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第22話 激戦の用意



 なるほど、クラーム先生の占いに出ていた『大騒動』とは、超弩級メガビーストのことだったか。

 ブラギガンテというメガビーストの名は、確かに知っている。

 だがそれは実物の話ではなく、あくまでおとぎ話・伝説としての話だ。


「その伝説の通りの姿形、能力だって言うんだからなぁ……」


 王都を見捨てて逃げる、という選択肢はない。

 ホーガンがクリーチャーギアを造ったのは、メガビーストから逃げ回るのに嫌気がさしたからだ。

 そもそも、逃げたとして。どこまで逃げれば安全だというのか?

 王国軍がブラギガンテを討つことができなければ、結局同じことだ。


「人型中心の今のクリーチャーギアじゃ絶対に打撃力が足りないから、攻城砲を引っ張り出すってのは、悪い手でもないか……」


 問題は当たるかどうかだ。

 攻城砲はあくまで止まっている城を撃つ兵器。いくら的がデカいとはいえ、動き回るメガビーストの急所に当てることが……


「おぅい! クロウ君じゃないか!?」


 考えていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 振り向けば、濃紺のイヌ型クリーチャーギアと見知った顔。


「キチジさん!」


「やっぱり!

 久しぶりだな、クロウ君!」


 キチジさんとワンダリングドッグがいた。


「クロウ、この人は?」


「あ、クラーム先生は初対面か。」


「俺はキチジ、ビーストハンターだ。こっちはワンダリングドッグ。

 クロウ君には何度か助けられたり、世話になったりしたんだ。

 で、あんたは?」


「あら、失礼。

 私はクラーム、魔導士をしてるわ。この子はカースコブラ。

 クロウにクリーチャーギアの乗り方を教えた先生よ。」


「へぇ、クロウ君の先生!

 美人で凄腕の乗り手とは、そりゃ大層な……」


 キチジさんの顔がだらしなく緩んでいる。

 先生みたいなのが好みなんだろうか?

 しかし、


「いや、クラーム先生は腕前は別に良くはないんだ。」


「そうなの?」


 セレンがきょとんとした声を上げる。


「あ、セレンも気づいてなかった?

 加速時に炉を吹かしすぎてて、音でわかるんだけど……」


「別に、私は戦うためにクリーチャーギアに乗ってるわけじゃないから。

 腕前なんてどうでもいいのよ!」


 少々話がそれた。


「それで、キチジさんはいつの間にこっちに?」


「ああ、思いのほか早く村にクリーチャーギアが届けられてさ。

 お役御免になったけど、次に行くアテもないし……どうしようかと思ってたら、今度はクロウ君のお父さんからクロウ君の様子を見てくるように頼まれて。

 どっちにしろ、王都なら何か仕事もあるだろうと思って来たんだけど……

 ヤバイ時に来ちまったみたいだなぁ……!」


 話してるうちに、最後の方は涙目涙声になっていた。


「まあ、あの将軍の言いようだと動物型は矢面に立たなくても良さそうだから……」


「そうだといいんだが……

 で、クロウ君はどうするつもりだ?

 君の腕とムサシスタッグの性能なら、普通に主戦力にもなれるだろう?」


「あー…… ちょっと考えがあって、まずは砲の輸送を手伝おうかと。

 後、キチジさんに手伝ってほしいこともあってな。」


 周りの人に聞こえないように、キチジさんに耳打ちをする。


「……大丈夫か、そんなことして?

 まあ、クロウ君なら判断を間違えはしないだろうけど……」


 キチジさんは、見るからに不安そうな表情でワンダリングドッグの方へ戻っていった。


「……大丈夫かしら、あの人?」


 先生は苦笑してそれを見送った。


「キチジさん、凄腕ってわけじゃないけど、逃げ回るのと静止射撃は上手いから……

 僕たちの方も、輸送作業の手伝いに行こうか。」


「うん。」


「と、その前に……

 セレンはカースコブラの方に乗ってくれ。」


「え? どうして?」


「何かあった時、ムサシスタッグの急造サブシートじゃ危ないからな。」


「……クロウは平気なの?

