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第29話 追われの身



 人が生きるためには水・食料が必要で、旅のさなかにそれを得るにはどこかで街や村に立ち寄らなければならない。

 しかし今の僕たちは追われる身。

 特に、ムサシスタッグはクリーチャーギアである以上どうしても目立つ。

 よって、偽装は必須だった。


「クロウ、本当にこんなのでバレないかなぁ?」


 僕たちの目の前に鎮座するのは、青黒いオオカブト型クリーチャーギア……に見えないこともない物体。


「僕もちゃんとした資材を使って偽装したいところだけど、下手に買い物すると足が付くかもしれないからな。

 あり合わせだとこれが限界だろう。」


 先ほど運よくメガビーストと遭遇した。

 メガビーストの体液は洗ってもなかなか落ちない。普段は厄介なだけだが、今回に限ってはペンキ代わりに使える。

 青い血を塗りたくって装甲の色をごまかす。

 ハサミは一度取り外し、背と頭のハードポイントに付け替えたことで、一応カブトムシっぽいシルエットにはなっている。


「ムサシスタッグだけじゃなく、僕も変装した方が良いかな?」


 現状、どのレベルで捜索網が広がっているのかわからない。

 全国指名手配とまではいかないと思うが、用心にこしたことはないだろう。


「あ、それならわたしやってみたいことがあるの。」


「やってみたいこと?

 珍しいな、セレンがそう言うの。」


「駄目かな?」


「いや、別にいいけど……」


 セレンもそうそうおかしな事はしないだろう、と、この時は思っていた。



●●●



 ムサシスタッグのコクピットから、遠くの街が見えていた。

 これからあの街に向かい、買い出しに行くわけだが、


「セレン、やっぱりこの恰好はおかしくないか?」


「駄目だよ"クララ"。

 クララは女の子なんだから、言葉遣いも女の子にしないと。

 それと、今のわたしは"セリーヌ"。」


「……私の恰好、おかしくないかしら?」


「大丈夫、可愛い女の子にしか見えないよ。」


 僕はセレンの手によって女装させられていた。

 いつも身に着けているゴーグル型デバイスも外している。

 偽名を決めたのもセレンだ。

 知らなかった。

 まさかセレンにこんな趣味が芽生えていたとは。


「クラームさんに貰った化粧道具、役に立ったね。」


「セ……リーヌの服装は結構適当なくせに……!」


「うん、わたしも服や化粧は頓着しない方だと思ってたんだけどね。

 他人を着せ替えるのって、思ったより楽しいんだね。」


 確かに変装しようにも、僕は使えそうな衣服は持っていなかった。

 バレにくさという点で、女装という選択肢も悪くはない。

 しかし、


「本当に大丈夫?

 キモくない?」


「キモくないよ! とっても可愛い!

 わたしが男だったらほっとかないよ!」


 セレンが予想外にノリノリだ。

 どこでこんな言葉を覚えたんだろう。


「信用するからね?」


「大丈夫だって! もしバレたら責任とってあげるから!」


 どうやって責任を取る気だろうか。



●●●



「それで、どうしようか?」


 小さな酒場で昼食を取りながら、セレンが話を切り出してきた。


 街の見張りの兵士には『旅の姉妹』と名乗ったが、とりあえず、僕たちに対して違和感を持ってはいないようだった。

 高札も見たが、手配書は出回ってない。

 王都の英雄がお尋ね者、というのは王国的にも外聞が悪いからだろうか?

 なんにせよ、最悪の事態はまぬがれているようだ。

 とはいえ、


「状況はどう変わるかわからない。

 早く買い物を済ませてしまいたいところ……ね。」


「うん、よろしい。」


 セレンの視線に気づき、慌てて語尾を直した。

 さっきからずっと威圧感を感じている。


 ふと思ったが、これはセレンにとって人形遊び・ごっこ遊びのようなものではないだろうか?

 多分セレンに遊びの経験などはないだろう。

 情緒を育んでいくうちに、『遊び』を覚えるのは自然なことだ。


「クロウ、どうかした? 笑ってるけど。」


「いや、セレ……セリーヌが楽しいなら、それで――」


 言いかけたところで、大きな物音が僕の言葉を遮った。

 直後、ガラの悪い男たちが転げ込むように店になだれ込んできた。


「クソッ……あとちょっとだったってのに……!!」


「うるせえ!

 元はと言えばテメエがあの時しくじったせいじゃねえか!!」


 4人の男たちは手に剣や魔導銃を持って武装している。


「何だ!?」


「クララ、口調。」


「そんなこと言ってる場合!?」


 男たちは武器を上に向け、


「テメエら、動くんじゃねえ!!

 おかしな真似したらぶっ殺すぞ!!

 クソッ、なんとしてでも逃げ延びてやる……!」


 引き金を引いた。

 銃声が店内にとどろく。


「きゃああぁぁぁ!?」

「うわあぁぁ!!」


 客や店員の悲鳴が響きわたる。



●●●



「オラッ! 近づくんじゃねえ!!

 こいつらがどうなってもいいのか!!?」


 こんな不運はそうそうあるまい。

 まさか立てこもり強盗の人質になるとは。

 外には野次馬が人だかりをつくり、兵士がそれを制している。


「ううぅ……!

 どうしてこんなことに……」


 コックが嘆きの声を上げる。

 僕たちを含めて、客・店員合わせて7人。

 皆、怯えと恐怖、そして不安に顔をゆがませている。


「どういうめぐり合わせかしらね……。」


 一応女言葉で、独り言つ。


「クララ、どうしよう?」


「うーん……」


 何しろ僕たちは追われる身。

 追手側に情報を与えるような行動は慎むべきだ。

 だが、このまま大人しくしていても無事に解放される保証はない。

 強盗どもも、かなり苛立っている。いつ凶行が始まってもおかしくない状況だ。


 どうやって目立たずに状況を打破しようか……と考え、ふと思いついたことがある。

 考え方を逆転したらどうだろうか?

 ちょうど今、僕は女装をしている。


「いっそ、『思いっきり目立ってしまう』というのはどうかしら?」



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