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第24話 技師の戦い方



「なんてことだ……!」


 僕は、戦場北に接する崖山の上から惨劇を見ていた。

 おそらく背中の突起はコンデンサのようになっていて、そこで電気を蓄積し、瞬間的に大威力の雷撃を放つ構造。

 それを警戒して兵士たちは距離を空けていた。

 だが、ブラギガンテは8本のコンデンサを体内に取り込み、そのままだと8方向に放つはずだった雷撃を一本に束ねて、口から吐き出した。

 威力、射程は予想以上に伸び、結果、雷撃の薙ぎ払いによって前衛が半壊した。


 しかしそれでも、騎士たちは逃げない。

 傍目はためから見て明らかに士気が下がっていても、再びブラギガンテへと向かって行く。

 僕はそれを見ながら、タイミングを計っていた。

 自分ができることをやるために。


「……ここだっ!」


 果てしなく落下に近い速度で崖を駆け下りる。

 一瞬の内に距離は縮まり、脚部関節をきしませてブラギガンテに飛び乗る。

 高所から勢いを乗せての突撃、いわゆる"逆落さかおとし"。


『GuUUu!?』


 狙いは頭部。

 予想外の衝撃に驚き、ブラギガンテは反射的に首を振った。

 僕は刀を突き立て、人型形態のままクワガタ形態用の脚を展開。クワガタの脚を突き立てた刀に引っ掛け、落下をまぬがれた。


「こんなデカい相手は予想外だが……

 『新装備』を使うにはうってつけだ!」


 煙突の村で買った鋼材から削り出した、鋼鉄柱の杭。

 杭の先端に溶接された超硬魔導ルチタナ合金は、魔導長剣を溶かしたもの。

 同じくライトソルジャーから取った、防護用のシールド。

 衝撃魔弾の暴発を利用した撃発装置。


 戦利品のスクラップをつぎはぎして組み合わせた新装備『シールドパイルバンカー』。


 クラーム先生の占いでメガビーストとの戦闘は予想できていた。

 流石にこのサイズまでは予想外だが、それでも大抵のメガビーストは一撃で殺せる必殺兵器だ。


 残った刀を片手で振るい、頭頂部の皮膚を切り裂く。

 露出した頭骨とうこつに杭の先端を押し付け、撃発。

 撃発、撃発、撃発、撃発。


『GOoGAaAaAAAaaaaaaa!!!!』


 頭蓋骨に直接響く激痛に、ブラギガンテは全力で首を振るう。


「ぐっ、うぅぅぅぅぅ……!!」


 突き刺した刀にしがみつき、必死にこらえるが、左右の加速度(G)がキツイ。

 脳がかき回され、はらわたがひっくり返るような感覚だ。

 だが、今手を離せば死ぬ。

 自然、レバーを握る手にも力がこもる。


 どれだけの時間、しがみついて耐えただろう。

 気分的には3時間くらいだが、多分実際にはほんの数分。

 ぴたりと、左右の首振りが止まった。

 歪んだ視界の向こう、モニター越しに、ブラギガンテの背中で放電が発生しているのが見える。

 そして、背中の突起コンデンサが収納された。

 怒りに任せて、また、口から大雷撃を放つつもりか。


『GaAaa……!!』


「そいつを……」


 ブラギガンテが、口を大きく開いた。

 クラーム先生に作ってもらった超大型火炎魔弾を、その口に放り込む。

 そして、最後の一発。


「狙ってたんだ!!」


 雷撃を放つ瞬間を狙いすまして、パイルバンカーを鼻先に叩きこむ。

 強制的に閉じられた口の中で、雷撃と魔弾が暴発。

 自身の必殺技をその身で受け、ブラギガンテの頭が花火に変じた。



●●●



~セレン~



 クロウが乗ったムサシスタッグが、雷球と爆炎の中に飲みこまれる。

 カースコブラのコクピットから、私はそれを見ていた。


「クロウッ!?」


 神経への衝撃でブラギガンテの筋肉が硬直し、動きを止めた。

 頭部は火と煙を吹きだし、シルエットすら定かでない。


「そんな……クロウっ、クロウッ……!!」


 視界がにじむ。

 喉が痛む。

 死んでしまいそうなほど、胸が苦しい。

 心臓なんて、入っていない体なのに。


「……クロウッ!!!」


 わたしは生まれて初めて、恐怖していた。



●●●



『……ゥッ……クロウッ!!!』


 声が聞こえた。

 昔も、あんな感じの声を聴いたっけ。

 あれは、親しい人の死を恐れる声。


 百年前(あのとき)は、ホーガンは自分の生にほとんど満足していた。

 死んでもかまわないと思っていた。


 だが、今は絶対に死にたくない。

 だからこそ、できる限りムサシスタッグが巻き込まれないよう細心の注意を払った。

 魔弾の威力。爆発時の位置取り。タイミング。

 追加装甲はすべて吹っ飛んでしまったが、役目は果たしてくれた。


 雷撃の威力が予想より高く、ダメージは大きかった。

 計器はエラーを吐き続けている。

 いくつかのモニターは真っ黒に染まっている。

 だが、ムサシスタッグの手はまだ、刀を握りしめている。


『GuUuuu……』


 地面が動いた。

 違う、地面じゃない、ブラギガンテの頭だ。

 ゆっくりと上に上がっていく。

 力がまだ残っているということだ。


「お互い、中々しぶといもんだな!!

