第19話 博物館の違和
城壁に囲まれている巨大な街。
大陸最大の人口を擁する都、王都。
専用の巨大な門を通り、2体のクリーチャーギアが街に足を踏み入れた。
『王都に来るのも久しぶりね!』
「すごい……こんなにいっぱいのクリーチャーギアが……!」
正確には、僕たちが足を踏み入れたのはクリーチャーギアの駐機場だ。
人型、動物型、虫型……100体を超える様々なクリーチャーギアが整然と並んでいた。
『城壁の外に置くのも不用心だけど、城壁の中に入れて、何かのはずみで暴れられても危険でしょう?
だからこうして、王都ではクリーチャーギア関連の施設を一か所に集めてるのよ。』
「へぇー……
クロウも、王都に来たのは初めてなんだよね?」
「え、ああ……もちろん!」
危うく、『百年ぶりだ』などと口走りそうになった。
もちろん、この駐機場のような、クリーチャーギア普及後に整備されたものは記憶にはない。
だが、城壁や遠くに見える王城には懐かしさを感じる。
『私は早速知り合いに会いに行こうと思うんだけど……
クロウとセレンちゃんはどうするの?』
「わたしはクロウに着いていくよ。」
「僕は王都でどうしても行きたかった場所があって……
まずはそこに行こうかと。」
『じゃあ、私がいつも王都に来るとき使ってる宿があるから、そこで合流ね。
東通りの『カラス亭』ってとこだから。』
「うん、また後でね。
……それでクロウ、行きたいとこって?」
「夢にまで見た、クリーチャーギアの殿堂……
"王立クリーチャーギア博物館"!」
●●●
城に次いでこの街で二番目の大きさをもつ、コンクリート造りの建物。
正門の横には前世が開発した最初期型クリーチャーギア、"ウォッチングドッグ"が鎮座している。
ここは百年の歴史を閉じ込めた、王立クリーチャーギア博物館。
「犬型……キチジさんのワンダリングドッグのご先祖?」
「まあ、だいたいそんな感じ。
100年以上前の機体だけど、基本構造は変わってないし。」
受付のお姉さんに閲覧料を払い、案内できる人がいないか尋ねると、ちょうど今日は王立小学校の子供が見学に来ているという。
なので、子供たちの後ろについて行き、一緒に授業を受けることになった。
『皆さん、こんにちはー!』
拡声器でガイドの女性が挨拶をする。
「「「こんにちはー!!」」」
それに応える子供たちと、セレン。
微笑ましい光景だ。
セレンは相変わらずの無表情なまま、声だけ妙に元気が良いので、ガイドが微妙な顔をしていたが。
『良いお返事ですね。
では早速、館内を案内しましょう。
皆さん、建物に入る前に屋外展示のクリーチャーギアを見たと思います。
あれは最初期……つまり、百年以上前に造られた犬型クリーチャーギア、"ウォッチングドッグ"です!
今では純戦闘用はみんな人型ですが、昔は動物型も戦闘に使われていました。』
ガイドは子供たちを先導しながら、エントランスの中央に向かっていく。
そこには、老人の肖像画が展示してあった。
『この肖像画は、"人類の救世主"とも称えられ、クリーチャーギアの父ともいえる偉人。
皆さんはもう授業で習いましたよね?
せーので名前を言ってみましょう!
せーのっ……!』
「「「マグラッド博士!!」」」
「ホーガン博士?」
子供たちとセレンで答えが分かれた。
ガイドは驚愕の表情を浮かべ、子供たちは一斉にこちらへ振り向いた。
「お兄ちゃんたち知らないの~?」
「教科書にだって書いてあるじゃない!」
子供独特の、無邪気ながら馬鹿にするような物言い。
だが、セレンはそれに怒るよりもむしろ、困惑していた。
「あれ?
クリーチャーギアを発明したのってホーガン博士じゃないの?」
セレンはクリーチャーギアそのものの知識はあるが、開発した人物関係は知らないらしい。
しかし、懐かしい名前だ。
リット・マグラッド。
前世の僕を看取った、親友の名だ。
『あ、えーと……
皆さん、この絵は"マグラッド博士"で正解!
そこのお姉さんは、ちょっと惜しいですね!
地方から来た人は学校に行ってない事も多いから、みんなが知ってることを知らないこともあります。
でも、からかったりしちゃだめですよ?』
ガイドは、常識的な問題を間違えたセレンに対していぶかしげな表情を見せるも、元の調子で説明を続けている。
『さて、せっかく名前が出たから、ホーガン博士のことも説明しましょう!
クリーチャーギアの発明で有名なのは、なんといっても"リット・マグラッド博士"ですね?
皆さんも、授業でそう習ったと思います。
ですが、実は! クリーチャーギアを最初に発明したのはマグラッド博士ではなく、親友のホーガン博士なんです!』
子供たちの興味はすぐに次の話題に移ったようで、「え~、そうなの?」などと声を上げている。
『ホーガン博士が初めて造ったクリーチャーギアは名無しの犬型でした。
性能的にはその時点で下級のメガビーストと戦えるものでしたが、製造に非常に手間のかかるものだったんです!
それを、王国中の街に配備できるほどに量産化したのがマグラッド博士でした!
そのため現在、クリーチャーギア発明の功労者と言えばマグラッド博士、次いでホーガン博士と言われています。』
「ねえ、クロウ。
普通だったら、最初に発明した人の方が有名になるものじゃないの?」
セレンが小声で聞いてきた。
「いや、そうとも限らないだろ?
どんな優れたものを発明しても、誰も見向きもしなけりゃただのオブジェだ。
その点、リット……マグラッドは、実際に使えるように改良して、多くの人を救っている。」
実際僕も、リットあってこそのクリーチャーギアだと思っていたわけだし。
ものを改良し、多くの人に行き渡らせるという点でリットに勝る者がいるとは思えない。
しかし、正直言うと少しだけ悔しい。
僕とリット、二人は互角の天才だと自任していただけに、僕の評判が劣っているのは不満がある。
同時に、納得できる面もある。
当時の僕は人づきあいを避けていたのに対し、リットは社交的な男だった。
国王と話をつけてくれたのもリットだったっけ。
『ではこちらの入り口から、クリーチャーギアの歴史を順にたどっていきましょう!
こちらは神暦622年に造られたカブトムシ型、ホワイトビートル。
安定性を活かした砲撃装備が……』
ガイドの説明は続いているが、僕にはそれよりも、どうしても気になることがあった。
あの肖像画そのものについてだ。
リットって、あんな顔だったか?
僕が知っているのは50歳ごろのリットで、この肖像画は70歳ほどの老人の姿。
年老いて人相が変わる事もあるのだろうが、どうにも僕が知っている彼と結びつかない気がした。




