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第30話 酒場の決斗



 強盗たちは人質を見張ったり、窓から外をうかがったりしている。


「……それじゃセリーヌ、やってちょうだい。

 手加減はいらないわ。」


「……わかった。」


 小声でセレンに指示を出す。

 女言葉で。


 だが、それを見とがめて強盗の1人がこちらに近づいてきた。


「コラてめえ!!

 何を話してやがる!!」


「いえ、何も……」


「余計な真似をするんじゃねえ!!」


 怒鳴りながら、剣を見せびらかすように近づいてきた強盗に、


「てめえから見せしめにしてやってもギャっ!?」


 セレンがアッパーカットを叩き込み、頭をのけぞらせた男はそのまま床に崩れ落ちた。。

 男の声と倒れる音に反応して、残りの3人が振り向く。

 銃を持っている男が2人、剣を持っている男が1人。

 男たちが武器を構えるより早く、セレンは今殴り倒した男を持ち上げ、銃を持った男の片方に投げつけた。


「バカなギィっ!?」


 まさか人間を投擲武器代わりにするとは思わなかったのだろう。

 ろくな反応もできず、投げられた男ともつれ合って壁に叩きつけられた。


「何だこの馬鹿力!?」


 セレンの異常さに混乱しながらも、3人目の男が剣を振りかざしセレンに斬りかかった。

 しかし、セレンは魔動機械だ。

 人間であれば"距離感"というものは大体の感覚でしかわからないが、セレンはそれを正確な数値で把握できる。

 つまり、間合いは完全に見切れる。


「なにぃガぁっ!!?」


 剣を空振りさせ、即座にセレンは間合いを詰める。

 振り下ろしたままの両手首をつかみ、握りつぶした。錆びていたとはいえボルトを指でねじ切るセレンの握力で。

 3人目の男は骨を砕かれる激痛に叫びをあげ、のたうち、動けなくなった。


「動くな、動くんじゃねえ!!!」


 4人目、一番離れたところに立っていた、銃を持った男。

 その銃口がセレンに向けられていた。

 怪力のセレンとて、体の強度は普通の人間とほとんど変わらない。

 セレンの体の構造は僕も把握できていないし、直せる保証もない。


「よくもやってくれたもんだな!

 俺一人じゃあ、逃げるに逃げられねえ……こうなったらテメエらも道連れだ!!」


 男は鬼気迫った表情で、引き金にかけた指を絞り、


「ウぎゃぁァ!!?」


 直後、暴発した銃は男の手を吹き飛ばし、顔に爆炎を浴びせた。


 セレンが1人目の男を殴り倒した直後、僕は混乱に乗じてスカートの下に隠していた拳銃型の魔導銃を撃っていた。

 弾は氷結魔弾、狙いは銃を持った男。

 魔導銃そのものを狙ったわけではなかったが、魔弾は偶然銃身に当たり、銃身内で弾丸が凍結。

 気付かずに撃ったため暴発を起こし、この通りというわけだ。


「死んだかな?

 ……あ、生きてるね。」


 暴発で大怪我した男は、運が悪かったのか良かったのか、致命傷ではないようだ。

 他の3人も息の根は止まっていない。

 勝手ながら、少しほっとした。

 どうせ死刑ななるような連中だし、僕が手を汚すのは構わないが、セレンにはできれば人殺しはしてほしくない。


「これで一安心……かな?」


「喜んでる場合じゃないわ。

 急いで逃げるわよ、セリーヌ。」


「ここまで目立っちゃったら手遅れじゃないの?」


 周囲には、いまだ何が起こったのか理解しきれていない、店員や客。

 乱闘の音は外にも聞こえているだろうし、すぐにも兵士がやってくるはずだ。


「兵士に捕まっちゃったらどうやっても面倒なことになるわ。

 それと、目立っちゃったことは多分大丈夫よ。」


 セレンは首をかしげていたが、


「細かいことは後で説明するわ。」


 とにかく、今はこの場を離れるのが先決だ。



●●●



~王国軍第四師団、副長~


 私が所属する第四師団は、スパイ容疑のかかっている"王都の英雄"クロウ他3名を捜索していた。

 たかが4人を追いかけるのに王国軍の1/12を割くというのは明らかに過剰戦力だが、何しろ相手が尋常ではない。

 正直、厄介な仕事を押し付けられたものだと思う。


 最初に遭遇した中隊は、クリーチャーギア16体中10体を落とされ撤退。しかも向こうに与えた損害はほぼゼロ。

 超巨大メガビースト討伐において多大な手柄を上げたと聞いていたが、対クリーチャーギア戦においてもこれほどとは。

 侮っていたつもりはなかったが、それでもなお不十分だったということだろう。


「それでは、本日の情報を報告したまえ。」


 捜索のためには部隊を細かく分割した方が探しやすいが、戦闘になった場合、小隊・中隊単位では話にならない。

 なので我々は、一般の兵士の報告をもとに予測を立てて範囲を絞り、各地に配置した大隊単位で捜索網をしいていた。


「はっ。

 本日も破棄されたクリーチャーギアは発見されておりません。

 奴らはまだ3体ともクリーチャーギアを保有したままと考えられます。」


「目撃情報は?」


「偽装の可能性も考え類似系統のものも当たってますが、そうなるとやはり、数を絞り切れず……

 イヌ型は普及率トップクラス、ヘビ型、甲虫型も珍しいものではありませんので。

 目撃情報のうち、詳細の確認まで取れたのは4割程度です。」


「ふむ……

 各地で何か変わったことは起きていないか?」


「変わったこと……ですか?」


「奴らとて旅をする以上、街に寄らないわけにはいくまい。

 変装でもしているのだろうが、何か奴らにつながりそうな事件は?」


 部下の男は分厚い報告資料をめくり、最後に近いページで手を止めた。


「そうですね、不審な人物ですと……

 『狂気の殺人ピエロ現る』、『サメ男VSゾンビ女』、あとは……『怪力娘と女ガンマンの美人姉妹』なんて噂が。」


「……演劇の演目か?」


「一応、調査対象に入れておきますか?」


「あまり深く考えたくないラインナップだが、一応な。

 少々派手すぎるが、裏をかくための偽装の一種かもしれん。」


 部下が退室し、執務室に再び静けさが戻る。


「情報が集まりすぎるというのも考え物だな……」



●●●



「……っていう風に追手側は判断するんじゃないかって思うんだ。」


「そっか、事件に巻き込まれた時点でどっちにしろ目立っちゃうから……

 いっそ開き直って裏をかいた方がマシ……かな?」


「まあ、そう都合良くいくとも限らないけどさ。

 兵士たちが突入して助けてもらうの待ってても、その後僕たちが逃げられなくなるから……」


「それもそうだね。」


「さて、追いつかれないうちに先を急ごうか。」



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