第27話 二人の部屋
夜明けが近い時間帯、僕たちは岩陰に身をひそめるようにクリーチャーギアを停めた。
一晩中周囲を警戒しながら走り続けたので眠気と疲れが限界に近く、情報の整理も必要と判断したためだ。
「……とりあえず、距離は稼げたか?」
キチジさんが不安そうな声を上げる。
「第一師団はイゼー中将がある程度抑えてるはずだ。
他から引っ張ってくるにしても、ブラギガンテに手ひどくやられた影響がある。捜索に割けるクリーチャーギアは多くないはず。
ここまで街道から離れれば、確率的にはそうそう見つからないと思うけど……」
「どこを目指すか……指針が必要ね。」
クラーム先生の言葉に、全員が頷いた。
「まず、協力者が必要だな。」
「確かに、俺たちだけで逃げ続けるのも無理があるよなぁ……」
「スパイの濡れ衣をかけてきた犯人も捜さないといけないもんね。」
セレンの言う通り、目的は濡れ衣を晴らすこと。
そのためには犯人捜しを手伝ってくれる協力者は必要不可欠だ。
ただ、
「クロウ、心当たりは?」
「犯人の?協力者の?」
「どっちもよ。」
「あいにくと……」
残念ながら、クワガタの村からほとんど出ることのなかった僕では人脈が足りない。
誰かいないかと考えていると、
「……イゼー中将が手助けしてくれたのは、クロウ君が捕まると自分にも累が及ぶからなんだよな?」
キチジさんが軽く手を上げ、そう言った。
「ええ、そうなるわね。」
「だったら、似たような立場の人なら協力が仰げるかもしれない。」
「誰?」
僕が捕まると困る人ってことか?
「クロウ君と無関係でなく、ある程度高い立場にいる人間。
……領主のアラウィズ様だ。」
なるほど。
確かに、僕の出身地を治める領主というだけでも関係がある上に、
「そうか、僕の推薦状を書いてしまったから……」
「正直申し訳ないとは思うけど……
すでに『スパイの手引きをした』って疑いが掛かってるはず。
もう、徹底的に巻き込んでしまえば……」
キチジさんの言う通り、良心は痛むがこちらも手段は選んでいられない。
ただ問題は、
「でも、逆に疑いを晴らそうとわたしたちを捕まえようとするんじゃないの?」
セレンの言葉はもっともだ。
そして、もしそうなってしまったら、
「その時は……強行突破しかないかな。」
「どっちにしろ他にアテもないものねぇ……」
リスクはあるが、今はできることが少なすぎる。
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「そういえば、ムサシスタッグの整備の合間に何か作ってたよね。
あれは?」
ムサシスタッグの背に取り付けられた荷台を指さし、セレンが言う。
「ああ、キチジさんに渡そうと思ってたんだ。」
「俺に?」
「キチジさん、射撃の腕も機動の腕も良いけど、移動しながらの射撃は当たらないだろ?」
「ああ。
あれさえどうにかなりゃあ、もうちょっと稼げるんだがな……」
「原因は魔導銃の砲身が長い分、慣性がかかって狙いがずれるからだ。
だから、それを解消するために新装備を作ってみた。」
荷台を開け、複数の部品に分割されたパーツを取り出す。
いわゆる制振装置だ。
これを砲身と砲塔に取り付ければ、移動しても砲身が揺れなくなるはず。
「マジで!?
俺、そんなご褒美貰えるような良いことしたっけ?」
「いや、ご褒美っていうか……
今後は戦力として積極的に戦ってもらおうと思って。」
「そうかぁ……罰ゲームだったか……」
「本当にやる気がないというか、覇気がないわねぇ……」
しょんぼりするキチジさんに、クラーム先生は呆れたように言った。
「でもクロウ君、俺用の装備を造ってるぐらいだから、ムサシスタッグの方も改造を?」
「もちろん。
と言っても、根本的な部分までは手を付けてないけど。」
「外見は俺が会ったときと変わらないもんな……
で、何が違うんだ?」
「わたしが頼んだの。」
「セレンちゃんが?
どんな風に改造したのかしら。」
「コクピットを完全に2人用にしたんだ。
見てもらった方が早いな。」
パスコードを描き、ハッチを開いて見せた。
「セレン用のサブシートを折りたたみ式から完全な固定式にして、計器をサブシートから見えるように再配置。
さらに、ハードポイントに取り付けた装備……例えば魔導銃をセレンが操作できるようにしてある。
僕が戦闘に集中してるときに、セレンは後方を警戒できるようにモニターを追加。
……こんなところかな。」
「へぇー…… なかなか便利そうじゃないか。」
「……むしろ、何で今まで2人乗りクリーチャーギアって無かったのかしら?」
2人乗りにすることで操縦を分担し、動きやすく、扱いやすくする。
そう、僕も構想としては100年前の時点で既に考えていた。
そして、当時の弟子にもその考えは伝えてあった。
「2人乗りの試作機自体は博物館にもあったんだ。
結果として、いまいち使いにくかったんで廃れたけど。」
「使いにくいの?
わたしはテストで普通に扱えたけど……」
「原因は3つ。
まず、2人が別の操作をしたときにクリーチャーギアが混乱を起こすことがある。
次に、単純に2人乗せるスペースが惜しい。
最後に、クリーチャーギアのオートマチック化が進んで2人乗りのメリットが減った。」
「あー……」
「ムサシスタッグは旧式だからオートマチック化されてないんで、サポートしてもらうメリットがある。
操作性の悪さの割にセレンが普通に使えたのは、火器関係を別系統に切り離してあるのと、あと単にセレンの腕が良いからだ。」
「わたしが?」
意外そうな顔をしているが、僕としてはセレンに操縦系のセンスがあるのは予想通りだった。
「正確には僕の操縦を予想して、それに合わせてくれる技術だな。
どっちに動くかわからない機体から銃を撃ったって、そうそう当たるわけないだろ?」
「……まあ、俺が移動射撃当てられなかったのと一緒だな。」
「そんなわけで、僕とセレンにとっては結構良い感じなんだ。」
「なるほどねー……」
キチジさんと先生はコクピットをのぞき込んで、いろいろ話している。
そんな中、セレンが僕の傍に来て、
「ありがとう、クロウ。
一緒に戦えるようにしてくれて。」
小声でそう言った。
「危険な時でも一緒に乗るって言うなら、せめてこれくらいはしないとな。
これからは戦闘も手伝ってもらうぞ?」
「うん、"連れ合い"だからね。」
セレンは笑っていた。




