第2話 百年ぶりの相棒
~野盗の一人~
どこで手に入れたかは知らねえが、アニキがこの人型クリーチャーギアを持ってきてからは仕事が楽で仕方がなかった。
何しろ人型はめったに市場に流れない上、値段も桁が違う。
だが、性能も桁違いだ。
イヌだのネコだの、民間用の動物型なんてこいつでチョイと小突いてやればすぐにバラバラにできる。
後はちょっと脅かせば、金も女も食い物も思いのまま。
今日の仕事だって、いつも通りの簡単な仕事だ。
いつもと違うことといえば、どこかのバカが骨董品を持ちだしてきたことぐらい。
『虫型なんぞで、人型クリーチャーギアに勝てるわけねえだろ!!』
弟分のスコットが、即座に魔導銃をぶっぱなした。
気が短い奴だ……ちょっとくらい、あのポンコツがどんなマヌケを晒すか見ようと思ったんだが。
衝撃弾がクワガタムシを連打し、穴だらけのガラクタに――
ならなかった。
覆っていた苔がはがれて、鮮やかな深緑の装甲が露になっただけ。
どうやら装甲だけはムダに分厚いようだ。
『チッ、固えな……
面倒くせえ……』
露骨に不機嫌になったスコットが、長剣を抜いてクワガタに近づく。
対クリーチャーギア用の魔導長剣なら、ちょっと固いだけのポンコツなんて簡単にバラせるはず。
『バカッ、やめろ!!』
『え?』
アニキがそれを制止しようとして。
直後、スコットの乗るクリーチャーギアが、ハサミで両断された。
一拍遅れて魔導炉が暴走し、爆発する。
『……バカがっ!!
ノロマ野郎相手にこっちからノコノコ近づくやつがいるかっ!!」
●●●
「……野盗にも、ちょっとはクリーチャーギアのことを知ってるやつがいるみたいだな。」
実際、ムサシスタッグは決して素早い機体ではない。
だがその分、力は凄まじい。
パワーとスピードは相互関係。機械の基本だ。
「となると、次は……」
リーダー格とおぼしき機体が、距離を離したまま魔導銃を射撃してきた。
もう一体もそれに追従する。
射撃モードは高威力弾に切り替えているようだが、この程度の衝撃魔弾ではムサシスタッグの装甲は抜けない。
向こうもそれはわかっているのか、脚関節を狙おうとしているようだ。
「あいにくと今のムサシスタッグに遠距離武器は積んでいない。
距離を詰めるしかないけど、流石は軍用機。速度は向こうが上か。」
ならどうするか?
簡単な話だ。パワーとスピードは相互関係。
パワーを落として、スピードを上げればいい。
「『九百九十九』、抜刀。」
●●●
~クロウの父~
クロウが何を思いついて走り出したかはわからないが、父親として、この非常時の中、息子を一人にはしておけない。
どこへ行ったかはわからなかったが、それでも方角から見当をつけて、クロウを追いかける。
村長も暴れるのをやめ、一緒にクロウを探してくれていた。
「守り神様が……戦っている!?
