表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/41

第20話 歴史の狭間



 博物館を一通り回り、ガイドの説明に耳を傾けた。

 100年分のクリーチャーギアの歴史を実物で学ぶのは非常に有意義な時間だった。

 だが、やはり最初のあの肖像画が気にかかる。


「すいません、ちょっと質問いいですか?」


 せっかくガイドがいるのだ。こういう場合は直接聞いてみるのが一番だろう。


「ええ、よろしいですよ。

 どうしました?」


「リッ……マグラッド博士の肖像画のことなんですけど。

 あの肖像画以外には、何も残ってないんですか?

 写真の発明も、マグラッド博士の生前のことだったはずですけど……」


「そうですね、現在わかっている範囲ではあれだけだと思います。

 マグラッド博士は写真嫌いだったようで、一枚も残ってないんです。」


 写真の発明はホーガンの死後のことだ。

 リットが写真嫌いになるような理由に心当たりはない。


「何か、写真を嫌う理由でもあったんでしょうかね?」


「さあ……すみません、私も博士個人についてはさほど詳しくなくて……

 図書館に行けば、何か文献があるかもしれませんが……」


 博物館のガイドなら、展示物はともかく偉人の逸話までは知らなくてもしょうがないか。


「そうですか……ありがとうございました。」



●●●



 王立図書館。

 アラウィズの街とは比べ物にならないほど膨大な蔵書量を誇る、僕が王都で二番目に楽しみにしていた施設だ。


「世の中には、こんなにいっぱい本があるんだね……」


「うーん、予想以上だな。」


 最初は自力で探そうと思っていたが……

 あまりに広いのですぐに諦め、カウンターで司書の人に聞くことにした。


「すいません、リット・マグラッド博士の伝記を探してるんですけど……」


「あ、それなら28番台の棚に…… おや、初めての顔ですね?」


「……え、来た人の顔、全員覚えてるの?」


「ええ、広さの割には利用者が少なくて。

 それに、初めての方には言っておかないといけないこともありますので。」


「言っておかないといけないこと?」


「はい。1階は誰でも利用できますが、2階は希少本などがあるため、許可がないと入れません。

 3階は機密に近い文章も保管してますので、実質立ち入り禁止です。」


「あ、一応、領主のアラウィズ様から推薦状はもらってるんですが……」


「推薦状ですか?

 少々拝借しても?」


「ええ、どうぞ。」


 渡すと、司書は首に下げていた眼鏡をかけて推薦状を読みだした。


「……なるほど、間違いなさそうですね。

 でしたら、2階までは閲覧して結構です。

 2階も本棚の分類法は同じなので、28番台の棚を探してください。



●●●



 1階に収蔵されている本は、数は多いものの内容的にはあまり目新しい本はなかった。

 なので早々に2階に上がり、セレンと手分けして読み漁った。

 しかし、伝記というものの性質上、希少本だからと言って内容はさほど変わらないようだった。


「これで全部。収穫はなしか……

 セレンの方は?」


 諦めて、別の本でも読もうかと思いながらセレンに声をかけた。


「……肖像画については、やっぱりわからないみたい。」


「うーん……駄目か……

 まあ、肖像画を描いた絵描きが下手なだけって可能性も……」


 違和感と言っても、別に大した話でもない。

 このまま忘れてしまおうと思ったが、


「でも、ちょっと別の気になるところがあって……」


 セレンが本を見せてきた。


「気になるところ?」


「うん。

 この本は神暦640年、マグラッド博士の生前に出た本なんだけど……」


 セレンが指さしたのは、古い本のあとがきの部分だった。


「『……このように、マグラッド氏の功績は偉大なものであり、まさに人類を救ったという評価も過大なものではない。

 ただ、王国民の立場から言うと、帝国建国のきっかけとなった点だけは、新たな火種を生み出してしまったと言えるだろう……』」


「マグラッド博士って、帝国の建国に関わってたんだね。」


 セレンは平然としているが、僕にとっては言葉にならないほどの驚きだ。

 リットが、帝国の建国に?


「セレン、その本を見せてくれ!」


「これ? はい。」


 どういうことかと思い、慌てて本を読み直す。

 しかし、記述はその文だけで、詳しいことはその本にも載っていなかった。


「帝国の建国に……リットはいったい、何をやったんだ!?」


 かろうじて関係ありそうな部分として、

 『マグラッド氏は王国に限らず、多くの小国、地域にクリーチャーギアの製法を伝授し……』

 などと書いてある部分がある。

 確かに帝国は強力なクリーチャーギアを主力とする軍事国家だが、それの原因をリットに求めるのは変じゃないか?


「……ねえ。クロウって、まるでマグラッド博士のことを知り合いみたいに言うんだね。」


 ふと、セレンがそんなことを言い出した。


「え?」


「だって、あの肖像画だけがマグラッド博士の顔を伝える絵なんでしょ?

 それに違和感があるって、まるで本当の顔を知ってるみたいじゃない?」


 指摘されて、僕の発言がうかつだったことに気付いた。

 いや、むしろこの際……


「僕が、リットの親友の、ホーガンの生まれ変わりだって言ったら信じる?」


 僕はなるべく軽い調子で、そう言った。

 変に隠すより、いっそ冗談として言った方が手っ取り早い。


「うん。」


 だが、セレンはあっさり首を縦に振った。

 別に本当に信じると思って言ったわけではなかったが、セレンの瞳は真っ直ぐだった。


「納得がいったよ。

 友達の肖像画が似てなかったら変に思うもんね。」


「本当に信じるのか!?」


「嘘なの?」


 セレンは、相変わらずの無表情。

 だが、感情は読み取れる。

 この顔と口調は、ふざけている時のものじゃない。


「いや、本当だ。

 ……でも他の人には言わないように。

 僕の頭がおかしくなったと思われるからな。」


 というか、すでにおかしくなっている可能性はあるのだが。

 僕の前世の記憶が、すべて妄想なんじゃないかと思ったことは一度や二度ではない。

 だが、少なくともクリーチャーギアの知識に関しては間違っていない。

 村で読んだ本に書いていないことまで知っているし、その知識が正しいことは実地で証明された。


「クラームさんにも?」


「もちろん。

 ……先生に言ったら、思い切り笑われるか、逆に心配されるか……どちらにしても嬉しくない展開になりそうだからな。」


「うん、わかった。

 ……わたしは魔動機械で、クロウはホーガン博士の生まれ変わりかぁ。

 お互い、他の人に言えない内緒ができたね。」


 何故だか、セレンは楽しそうだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