第18話 蛇の魔導士
ムサシスタッグの整備・改造が済み、いよいよこの街から出発する日になった。
王都まではあと数日の距離。
僕たちは街の正門でムサシスタッグに乗り、クラーム先生を待っていた。
「そういえばクロウ。
クラームさんはどうやって王都へ行くつもりなのかな?」
「……そういえば、聞くの忘れてたな。
ムサシスタッグに一緒に乗る気か?」
スペース的に不可能ではないが、コクピットは寝床も兼ねている。
3人で横になるには流石に狭すぎると思うが。
考えていると、クラーム先生の声が聞こえてきた。
『二人とも、お待たせー!』
声の主は、赤褐色の巨大な蛇。
もちろんクリーチャーギアだ。
「先生、そのクリーチャーギアは……?」
『元々王都に行く予定だったって言ったでしょ?
クリーチャーギアくらい持ってるわよ。』
「そう簡単に買えるものでもないと思うんだけどな……」
「なんて機体なの?」
『この子?
"カースコブラ"って言うのよ!』
「呪う蛇……縁起でもないと言うべきか、魔導士らしいと言うべきか……
というか、どうやって手に入れたんだ?」
『まあ、そこら辺はおいおいね?
とりあえず、出発しちゃいましょう!』
●●●
その日の夜、街道途中にある広場にて。
ここまの旅ではほとんど他人と会わなかったが、王都に近いだけあって、ここでは複数のクリーチャーギアが泊まっていた。
簡単な夕食を済ませた後、クラーム先生はムサシスタッグのコクピットに来ていた。
「で、あの機体。
村を出た時は持ってなかったよな?」
「仕事の報酬代わりにもらったのよ。」
事もなさげに言うが、クリーチャーギアはたとえ中古であっても非常に高価な代物だ。
「……魔導士の仕事って、どんなことをするの?」
セレンが問う。
もっともこれは、『どんな仕事でそんな報酬を?』という意味ではなく、純粋に魔導士という職業について聞いているんだろう。
「魔力がらみのことなら色々やるわよ。
占いの他にも、薬を作ったり、魔力を込めて魔弾を作ったこともあるわ。」
「魔弾って魔導士の人が作ってたの?」
「そうよ。
他にも、クリーチャーギアの魔導炉や神経系を専門に造ってる人とかもいるわね。
私はその手の仕事はしてないけど。」
「ちなみに、領主様の街の工房にも何人かいたぞ。」
「え、気づかなかった……」
「工房の魔導士は技師と同じ作業着だもの、ぱっと見魔導士っぽくないからねえ。」
そこまで言って、先生は小瓶の酒をあおった。
「で、私がやってるのはどっちかっていうと古典的な…… クリーチャーギア発明以前のスタイルの魔導士よ。」
「占いが得意って言ってたもんね。
未来がわかるの?」
「ぼんやりとだけどね。
人にもよるんだけど、私の場合『未来の変えられない部分』が見えるの。」
「変えられない?
それじゃ意味がないんじゃ……」
「一見するとそうなんだけどね?
例えば、『ある村に竜巻が来る』ことが見えた場合、それは変えようがないでしょ?」
「うん。」
「でも、村人を避難させることはできるよね。」
「あ、そっか。」
「何かが起こることはわかるけど、結果どうなるかはその人次第。
そもそも、占いを聞いたことで変化する『結果』なんて、知りようがないでしょ?」
「ちなみに先生は、村にいた時はよく天気を占ってもらってたよ。
百発百中で当たるもんだから、木こりや農夫にものすごくありがたがられてたんだ。」
「へぇ……」
セレンへの説明が終わったところで、一番気になっていた本題を切り出す。
「で、先生。王都で起こる大騒動ってのは、いったい何なんだ?」
「占いで出たのは『巨大』と『混乱』。
いつもはそこからカンが働くんだけど、今回は『何が起こるか』もぼんやりしてるのよね。」
「……何?」
「多分、災害だと思うんだけど……
私も知らない種類の災害なんじゃないかな。」
のんきに言っているが、未知の災害だって?
