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第28話 英雄の評判



 目指す先は領主アラウィズの街と決まった。

 しかし、王都まで来た時の街道をまた戻るわけにはいかない。


『向こうが俺たちの行先として真っ先に考えるのは"来た道"だろう。

 つまり、最短距離で戻ろうとすれば、待ち伏せされてるとこに飛び込んでくことになる。』


 とはキチジさんの言。

 普段は情けない雰囲気が目立つが、こういったところは意外としっかりしている。


「道を変えて迂回していくか?」


『それだけじゃなく、街や村に立ち寄るときには偽装も必要でしょうね。

 ムサシスタッグは目立つでしょうから。』


 厄介なことになった、と思っていると、


『手配書……とまではいかなくても、人相も伝わってるんじゃないか?

 何しろ"王都の英雄"様だからなぁ。』


『私が聞いたのだと、乗り手の顔形までは"歌"になってなかったけどねぇ。』


 キチジとクラーム先生が妙なことを言い出した。


「「何それ?」」


『王都をうろついてればどこかで聞いただろ?

 ブラギガンテ退治の英雄・深緑の武者の歌。』


「初耳だけど。」


 ムサシスタッグの歌?

 確かに王都壊滅の危機だったし、考えてみればありえない話でもないのか?


『退治のときに、王国軍以外に民間の乗り手も何人か参戦してたでしょ?

 そこから話が伝わったみたいで、酒場とか広場とか、どこ行っても弾き語りの歌い手が……』


「わたしもクロウも、工房にこもって修理と改造の毎日だったから……」


 セレンの言葉に、カースコブラが足を止めた。


『……ちょっと待って。

 私、もうちょっとデートらしい場所に行きなさいって言ったわよね?』


「ムサシスタッグの修理は急務だったし。」


「図書館と博物館には何度か行ったけど。」


『……呆れた。

 貴方たちねぇ……』


 カースコブラが首を振り、先生のお説教が始まると思った、その時。

 ムサシスタッグに衝撃が走った。

 周囲に火柱が立ち上り、爆音が響く。


「……敵襲!」


『火炎魔弾ね……!』


『うわわっ!? 追いつかれた!?』


 ゴーグルデバイスの計測では銃撃は16発。

 手持ちの魔導銃で一斉射撃したと考えると……


「1個中隊で来たか!!」


 5発被弾したが、装甲にわずかな損傷がある程度で済んでいる。

 装甲が薄いワンダリングドッグやカースコブラに当たらなかったのは幸運だ。


 直後、ブルーナイトが岩陰から一斉に飛び出してきて、こちらに銃を向けた。


『お前らは包囲されている!

 大人しく投降しろ!」



●●●



 さかのぼって、30分前。



~第四師団所属中隊長~



 最初、スパイ容疑者の追跡と聞いたときは、これほど大規模な作戦とは思わなかった。

 相手は虫型1体に動物型2体と聞いたときは、『ナイト系1体でも十分だろう』と思った。

 だから、『中隊単位で行動せよ』という命令に、効率が悪いし、大げさすぎると考えていた。


「10を超える追跡部隊が動いてると聞いたが……」


『他の部隊はまだ見つけていなかったようですな。

 我々が最初のようです。』


 隣のブルーナイトから副官の声が響く。


「……よし、仕掛けるぞ。

 まず全機による一斉射撃。警告の後、突撃する。」


「相手は"王都の英雄"、人型への可変機構を持つ特殊なクリーチャーギアとの情報ですが……」


「わかっている。

 だから最初から当てるつもりで撃つ。威嚇射撃は不要だ。」


 下された命令はクロウ他3名の連行。殺すなとのこと。

 だが、情報が本当なら火炎魔弾の一斉射撃くらいでは死なない防御性能はあるだろう。


「緑のクワガタに射撃を集中させろ。

 他の2体はあくまで普通の動物型との事だ。オマケにすぎん。」



●●●



~キチジ~



 動物型クリーチャーギアでは人型には勝てない。

 それが常識だ。

 そして俺が乗っているのは動物型で、目の前には16体の人型、しかも王国の最新鋭機。


「うおおぉぉぉぉぉぉ!?

 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬぅぅぅ!?」


 必死に逃げ回るしかない。

 クロウ君やクラームさんを気にする余裕もない。


「うわあぁぁぁ!?」


 四方八方に逃げ回れば、視界に敵機が映ることもある。

 そんな時はとにかく、照準を合わせ引き金を引く。

 たとえ当たらなくても、『撃たれるかもしれない』と相手に思わせれば攻撃の手は必ず弱まる。

 そんな経験に従って、今も魔導銃を撃った。

 当たった。

 頭部を吹き飛ばされたブルーナイトは数歩引き、そのまま離脱していく。


「あれ? 当たった!?

 いや、やっぱり外れて……いや当たってる!!」


 逃げ回りながら撃った弾が当たったのは初めてだ。


「すごいな、クロウ君が作ってくれた制振装置ダンパー……

 ……うおぉ、次の来た!?」


 気を取られた一瞬に弾丸がかすめる。


「やばいやばいっ!

 戦えるかと思ったけどやっぱり無理だ!!」



●●●



~クラーム~



『やばいやばいっ!

