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第32話 再来の街



 何とか追手よりも先行できたのか、最初に見つかった時以外追撃を受けることなく、領主の街に到着した。

 城門をくぐるときは念のため女装したが、特に呼び止められることもなかった。

 しかし、小細工はしてあるとはいえ番兵がムサシスタッグに気付かないはずもない。


「てことは、アラウィズ様は味方になってくれるのか……?」


 あるいは、より確実に逃がさないためにわざと街に入らせたか。


「クロウ、ダメだった時のことはダメだった時に考えようよ。」


「……ま、それもそうだ。

 どっちにしろ話を通さなきゃ進まないし、直接行ってみるか。」



●●●



「……来たか。」


「ご無沙汰しております。」


 領主アラウィズ様は以前と同じように、屋敷の使者の間で待ちかまえていた。


「君たち相手に無意味な腹の探り合いをするつもりはない。

 私は君たちがスパイなどではないと思っている。だからここへ通した。」


「信用していただけたようでなによりです。」


「信用……とは違うな。

 私にも私の思惑がある。」


「思惑?」


「そうだ。

 当然だが、王国も一枚岩ではない。貴族や軍の内部では常に熾烈な派閥争いが起きている。」


「それは……そうでしょうね。」


 権力とはそういうものだ。100年前もそうだったし、多分未来もそれは変わらないだろう。


「君たちを追うことに躍起になっている派閥と私の派閥は別ということだ。

 さらに、君たちが自身の疑いを晴らすことができれば……」


「僕たちを追う派閥に対し、領主様が有利なカードを得ると?」


「だから私は君たちに手を貸す。

 そこで……」


 領主様はそこで言葉を切り、小さなベルを鳴らした。

 すると奥の扉が開き、


「クロウ君、セレンさん!

 良かった、無事だったんだな……!」


「貴方たちのことだから問題はないだろうとは思ってたけど……

 ともあれ、全員合流できて良かったわ。」


「キチジさん、クラーム先生!」


 王都近郊で別れた、僕たちの仲間。


「先に着いてたんだね?」


「ええ。キチジくんの口添えで領主様にかくまっていただいていたの。」


「キチジさんの?」


 僕の疑問に、領主様が口を開く。


「仕事の関係とはいえ、キチジとはもう何年もの付き合いだ。

 多少とはいえ、それこそ信用というものがある」


「そうだったんですか……」


「さて、話を戻すが……私は君たちの濡れ衣を晴らす協力はする。

 だが、あくまで主体は君たちだ。矢面に立って一番努力するのも君たち4人であるべきだ。」


「まあ、そうなるよね。」


「僕も異存はありません。」


 セレンも僕も、頷く。


「結論狩る言うと、君たちには帝国に向かってもらう。

 これは国境を超えるための偽装身分証だ。」


 領主様はそう言って、圧縮情報リングをテーブルに置いた。


「……帝国に!?」


「あれ? でもこれ、2人分しかないよ?」


「ああ、順を追って話そう。

 まず、私の領地は帝国との国境に接している。多分、王国内で最も帝国について詳しいのは私だ。」


「まあ、そうでしょうね。」


「実は、ある程度の割合で、帝国からの交易商人の中にスパイが紛れ込んでいる。

 言い換えれば、帝国商人の王国内での動向を見ればスパイの方針に見当がつく。

 そこから推測するに、帝国の狙いはクロウ君、君のムサシスタッグだ。」


「そこまでは僕も予想してましたが……

 でも、それがどうして僕のスパイ容疑につながるんでしょうか?」


「最初、帝国は少数精鋭の部隊と民間用に偽装したクリーチャーギアで君を襲撃し、力づくでムサシスタッグを奪おうとした。これは間違いないだろう。

 だが、予想以上にクロウ君とムサシスタッグが強かったため失敗。それどころか、超大型メガビースト相手に大戦果を挙げたことで注目も集まっている。

 これでは正面からの奪取は不可能……となれば、君ならどうする?」


「……搦手を使う?」


「帝国側もそう思ったのだろう。

 帝国は"特殊情報部隊"を使って偽情報を流し、クロウ君を孤立させた。」


「でもそれだと、クロウが本当に王国で捕まったら帝国側は手も足も出なくなるんじゃないの?」


「無論、そのリスクはあったのだろう。

 これは私の予想だが……クロウ君が駆るムサシスタッグを相手取るよりも、王国側で解析したムサシスタッグのデータを盗み取る方が容易いと考えたのかもしれん。」


「それはわかりましたが……ではなぜ直接帝国に向かうんです?

 飛んで火にいる夏の虫ってやつなのでは?」


「もちろん危険極まりないが……それぐらい強硬な手段を取らないと状況が動かない。

 逆に言えば、大本おおもとである帝国さえ封じれば解決するということでもある。

 渦中の張本人であることに加え、最低限の人数で最大の戦力となると、クロウ君、セレン君の2人が行くのがベストだと判断した。」


「では、キチジさんとクラーム先生は?」


「私はあくまで領主としての仕事を全うするという本分がある。

 冷たい言い方になるが、君たちに手を貸すのは余禄だ。

 私はこれからもこの件に関する情報を集める必要があるが、そのためには人手が必要だ。特に、旅慣れている者の手が。」


「つまり、2人は王国に残って領主様の手伝いをすると?」


「私は妥当なところだと思うわ。

 4人でゾロゾロ行動してたら目立つし……」


「俺はクロウ君たちが心配ではあるが……

 正直、足手まといにしかならない気がして……」


 クラーム先生とキチジさんはそう応じた。


「いずれにせよ、最終的に判断するのは君たちだ。

 私の案が気に入らないのなら蹴ってくれても構わないし、より良い案があるなら出せばいい。」


「……いえ、ありがとうございます。」


 僕たちにとっては生死を分かつ問題だが、領主様にとってはさほど重要な話でもない。

 スパイ容疑がかかっている僕に無償でこれだけの情報を与えてくれたのだって、リスクのある行為だ。


「セレンは……」


「帝国に行くのは初めてだね。」


 乗り気だ。少し楽しそうなほどに。


「……よし、行くか。帝国に!」



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