第25話 決戦の後
ブラギガンテを退治した翌日。
あらためて精査した結果、予想以上にムサシスタッグはひどい有様だとわかった。
末端の導線、伸縮部、カメラなどのセンサー、装甲。
無事なのは主頭脳、副脳や魔導炉といった中枢部くらいのもの。
徹底的な修繕整備が必要だ。
「クロウ君自身だって無傷じゃないんだから、今日くらいは休んだ方がいいんじゃ……」
キチジさんは言うが、
「あんなに傷ついたムサシスタッグを放っておくなんて、その方が気が休まらない。」
「わたしも、手伝いについて行くから。
心配しなくて大丈夫だよ。」
そんなわけで、整備工房に来ていた。
工房管理者の人は、虫型として登録していたクリーチャーギアが人型になっていて驚いていたようだ。
……可変機であることを説明するのに少し手間取った。
「さて。
まずはフレームの歪みを確認して、アクチュエータを交換して……」
作業に没頭すると、時間の経過はあっという間だ。
日がかげり始め、そろそろ片付けようかと思っていた頃。
「失礼、君がクロウくんで間違いないかね?」
小汚い工房に似合わない、身なりの良い紳士が訪れてきた。
軍人が2人、背後に付き従っているところを見ると、軍の偉い人だろうか?
「クロウは僕ですが……
しばらく待ってください。ここの作業だけは終わらせないといけないんで。」
別に勿体付けたいわけではないが、半端に装甲板を外しかけた状態は不安定で危険だ。
「無礼者!
この方をどなたと心得る!」
側付きの軍人が怒鳴り声をあげる。
だが、紳士は片手でそれを制止して、
「よせ、彼らはあの戦いの英雄だ。
……あのクリーチャーギアもな。」
とりあえず手を離せないことは理解いただけたようなので、雑にならない範囲で手早く作業を終わらせることにした。
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「ええと……それで、どちら様でしょうか?」
「私は王国軍中将、イゼーだ。
昨日、君のおかげで死にそこねた者達の長……といえばわかるかな。」
「王国軍の……中将!?」
予想以上に大物が来たものだ。
ブラギガンテ退治に動員されたのは王都守護の第一師団。
僕の記憶通り、元帥1人、大将3人の定員だとすると、この人は軍のナンバー5ということになる。
「かしこまらなくても結構。
どうせ遠くないうちに追われる椅子だ。」
「……軍に大きな損害を出した責任ですか?」
「若いのによく理解しているな。
その通り。大きくなった組織というのはいつも内部で派閥争いだ。」
イゼー中将は首をすくめた。
「さて、私は愚痴を言いに来たのではない。
まずは礼を言おう。
ありがとう、クロウくん。」
中将は深々と頭を下げた。
高い身分の人間の頭だ。決して安いものではないことは良くわかる。
「あの作戦に参加したのは、王国軍から8個大隊、クリーチャーギア512体。
民間協力者、人型クリーチャーギア31体。
その内、生還した乗り手は王国軍302名、民間人20名。」
「死者221人……
ずいぶん、亡くなってしまったんですね……」
「いいや、違うよお嬢さん。
ずいぶんと生き残れたんだ。」
中将の組んでいた手に力がこもる。
「クロウくんには軍から報奨金が支払われる。
正確な額はこの場では言えないが、一個人が持つには莫大な額だとだけ言っておこう。」
「……礼を言って、報奨金のことを伝えに来ただけならば、中将閣下がわざわざ来るほどのことでもないのでは?」
「本当に話が早いな、君は。
私が知りたいのは君のとった戦術と、クリーチャーギアの秘密だ。」
人前でムサシスタッグを変形させ、あれだけ派手に戦った以上、こうなるのはわかっていた。
「わかりました。
お話しましょう。」
「クロウ、いいの?」
「どうせいつまでも隠せることでもなかったし。」
そもそもムサシスタッグ自体、うかつにバレると厄介なことになりそうだから隠していただけで、本来公開するつもりで開発した技術の塊だ。
「どこから話しましょうか……
まず、このクリーチャーギア。名前をムサシスタッグと言いまして、百年前から村に伝わる……」
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「……と、いうわけです。」
中将に事の顛末を語った。
当然、僕の前世の記憶とセレンの正体については誤魔化したが。
「……にわかには信じがたい話だな。
あれが百年前の機体とは……」
「本当ですよ?」
少しムッとした様子でセレンが言う。
「ああ、気を悪くしないでくれお嬢さん。
私は信じてるさ。」
「閣下、何をおっしゃるのです?
