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第23話 暴威の巨竜



~イゼー中将~



 まるで山が動いているようだ。

 王国軍最新鋭クリーチャーギア・ブルーナイトのコクピットで、私はそれを見ていた。

 私だけでなく、おそらくこの場の将兵全員が同じことを考えているだろう。

 圧倒的なサイズ。

 大木が小枝よりも容易く踏み折られる、圧倒的質量。


「……あんな化け物が王都に到達すれば、無数の民の命のみならず陛下すら危険にさらすことになる。」


 8本の脚に支えられた岩山のごとき胴体から、金属光沢を放つ突起が同じく8本とび出している。

 胴から前方に長く伸びた首の先端には、胴体に比べればあまりに小さく感じる頭部が付いているが、それですらクリーチャーギア1体を上回る大きさだ。

 反対に伸びる尾も、軽く触れるだけで大岩が砕けるほどの力を持つ。


「諸君らの両肩に、それが掛かっていると思え」


 ゆっくりと一歩ずつ歩くだけで、時速70キルメイルに達する脚の長さ。

 もし仮に攻撃する意思がなくとも、存在するだけでもはや暴力といえるだろう。

 ましてや奴はメガビースト。破壊の化身だ。


「絶対に、ここから一歩も進ませるな。」


 そして奴が、射程内に足を踏み入れた。


「……砲撃開始!!」



●●●



 将軍の号令に呼応して火炎の雨が降り注ぐ。

 攻城砲が並ぶ陣地の片隅から、僕はそれを見ていた。

 一発一発が、クリーチャーギアに当たれば一撃で完全に破壊されるほどの威力をもつ砲撃の雨。

 しかし、ブラギガンテは意にも介さない。

 背中や首に何発も命中しているものの、分厚い皮膚の表面に焦げ目をつける程度。


「ここまでデカいと、皮膚の厚みだけで止められるのか……

 クラーム先生の占いで出た『巨大』ってのは、騒動の大きさだけじゃなくって敵の巨大さも示してたんだな。」


『砲撃――やめっ!!』


 それでも、兵士たちは行かざるを得ない。

 脚を一本でも斬れれば、頭に一太刀でも浴びせられれば。

 黄の騎士(イエローナイト)青の騎士(ブルーナイト)が剣を振りかざし、赤の銃兵(レッドガンナー)が射撃する。

 彼らはブラギガンテが身じろぎ一つするだけで消し飛ぶだろう。

 だがそのおかげで、今ならブラギガンテの注意は足元に向いている。

 僕は攻城砲の照準を奴の頭部に定め、さらにムサシスタッグの射撃補正機能を起動し――

 轟音。


『誰だ、停止命令を無視して撃ったのは!?

 味方に当たるぞ!!』


 着弾。

 ブラギガンテの鼻っ面が爆発した。


『GOoOoOo……!!』


 苦し気に顔をゆがめ、痛みから逃れるように首を大きく振っている。


『なっ……! 狙って当てたのか!?

 攻城砲を!?』


 僕ができることは、大したことではない。

 ムサシスタッグがクリーチャーギアとして破格の出力を持っていようと、せいぜい通常の2,3倍程度で、ブラギガンテと相撲が取れるほどではない。

 僕にできるのは、まず、『ダメージを与えてみせること』。

 敵は無敵ではない、と、味方に示して見せることだ。


「キチジさん、この砲は任せるから、後はよろしく!

 タイミングは任せる!!」


『え、おい、任せるって……』


「『九百九十九ここのおつくも』、抜刀!!」


 返事を聞いてる暇はない。

 背負っていた攻城砲をパージし、人型形態へと化したムサシスタッグを走らせ、火砲陣地を後にした。



●●●



~イゼー中将~



 誰かは知らないが、良い働きをしてくれた。命令無視は不問にしてやろう。

 最初に一撃、明らかに『効いている』攻撃を叩き込んだおかげで、兵たちは勢いづいていた。


 ブラギガンテの皮膚は強靭だが、金属のように固いわけではない。

 魔導長剣を振るえば容易く切り裂くことはできる。

 分厚すぎて剣を根元まで突き立てても筋肉にすら届かないが、それでも繰り返し斬りつけていけばいずれは切断できるだろう。

 しかしそれは、奴が無抵抗ならの話だ。


 長剣を突き立てられたくらいでは痛みも感じないブラギガンテだったが、流石に攻撃を続ければ怒り出す。

 足元で戦っている兵たちは気づかないだろうが、遠くから見ているこちらには、背中の8本の突起が放電を始めたのが確認できた。


『放電を始めた! 総員離れろ、雷撃が来るぞ!!』


 第0122大隊が全滅と引き換えに得た情報だ。

 ブラギガンテは背中の金属突起から雷撃で広範囲攻撃を行う。

 そしてその予備動作として、最初は小規模な放電が発生するのだ。


 突撃部隊が十分に距離を取ったところで、砲撃を再開。

 先ほどの直撃が効いたのか、今度は首を振り、砲撃を避けようとする様子が見て取れる。

 砲撃を続けるうちに、やがて、動きがより荒っぽくなってきた。

 苛立っているようだ。


「よし…… そのまま砲撃を続けろ。

 奴がしびれを切らして雷撃を無駄撃ちするか、放電が収まったら再突撃だ。」


『計算上、あの8本の脚の内、3本を失えば奴は体重を支えられずに動けなくなるはずです。』


 副官の報告も希望をもたらすものだった。

 これを繰り返せばいずれ体力が尽き、致命打を与えることができるはずだ。

 そう、思っていた時、ブラギガンテの行動に変化が起きた。


 放電を続ける突起が、ブラギガンテの体内に収納された。

 首を振るのを止め、口を大きく開く。


『GoOooGAAAAAAa……!!!』


 直後、世界が光に包まれた。


 砲撃の音をはるかに超える轟音。

 数秒間、途切れない光。

 光と音がやんだ時、突撃部隊の半分が消滅していた。



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