 ……『強制放熱』!」


 これで多少は爆熱のダメージをごまかせる。

 まだ少しだけ動けるはずだ。


 視界の端、遠くで何かが光を反射した。

 とっさに首側に跳び、頭骨の陰に隠れる。


『GuoOo!?』


 直後、ブラギガンテの頭がもう一度爆発した。


「容赦ないねぇ、キチジさん!」


 今のは、あらかじめキチジさんに渡しておいた予備の超大型火炎魔弾。

 タイミングを見計らって攻城砲で撃ち込むように頼んでおいたものだ。

 動きの鈍っている今しかチャンスはないと思ったのだろう。

 正解だ。

 今の一撃で、パイルバンカーを撃ち込んだ亀裂が開いた。


「これで、終わりだ……!」


 亀裂に手持ちの火炎弾をケースごとねじ込み、ブラギガンテの頭から飛び降りた。

 十数秒後、再びキチジさんの砲撃が着弾。

 誘爆した火炎魔弾が、内側から脳を消し飛ばした。



●●●



~イゼー中将~



 深緑しんりょくの『何か』が崖から跳び、ブラギガンテの頭に降りたのは見えた。

 あんな色のクリーチャーギアは我が軍にはない。

 おそらく傭兵かビーストハンターのカスタム機が、手柄目当てに無茶をやったのだろう。

 あるいは、軍の統一装備よりも、個人の方が有用な装備を持っていることもある。

 彼、または彼女が、少しでもダメージを与えることができれば十分。

 いずれ叩き落とされ命を失うだろうが、そうなったら軍葬でもしてやろうか。

 そう考えていた。


 大雷撃で前衛の半分が消し飛んだ時点で、全滅を覚悟していた。

 相打ちになっても、せめて王都へは行かせない。そのつもりだった。


「どうやらあのクリーチャーギアのおかげで、私は更迭程度で済みそうだな。」


『大将に昇格できるチャンスを逃しましたな、閣下。』


 死亡時の特進のことか?


「……貴様の冗談は笑えないぞ。」



●●●



 ブラギガンテの巨大すぎる体躯が、ゆっくりと倒れていく。

 残った力を振り絞り、巻き添えにならない程度に距離を取る。

 やがて、大きく地面を揺らして全てが止まった。


「気持ち悪ぅ……」


 気が抜けると、一気に吐き気が押し寄せてきた。

 上下左右と、あれほどシェイクされれば当然といえば当然か。

 ほぼ自室と化しているコクピットで吐きたくはない。

 ハッチを開き、外へと身を出す。


「……クロウッ!!」


 セレンがいた。


「……なぜここに?」


「クロウが心配で、クラームさんに連れてきてもらって……

 ううん、そんなことはどうでもいい。

 クロウ、どうしてこんな無茶をしたの……!?」


 いつもの、"無表情の中に感情を感じ取れる"って程度の顔じゃない。

 涙こそ流していなかったが、セレンは確かに泣いていた。


「死なないように、計算はしていたさ。」


「だからってこんな……

 計算なんていっても、言いかえれば一歩間違えば死んでいたってことでしょう!?」


「こうするのが、一番だったから。」


「……どういうこと?」


「僕が別の立場の人間だったら、別のことができただろうけど。

 今の立場で、僕もセレンも他の人たちも、できるだけ無事で済ませようと考えたらこれが一番だった。」


 この判断は、実際に戦ったことで確信に変わっていた。

 この場で逃げたとしても、王国軍が戦力を再集結してブラギガンテを討つ前に王都は消滅していただろう。

 そうなれば社会の混乱は極まり、帝国も動くことだろう。

 戦争が起これば戦力はそちらに割かれ、各地で再びメガビーストの脅威にさらされる生活が始まる。

 結局、ホーガンがクリーチャーギアを造り上げる前に逆戻りだ。


クロウはホーガンじゃないけど、望んでいたことは同じだから。

 メガビーストをのさばらせておくことはできない。」


「……わかった。

 わかったけど、次はわたしも一緒。」


「え?」


「『シートが急造』なんて言い訳はもうさせない。

 次は、どんな危ない目にあっても、わたしも一緒にいる。」



~第1章 王都への道行 完~



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