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第31話 犬と蛇の番外



~クラーム~



 私の占いは良く当たるけど、抽象的なことしかわからない。

 だから、私の想像力の外のことは予知しようがない。

 村の生活では想像できる程度のことしか起きなかった。予知は役に立って、皆は感謝してくれたけど物足りなさを感じていた。

 多分、私はわがままで贅沢なんだと思う。


 何か面白いことでもないだろうかとあちこち旅してまわったけど、今回はとびきり珍しい事態になった。

 意外な再会もあったし、伝説のメガビースト・ブラギガンテをこの目で見た。

 そして、王国軍に追われることになったのもそうだ。


 キチジくんと行動を共にしているけど、こんなに長い期間、誰かと一緒に旅をするのも初めて。

 初めて会ったときは、コロコロ表情が変わるし、なんだかネガティブなことを言うしで、『この人大丈夫かな』なんて思ったけど。

 少なくとも、ビーストハンターとしての腕は中々みたい。

 相変わらず落ち着きはないけど、『意外』なところがある人は私にとっては『面白い』人。

 偶には人と旅をするのも悪くない。



●●●



~キチジ~



 実は、ビーストハンターの仕事ってのは世間で思われているほど危険なわけでもない。

 王国内で村を襲うようなメガビーストってのは、大抵はごく低級のもの。

 村に配備されているクリーチャーギアでも、なんとか追っ払う程度ならできるような奴らだ。

 ビーストハンターの仕事の大半は、戦闘用にカスタムしたクリーチャーギアでその程度のメガビーストを狩ること。別に難しいものじゃない。

 俺はさほど苦労せず金が手に入り、住民はメガビーストが退治されて万々歳。

 一番苦労するのは最初にクリーチャーギアを用意することだと言われるくらいだ。


 そんな風に、楽に生きたいと思っていた俺にとって今の状況は最悪だ。

 王国軍の1個師団に追われる? 悪夢としか思えない。

 誰かに責任転嫁したい気持ちでいっぱいだが……今更クロウのせいだと言えるほど恥知らずでもない。

 むしろクロウには散々稼がせてもらっている。その点において感謝もしている。


 そうだ、クロウに感謝すべき点はもう一つあった。

 この逃亡生活での唯一の潤い、クラームさんと引き合わせてくれたことだ。

 こんな美人と旅ができるという点に関してだけは、幸運と言えるだろう。



●●●



~クラーム~



 ただただ何もない、見晴らしの良すぎる平原。

 その中でただ一つ目立つ岩山と、その頂上に建てられた小屋。そして長銃身の魔導銃を抱えたクリーチャーギア。

 私たちはそのクリーチャーギアから隠れるように、遠く離れた岩陰にいた。


「やっぱり、動かないみたいね。」


 双眼鏡から目を離し、隣にいるキチジくんに声をかけた。


「ここまで動かないとなると、もしかしてアレ、ハリボテだったりしないかしら?」


「もしそうだったら嬉しいけど、その可能性に賭けたくはないなぁ……」


 キチジくんは眉をハの字にして岩山を眺めている。


「南周りで領主アラウィズの街まで行くには、この平原を避けては通れない。

 だけど俺たちが通ろうとすればあの見張りが止めてくるだろうし、最悪問答無用で狙撃されるだろう。

 無理やり振り切ろうにも、王国軍の砦までここからせいぜい数キルメイル。増援を呼ばれてジ・エンドってわけだ。」


「見張りを黙らせるしかないってわけね。」


「あそこまで大体5キルメイル。

 ここから狙撃して、まあ当てることはできるだろうけど、あのレッドガンナーは装甲も増加してあるカスタム機だ。

 一撃で落とすにはワンダリングドッグの魔導銃じゃ火力が足りない。」


「雷撃魔弾で神経系を焼けば……」


「駄目だ。

 クリーチャーギアを止めてもパイロットは止められない。

 信号弾の一つも上げられちまえば砦から大挙して増援が来る。」


「じゃあどうするっていうのよ。

 引き返して数日かけて迂回する?」」


 あれも駄目これも無理ではどうしようもない。

 少し苛立ってきたところで、キチジくんも真剣な目で私を見つめていることに気付いた。


「『合成魔弾』ってやつ、作れるか?」



●●●



~キチジ~



「言われた通り、雷撃と氷結を合成して、高速弾使用にしたけど……」


「ありがとう。

 これで何とかなる……と思う。」


 断言できるほどの自信はないが、やるしかない。


「本気でこれ使うの?

 確かに理論上これしか手段はないけど……重心が通常弾とは違う上に、弾道もクセがあるはずよ。

 まず当たらないと思うけど……」


 普段は不安を口にするのは俺の役目だが、今回に限ってはクラームさんも不安なようだ。


「……当ててみせるさ、見ててくれよ?」


 受け取った魔弾を魔導銃に装填し、ワンダリングドッグに乗り込む。

 スコープ越しに岩山をとらえた。

 レッドガンナーはお手本のような防御姿勢をとっており、このままでは撃ってもまともなダメージは与えられないだろう。


「……まずは一発。」


 射角を思い切り上げて、レッドガンナーのさらに上を飛び越えるように曲射で普通の火炎弾を撃った。

 しばらく時間をおいて、平原に着弾音が響く。

 レッドガンナーも音と光に反応し、そちらへ視線と銃を向けた。


「……ここだ!!」


 着弾点の方を向いたレッドガンナーは背中をこちらに向けることになる。

 狙いは首のすぐ下。コクピットハッチの開閉部と、命令を伝達する神経系が集中した人型クリーチャーギアの弱点。

 音より早い高速弾がレッドガンナーに突き刺さるまでの十数秒間、永遠に等しく長く感じる。

 モニターの向こうで、レッドガンナーがピタリと動きを止めた。

 雷撃が神経を焼き、氷結がハッチを氷漬けにする。

 クリーチャーギアは動かず、操縦者はしばらくは外に出られない。


「今だ!

 砦が異変に気付く前に抜ける!!」


『本当に一発で当てるとはね……』


 これで追手が来るまでの時間を稼げる。

 俺たちは全速力で平原を抜けた。



●●●



~クラーム~



 『合成弾を作れるか』と聞いてきた時。

 あの眼は今まで見たことがなかったものだった。

 普段とは打って変わって、自負と気迫に満ちた眼。


 実に『意外』だった。



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