一体何故……いや、誰が動かしてるんじゃ!?」
村長の言葉に答えられる者はいない。
だが、確かに動き、野盗のクリーチャーギアを1体破壊したのを、この村にいる誰もが見ている。
思わず、クロウを追っていた足も止め、戦いの行方を見守っていた。そのとき――
「「は?」」
思わず間抜けな声が出てしまった。
あれほど弾を打ち込まれてもビクともしなかった守り神様が、いきなり壊れたからだ。
ただの壊れ方じゃない。
ド真ん中で真っ二つになってしまい、後ろ半分がそのままひっくり返った。
かろうじて内部フレームはつながっているが、もう動けまい。
『なんだ、あっけなかったな。
まあいい。
乗ってる奴を引きずり出して、スコットを殺ってくれた礼を……』
野盗が言い終わるより前に、守り神様がさらに壊れた。
残っていた頭側の半分がさらに割れ、伸縮部も故障したのか、割れた部分が押し出される。
「あぁぁ……守り神様が壊れていく……!」
村長の悲痛な声をよそに、守り神様はさらに割れ、ねじれ、伸縮し――
そして、立ち上がった。
「「『『はぁ!!?』』」」
そこにいたのは、クワガタムシではなかった。
額に鍬形飾りがきらめく、深緑の鎧武者が、鋏の中に収納されていた二刀を抜き放った。
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~野盗の一人~
俺のすぐ前にいたはずの、アニキの機体が一瞬で消えた。
いや、本当に消えたわけではない。倒れたんだ。
袈裟懸けに斬られて、真っ二つになって。
頭が追い付かない。
俺達の機体は、旧式の払い下げとは言え『帝国』の制式採用機だ。
出力も装甲も、民生機の動物型とは比べ物にならない。
ましてや、虫型なんて最下等のクリーチャーギアなんて、吹けば飛ぶようなザコのはずだ。
それが、なんだ?
スコットはそんなクワガタに殺され。
クワガタが人型になったかと思ったら、アニキも死んだ。
人型に変形する虫型クリーチャーギアなんて、聞いたこともない。
……腹が立ってきた。
なんで俺がこんな理不尽な目に合わなきゃならないんだ?
誰だって、楽して生きたいに決まってる。
俺は自分に正直に、楽をして生きようとしてるだけなのに。
『……クソがっ!!
ふざけんじゃねえぞぉぉぉぉ!!!』
ナメたクワガタ野郎をぶっ殺してやる。
目いっぱい、魔導長剣を振りかざし――
●●●
3機目の野盗機を十文字に斬り捨て、二刀一対の魔導刀――『九百九十九』を肩に担いだ鞘に収めた。
……今更だが。
100年動かしていない機体を、メンテナンスなし、慣らし運転なしで戦闘させてしまった。
機体の大半を不錆鋼で組んであるとはいえ、よく動いてくれたものだ。
「それにしても……
まさか、ムサシスタッグが僕が死んだ時のまま、ここに置きっぱなしになっているとはなぁ。」
前世で死ぬときも、こいつの処遇について何も言い残しはしなかったが。
100年間、誰も動かさずに放置されているとは。
「確か、設計と運用を含めた全データは当時の国王陛下に届けられたはず。
なら、機体そのものは別に回収しなくてもいいと判断したのか?
それならそれで、放置してあるんだから誰かが勝手に持っていきそうなものだけど……」
一応パスコードは用意してあったが、クリーチャーギアについて十分な知識とちょっとした応用力があれば解けるはずだ。
実際、ホーガン時代の記憶を思い出す前の子供でも解けたのだから。
「……考えても仕方がないし、とりあえず最低限のチェックを済ませて……」
観測計器の内、緊急性のないメンテナンス用の数字を表すものは、コクピットの後部スペースに集中させてある。
作業スペースが必要なこともあって、多少の広さはあるので、荷物を置くのにも使えるのだが。
その後部スペースに、置いた覚えのない荷物があった。
いや、いた。
「ん……
あなたは、だれ……?」
人形のように整った顔立ちの、黒髪の少女がいた。
僕より少し年上の、16,7歳くらいだろうか。
見たこともない、肌に張り付くような奇妙な服を着ている。
「……えっ?
君こそ誰?
なんでここに?」
戦闘に必死で気付かなかったが、後部スペースに寝ていたのか?
僕が解除したパスコードは、間違いなく、100年前に僕が設定したパスコードのままだった。
当然、僕は一人でムサシスタッグに乗り込んだし、搭乗口以外の出入り口はない。
何をどうやったら、100年間、開けられていないコクピットの中に?
「わたし……?
わたしは……だれ……?」
しかも、自分が誰かもわからない?
「……どうしよう?」
「……どうするの?」