……あ、わたしたちの番だ。」


 城門の上で旗が振られるのが見えた。

 『中へ入れ』の合図だ。


「堂々と、ね……」



●●●



 通路の途中に設けられたゲートと、カウンター、そして椅子。

 ゲートの両脇には兵士が立ち、カウンターの向こうには一人の男。


「かけたまえ。」


 帝国軍の階級制度は知らないが、兵士の態度から男はかなり高い階級だと見当がついた。


「私はジガット。関所守だ。

 いくつか質問させてもらう。

 場合によっては通行を許可できなかったり、拘束もあり得るので、虚偽なく答えるように。」


 関所守……本来は直接通行者を取り調べる立場ではないと思うのだが。

 わざわざ名乗ってきたことも含め、やはりムサシスタッグに気付いているのだろうか?

 ともあれ、今は大人しく答える以外ない。


「まず、君たちの名は?」


「わたしはセリーヌ。」


「クララです。」


「通行の目的は?」


「勉学のためです。

 作業用クリーチャーギアについて学ぶために、より先進的な帝国へ渡って修行せよと、王国の領主アラウィズ様の勧めで。」


 というのが、あらかじめ用意していた言い分だ。


「ふむ……女二人というのも少し珍しいが、クリーチャーギアの……」 


 いつバレるかと思うと、胃が重く感じる。


「そういえば、君たちが乗っていたあのクリーチャーギアもただの虫型ではなさそうだな。

 あの、『青黒く汚れた』甲虫型……」


 ……やはり、ムサシスタッグに気付いているのか?


「見たところ量産品ではないようだが……何処の工房の作だ?」


 本当は僕が作ったようなものだけど……まさか、そんなことを言えるわけもない。

 当然、クワガタの村にあった100年前の機体が動いたと言っても話がややこしくなるだけだろう。


「……アラウィズ様の街の、公営工房が民間用にカスタムしたものです。」


「ふむ?」


「それがどうかしましたか?」


「いや、ずいぶん見事な機体だと思ってね。

 汚れてはいるが、手入れ自体は念入りなようだしな。」


 駆け引きのためとわかっていても、ムサシスタッグが褒められるとどうしても嬉しくなってしまう。

 ここでニヤケ面を見せるわけにはいかないが。


「それで、他に聞きたいことは?」


「いや……まあ、構わんか。

 通行を許可しよう。」


 一瞬、両脇の兵士が驚いたように肩を震わせたが、そのまま特に何もしてこなかった。


「ありがとございます。」



●●●



~ジガット~


「……意外だったな。

 可変機1号(アレ)に乗っていたのが二人組の少女だったとは。」


 部下に無理を言って面談してみたが……おそらく、あのクララという少女があの時の乗り手に間違いないだろう。


「よろしかったのですか? 行かせてしまって……」


「よろしいも何も、止める理由がないからな。」


「でも、上が躍起になって探している可変機1号の……」


「役目を下ろされた以上、私には関わりのないことだ。

 要請も受けていなければ権限もない。彼女らを捕らえて可変機1号を帝都に送ったとて、ただの独断専行だ。

 私の手柄にはならない。」


「はぁ……」


「それに彼女……クララといったか。

 あのクリーチャーギアが何処の作か聞いた時と、見事なものだと言った時。目の色が変わった。」


「それは……嘘をついているのだから、当然なのでは?」


「いや、あれはもっと複雑で……むしろ『自慢げ』な色があった気がする。」


「自慢ですか?」


「少女があの機体とどんな因縁があるのかはわからないが……ただ買ったもの、拾っただけのものということはないだろうな。」


「大昔のクリーチャーギアですよ?

 あれを造った人間の子孫だとでもいうのでしょうか?」


「……いまいちしっくりこないが、他に思いつきもしないな。

 まあ、私が考えてわかるものでもないだろう。」


 いずれにせよ、ただの興味だ。話したことだって意味などない。


「しかし、本音を言えばライトソルジャー16式で、もう一度あのクリーチャーギアと戦ってみたいところだったな。

 だがそれも、正式な拿捕の要請でもかからないことには……」


 言いかけたところで、慌ただしい足音が近づいてきた。


「失礼します! 帝都から伝令です!

 『特殊情報部隊が追っている"クワガタムシ型・武者型"の可変機が帝国領に接近、それの拿捕に各部隊協力されたし』とのことです!」


「……ふっ、渡りに船だな!

 命令とあらばやるしかあるまい……!」



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