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第21話 山のごとき



 王都に来て1週間が経った日の朝。


「クロウとセレンちゃんは、いつもどこにデートに行ってるの?」


 朝食を取りながら、クラーム先生は話を切り出してきた。


「デートって……僕たちはそういうのじゃないって言ってるだろ?」


「いつも……図書館とか、貸し工房とかに行ってるけど。

 昨日、新装備の試作品が完成して……」


 僕とセレンがそう言うと、先生はテーブルをバン、と叩き、


「図書館……工房!?

 二人とも王都は初めてでしょう!?

 観光とか行かないの!?」


「王立博物館には行ったけど。」


「全部クリーチャーギアがらみじゃないのよ!

 もっとあるでしょう?

 劇場とか、服屋とか!!」


「あー…… セレンもそういう所、行きたかったか?」


「わたしもあんまり興味なかったから……」


「……よく見たら貴女たちの服、黒ずんでない?

 それにかぎ裂きも……」


「あれ、本当だ。

 どこかで引っ掛けたか?」


「クリーチャーギアの中って、引っ掛けそうなところ、多いもんね。」


「貴女たち、今日は工房は禁止!

 服屋に行って――」


 僕たちの服装の無頓着さに先生は激高し、


『カン!カン!カン!カン!』


 鐘を連打する音に声を遮られた。


『現在王都にいる、ビーストハンター、傭兵、並びにクリーチャーギア所有者の皆さんは大至急、王都東駐機場へ集合してください!

 これは王命ですので、来なかった場合は処罰されます!

 繰り返します! 現在……』



●●●



 さかのぼって、1時間前。



~王国軍第一師団、師団長イゼー中将~



 まったくもって、頭が痛い事態だ。

 帝国の動きが活発化し、緊張が高まっている今この時に。


「まさか、あんな怪獣が実在したとはな……」


「全長180メイル、全高60メイル。

 私もてっきり、おとぎ話の中だけの存在だと思っておりました。」


 正確な記録が残っている直近130年で、最大のメガビーストでも全長50メイル程度だというのに。

 副官の報告する数字に、一層気が沈む。


「八脚雷竜(カミナリリュウ)型、ブラギガンテ。

 全高だけでも並のクリーチャーギアの5倍。

 首の長さだけで60メイル、太さは細い部分でも直径9メイル。」


「冗談だと思いたいところだが……」


「残念ながら現実です、閣下。

 メガビーストに対する戦術が確立して約100年……

 ですが、あれほどの巨大なメガビーストとの戦闘は想定しておりません。」


 よりにもよって、自分が王都防衛の師団長の時にこんなことになるなんて。

 どう戦っても軍の損耗は避けられまい。

 そして、『たかがメガビーストごときに軍の精鋭を傷つけるなんて』と、私の責任になるのだ!

 せっかく、王都守護の長という栄誉をつかんだというのに……!


「動いてる部隊は?」


「すでに、迎撃のために付近の基地から第0122大隊を出してあります。」


「ブラギガンテの状況は?」


「時速70キルメイルほどで王都へ向かっています。

 動き自体はかなり鈍いのですが、ここまでの巨体ですと流石の速度ですな。

 現在、王都より直線距離で東北東315キルメイル。

 万が一0122大隊がしくじった場合、地形を考慮しても7時間ほどで王都までたどり着きます。」


「王都に来るとは限らない……とも、言ってられないな。

 念のため、後詰ごづめを用意しておくか。」


「とはいえ、0122大隊は東部防衛の要を担う精鋭。さほどの損耗は……」


 副官の言葉を遮るように、大きな音を立ててドアが開く。


「ご報告いたします!

 先遣隊として出た第0122大隊、全滅いたしました!」


 伝令が、耳を疑いたくなるような情報を突き付けてきた。


「全滅だと!?

 64体のクリーチャーギアを保有する大隊がか!?」


 まさかの事態だ。

 伝説の怪獣とはいえ、あくまで獣。

 少なくない損害は出るだろうが、1個大隊が全滅とは予想外がすぎる。


「くっ……!

 まさか0122大隊ともあろうものが、メガビーストと相打ちとは……」


「いえ、その……

 残念ながら、第0122大隊が与えた損害は軽微。

 ブラギガンテは今もなお、速度を緩めず王都へ向けて進行中です!」


「「何ぃっ!?」」


 気が遠くなった。

 その場に崩れ落ちなかったことを褒めてもらいたい。

 滅多なことではうろたえない副官が、顔を青ざめさせている。


 この、最悪な状況で今、判断を下せるのは、私一人という状況。

 ……いや、まだ最悪ではない。


「……全部隊だ。」


「は?」


「ブラギガンテの王都到達までに動かせる、全部隊を投入する!

 動かせる部隊はいくつだ!?」


「え、えっと……距離的に間に合うのは2個連隊……いえ、0122大隊が全滅したので7個大隊です。」


「大隊が全滅ということはブラギガンテは広域に魔導攻撃ができるということだな?

 射程は?」


「はっ。射程800メイルほどの広範囲雷撃を放射したと報告されています!」


「……王都東50キルメイルの地点で迎え撃つ。

 全部隊を集結させろ。

 それと、民間人のクリーチャーギアも使う。」


「民間人を、ですか!?

 しかしそれでは、邪魔になりこそすれ、戦力にはとても……」


「輸送程度の役には立つ。

 この状況、最悪は王都が落とされることだ。

 民間人の乗り手が少々巻き込まれようとも、せいぜい私が閑職に追いやられる程度。

 この際手段を選ばん!!」


「……了解しました、閣下。」



●●●



「クラームさん、こういう召集ってよくあることなの?」


「いえ、私も初めてよ。

 何があったのかしら……?」


「王命ってなると、ただ事じゃなさそうだな。」


 駐機場では集められた人々が口々に話し合い、喧騒をつくり出していた。

 しばらく待っていると、ナイトタイプのクリーチャーギアが現れた。

 アラウィズの街にあったイエローナイトとは細部が違い、色も青だ。


『クリーチャーギア乗りの諸君、よく来てくれた。

 私は王国軍第一師団、師団長イゼー中将である。

 最初に言っておくが、これから命令することに対して諸君には拒否権はない。

 また、従わなかった場合、諸君の生命は保証できないからだ。』


 青のナイトから、重々しい声が響く。

 師団長の中将とは、ずいぶんと大物が出てきたものだ。


『現在この王都に向かって、超弩級メガビースト、ブラギガンテが進行中だ。』


 その言葉に、一気にざわめきが広がった。


「おい、メガビーストごときで俺たちを駆り出すってのか?

 そんな有様じゃ、村の自警団の方がマシなんじゃないか?」


 群衆の中から、そんな声が上がった。

 すぐに、「そうだ!」「何のための税金だ!」などと同調する声も上がる。


『第0122大隊、総勢64体のクリーチャーギアが全滅した。』


 ざわめきが、一層大きくなる。


『諸君に軍としての期待はしていない。

 虫型、動物型のクリーチャーギアを持つものは攻城砲の牽引輸送を要請する。

 人型を保有する傭兵、ビーストハンターは、銃兵として参加してもらう。

 この戦闘に敗れた場合、待っているのは王都の壊滅だ。

 無論、十分な報酬は支払うが、逃亡は許可しない。』


 静かな物言いだが、有無を言わさぬ迫力があった。



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