 危ないことしない?」


「もちろん。

 僕だって死にたくないし、基本的には軍隊に任せるさ。」


 軍隊でもどうにもならないような相手じゃなければ、の話だが。



●●●



 普通なら、輸送というものは一番足の遅いものに合わせて移動するものだ。

 だが、今回は寄せ集めの集団で、統率は期待できない。

 さらに、1門でも多くの砲を、一刻も早く前線に運ぶ必要がある。


『クリーチャーギア1体につき1門!

 とにかく東へ向かって走れ!』


 と、いうわけだ。

 現在、高品質の部品を組み込み、十分なチューンナップが施されたムサシスタッグは、攻城砲を牽引していても時速50キルメイルで長距離移動が可能だ。

 虫型・動物型クリーチャーギアの基本速度が時速30キルメイル程度と考えれば、破格の速度。

 輸送組としては一番乗りで戦場に着いた。


「おい、そこのクワガタムシ! 何故こんなところに……

 何、攻城砲の輸送部隊の? もう着いたのか!?」


 先行していた兵士は驚いていたくれたが、砲を1門だけ早く届けることに意味はない。

 目的は戦場の下見だ。

 ゴーグル型デバイスで大体の距離は測れる。


 500メイル四方ほどの荒れ地に、南面は大河、北面は切り立った崖山。

 西側は、広くなだらかな坂になっており、ここから砲撃を撃ち掛けて、荒れ地地帯に来たブラギガンテを倒す作戦のようだ。


 やがて、後続の輸送隊も来て、砲が整然と並べられていく。

 牽引、配置はクリーチャーギアを使うが、装填・照準は手作業だ。

 本来は動かない城に当てるための兵器。普通に使う分なら照準に時間がかかっても問題ないが、


「人力でクソ重い攻城砲こいつの照準合わせて、動き回るマトに当たるわけないよなぁ……」


「クリーチャーギアは正面張って敵にぶつかる役だからな。

 こっちに割く余裕なんてないってことだろ?」


 担当の兵士たちはぼやいている。


「お手伝いしましょうか?

 僕のは虫型なんで、どちらにしろ手が空いてますから。」


「ボウズ、砲の撃ち方はわかるのかい?」


「本業は技師なんで、整備したことがあります。

 見たところこの砲は、僕が以前扱ったものと同型かと。

 角度と弾道の計算も一通りはやりました。」


 まあ、扱ったのは100年前の話だが。


「……どうする?」


「俺達も忙しいし、どうせ期待せずにバラまくだけの大砲だ。

 1門くらい素人に任せたって構いやしねえよ。」


「それもそうだな。

 よし、ボウズ。号令がかかったら撃ちまくれ!

 味方に当てるんじゃねえぞ!」


 というわけで、攻城砲を1門貸してもらった。

 兵士たちは、砲の照準合わせにクリーチャーギアのパワーを使うと思ったのだろう。

 確かにそれでも人力よりはましだが、動くマトに当てられるほどではない。

 だが、ムサシスタッグは他のクリーチャーギアにはできないことができる。

 それは、砲の積載。

 通常の機体では重量や発砲の反動に耐えられないが、ムサシスタッグの安定性と剛性、出力をもってすれば、十分に可能。

 リアルタイムで正確な照準ができるはずだ。

 後はクラーム先生たちが来れば……


「クロウ!

 こっちも着いたよ」


 ちょうど、セレンの声が聞こえてきた。


「セレン、先生。

 頼んでいたものは?」


「ええ、用意できたわよ、『超大型火炎魔弾』。」


「ありがとう、先生。

 カースコブラに大型の調合炉が付いてて助かったな。」


 魔導士が魔力を練りこんだ道具や薬を作るのに使う調合炉。

 カースコブラにはそれの超大型のものが据え付けられていた。

 いわば、移動する調合室だ。


「まあ、これでも魔導士だし。

 せっかくクリーチャーギアを持ったなら、自分用に改造したくなるものよね。」


「あれ、クラームさんが後から付けたものだったの?」


「ええ。普段は流石に砲弾なんて作らないけどね?

 普通の魔導銃用の弾がせいぜいよ。」


「じゃあ何であんなおっきいのを持ってるの?」


「……勢いよ。」


 先生は割と昔から無計画なところがある人だったな、と思い出した。



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