 戦えるかと思ったけどやっぱり無理だ!!』


 キチジくんの泣き言が聞こえてくる。

 だが、口では無理だと言いながらも、一目散に逃げ去っていくわけではない。

 敵の注意を引きつけつつ、私たちから離れすぎない距離を保っている。


「なんだ、ちゃんとわかってるじゃないの。」


 私のカースコブラもキチジくんのワンダリングドッグも、正面から最新鋭の人型とぶつかっては勝ち目はない。

 それを踏まえれば、『複数の敵の注意を引きながら時間を稼ぐ』というだけで十分役目を果たしていると言える。


「ま、私も死にたくないし、ちょっとお手伝いしようかしら。」


 カースコブラの外部スピーカーは今は切ってある。

 何故なら、


『おい、クリーチャーギアはもう1体いたはずじゃないのか!?』


『え……!?

 本当だ! あのヘビ型はどこへ行った!?』


 魔導によって機体色を変化させ、地面に同化して隠れているから。


『どこから不意打ちが来るか……警戒しろ!!』


『『はっ!』』


 背中合わせに陣形を組み、周囲に魔導銃を向ける追手のクリーチャーギア。

 だが、彼らはすでに私の攻撃範囲内だ。


『……!? 隊長、機体が動きません!!』


『何……こっちもか!?』


『俺の機体もだ!!』


 攻撃が終われば、気づかれないように隠れたまま逃げる。


「魔導士には魔導士なりの戦いようがあるものよ。」


 特製のクリーチャーギア用ウィルス。

 使用には直接接触する必要があるし、注入時間が数秒かかるため動き回る相手には使えないが、効果は絶大。


「これで最低10分は拘束できるわ。

 さて、クロウは……」



●●●



「5時、8時の方角から来てる。

 8時の方はわたしが対応するよ。」


「ありがとう。よっと!」


 右手の魔導刀を逆手に持ち替え、振り返らずに突く。

 同時に背面ハードポイントの魔導銃が照準を合わせ、発砲する。


『うぎゃっ!?』


『わあぁっ!?

 こいつ、後ろに目玉ついてんのか!?』


 実際のところ、ムサシスタッグに限らず大抵のクリーチャーギアには背面カメラはついている。

 ただ、戦闘中に360度分のカメラ映像に注視できないというだけだ。


「6時から1体。」


「任せる!」


 二刀で正面の2体を同時に斬り、その間にセレンが真後ろに発砲。

 キチジさんがなんだかんだ言いながら2体、クラーム先生はいつの間にか3体。

 僕とセレンは、今ので5体目。


『な……何だこいつら!?』


 あっという間に残り6体になり、隊長機らしきブルーナイトがわずかに後ずさった。


「何だとはご挨拶な。

 知ってて襲ってきたんだろう?」


『ぐっ……!』


 戦力上はまだ向こうが有利。

 だが、僕たちが無傷のまま半分以上が削られている。


 結論は、撤退だった。

 隊長機のハンドサインを見た他の機体は包囲を解き、こちらを警戒しながら去っていった。


『ふぅーーー…… 何とかなったな……』


『でも、完全に目をつけられちゃったわね。

 どうしましょうか?』


 この場はしのいだが、そう何度も襲撃を受けていてはとてもじゃないが持たないだろう。


『少なくとも、俺たち3人のクリーチャーギアは把握されている。

 クワガタムシ・イヌ・ヘビの3体で組んでるって思われてるわけだ。

 手っ取り早いのは、クリーチャーギアを乗り捨てるか、乗り換えるか……』


「現実的じゃないな。」


 キチジさんの言い分はもっともだが、クリーチャーギア無しで旅をするのは自殺行為。

 そして、乗り換えることができるクリーチャーギアが都合よく手に入るとも思えない。


『だったら、二手か三手に分かれるしかない。

 例えば"緑のクワガタムシ型の一人旅"ってだけなら、多少は見つかりにくくはなるはず。

 もっとも、襲撃を受けた時のリスクは増すが……』


「……それしかないだろうな。」


『どう分ける?』


 少し、考える。

 見つかりにくくすることと、戦闘になった場合のバランスを考えると……


「……キチジさんと先生は組んでいても比較的問題ないと思う。

 どう考えても一番注目を集めやすく、向こうも戦力を集中させるのは僕たちの方だ。

 ムサシスタッグは単機でもそれなりに戦えるから、単独で動く。」


『ふぅん…… 私がキチジくんとね……

 まあ、いいけど。』


『じゃあ、領主アラウィズの街で合流だな。』


 話が決まればすぐに行動だ。

 一度クリーチャーギアから降り、荷物を確認し、過不足がないように分配する。


「クロウも、セレンちゃんを守ってあげるのよ?

 セレンちゃんは、クロウを助けてあげてね?」


「……はい!」


「わかってるって。」


 確認・分配を終え、さて出発しようかという時に、


「あ、ちょっと待って。

 その前に、2人のことを占ってあげるわ。」


 先生に呼び止められた。


 前回の占いは……『転機』と『旅人』だったか。

 思い返せば、確かに今の状態を正確に表している。


「じゃあ、お願いするね?」


「ええ、すぐに済むわよ。」


 先生の手元から鉄のカードが舞い上がり、地面にゆっくりと落ちていく。


「……へぇ、『水』と『門』ね。」


「『水』と『門』……?」


「これは、貴方たちが遭遇する困難を象徴しているわ。

 私はクリーチャーギアのことは門外漢だけど……クロウ、貴方なら思いつくこともああるんじゃない?」



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