今の話に信用できるところなど……」
側付きの軍人が慌てている。
僕も信じてもらえるとは思っていなかったので、驚いた。
「疑う意味がないからな。別に嘘でもかまわん。
あのクリーチャーギア……ムサシスタッグの性能が本物なら、どちらでもいいことだ。」
なるほど、合理的だ。
「さて、ここからが本題だ。
まず、ムサシスタッグについてだ。」
「ええ、現状ボロボロですからね。
できれば、軍所属の技師の方に修理を手伝っていただければ……」
「そこまで見せてくれるのか!?」
その言葉だけで察していただけたようだ。
修理を手伝わせるとはつまり、内部構造をすべて見せるということ。
こちらとしても作業がはかどるし、図面や報告書をあらためて書く手間が省ける。
「よし、早速明日、技術者を数名送ろう。
それと、実戦での運用の話だが……」
「それに関しては一つ、言いいことがあります。」
「ふむ?
ぜひ言ってみてくれ。英雄の言だ、無下にはしない。」
「では。何故、軍では虫型・動物型のクリーチャーギアを使わないのです?」
僕の言葉に、中将も軍人たちも、何を言っているのかというような顔をした。
「僕が最初にとった戦術は、初期のクリーチャーギア……博物館にも展示されているホワイトビートルが使っていた戦術と同じです。
クリーチャーギアの移動力と安定性を生かした砲撃。
極論ですが、今回の戦いは重量級砲戦用のクリーチャーギアが100体いれば、砲撃だけで片付いてました。」
何故、とは言ったが、答えは見当がついている。
「対クリーチャーギア戦……帝国との戦争を意識して偏重した結果だというのはわかります。
人型は強く、汎用性も高い。
ですが、それでも向き不向きというものがあります。
予算は有限ですが、それでも軍用で虫型・動物型を研究する価値はあるかと。」
ようやく、言いたかったことが言えた。
軍上層部の人が訪ねてきたのは僕にとっても幸運だった。
開発者の記憶を持つ者として、現状の歪さが気になって仕方なかったのだ。
「……一理ある。
だが、結果として君も人型機としての性能で決着をつけただろう。
人型機の性能向上こそが急務じゃないか?」
「あれは別に、ムサシスタッグでなくてもできることです。
最終的には、奴の頭の上で爆破解体をしただけの話ですから。
ですが、攻城砲を背負っての移動標的への砲撃は、人型機では絶対に不可能です。」
「ふむ……」
中将は僕の話を一笑に付すことなく、真剣に考えてくれている。
「確かに現在、王国軍も帝国軍も軍用機はほぼすべてが人型。
疑問に思ったことも不便に思ったこともないが、虫型や動物型か……」
「参考までに、ムサシスタッグはライノホーンをクワガタ形態のみで退治しています。
高出力の魔導炉ありきとはいえ、状況によっては虫型が人型に勝る例かと。」
「ライノホーンだと!?
そうか、虫型のみで2個小隊に匹敵するメガビーストを討てるか……!」
「配備する場所によっては、対メガビースト用として低コストでも十分かと。」
「なるほど……
ありがとう、大変有意義な話だった。」
「僕も、話を聞いていただいてありがとうございます。」
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約束通り、中将は軍の技師を手伝いに寄越してくれた。
人柄の良い人たちばかりで、中将の心遣いを感じる。
エリートなだけあって腕は確か。知識も豊富で、最新技術については僕も大いに学ばせてもらった。
修理・整備作業は予定よりもずいぶんと捗り、完全に元の性能を取り戻すのも間近という頃だった。
「クロウ、何の音?」
その日の作業を終え、宿でセレンとくつろいでいた時。
コツコツと、固いものを叩く音が聞こえる。
「いや、僕にも心当たりがないけど……」
「窓の方かな?」
音の正体は鳥だった。
脚にリングがとりつけられている。
「これは、伝令の……」
百年前にも何度か見た、情報を圧縮する魔導がかけられたリング。
たいていはパスコードが設定されているはず、と思いながら手に取ってみると、小さな字で何か書いてある。
「『君のクリーチャーギア』……?」
とりあえず、クワガタムシの形を魔力で描いてみる。
すると、ロックが解除されて文章が浮かび上がった。
「『旅支度をして、仲間と共に工房裏の路地に来い』……」
不穏極まりない一文だけが、表示された。