「それじゃ、王都に向かうのは危険すぎるんじゃないか?」
「そりゃ、私もすぐに避難するわよ。
でもその前に、危険が迫ってることを知らせないといけないでしょ?
それともう一つ。
何が起こるか、はっきり見えない理由に心当たりがあるの。」
「心当たり?」
「『誰かの行動で規模が変わる』タイプの災害なんじゃないかって。
竜巻そのものは人間の力で小さくすることはできないけど、今回は人間の力で小さくできる災害なんじゃないかしら。」
人間の手で小さくできる災害。
それは、誰よりも僕自身……というより、前世の僕が知っているもの。
クリーチャーギア発明前は、人類が手も足も出なかった災厄。
クリーチャーギアの発明によって、人類が対抗できるようになった災厄。
「まさか……メガビースト!?
クリーチャーギアが普及して、防備が万全なこの時代に?」
「私もまさかとは思うけど……
いずれにせよ、知り合いの貴族に話してみようと思って。
一応手紙で連絡は取ったけど、事が事だけにね。」
確かに、うかつな情報の広がり方をすれば王都がパニックになってしまう。
直接行って話すべき内容だ。
話が一区切りついたところで、セレンが手を上げた。
「ねえ、その占いって過去は見えるの?」
「あぁ、セレンちゃんは記憶がないって言ってたものね……
ごめんなさいね。
私に限らず、占いでは過去は見えないものなの。」
「そうなの?」
もし、過去が見えるなら、セレンが誰に何故造られたかもわかったのだろうが、残念ながらそうはいかない。
「先生が前に言ってたっけ。
過去を見る魔導が仮にあったとしても、未来を見るのとは全く別の種類の魔導になるって。」
「ええ。
そして先人たちは、未来を見るためには何千年も努力してきたけど、過去を見る魔導を研究してこなかったから……
どこかの天才が一代で発明してみせたら、話は別でしょうけどね。」
「……クリーチャーギアみたいに?」
「あれはまさに、天才が何百年も技術を進めた例ね。」
クリーチャーギアという存在を生み出せたことは誇らしい。
だが、前世の話題になるのは、少々気恥しい気もする。
「そうだ、代わりにセレンの未来を占ってもらうのはどうだ?」
「そうね。人生はすぐに変動するから、とってもあいまいなことしか見えないけど。
話のタネにはなるわよ?」
「いつ死ぬのかわかるの?」
「セレンはいきなり強烈なことを聞くなぁ……」
「寿命は見えないわ。
というか、『寿命』ってものは存在しないの。一番簡単に変わりやすいことだもの。
極端な話、人間その気になれば今すぐ死ぬことだってできるでしょう?
だから、人の未来は本当にぼんやりしたことしか見えないのよ。」
「怖くない?」
「大丈夫、怖くない怖くない。」
「じゃあ、やってみて。」
「ええ、ちょっと待ってね。」
先生はポーチから鉄製のカードを取り出した。
「カード?」
「先生の占いはカード占い。
36枚のカードを使って、引いた札から連想して未来を直観するんだって、前に言ってた。」
「いくわよ……」
カードの束をシャッフルし、それを宙に放り投げた。
鉄のカードは重さを無視するようにゆっくりと落ち、36枚の内、2枚だけが表向きになっていた。
「カードが示すのは『転機』と『旅人』……」
先生は2枚のカードを顔の前に持ってくると、目を閉じた。
「……近いうちに何かが起こり、目的、立場がひっくり返る。
王都に着いた後も、貴女たちの旅は終わらない……ってことかしら。」
鉄のカードがふわりと宙に舞い、元の束へと戻っていく。
「……なんだか大変なことになりそうだね。」
「他人事みたいに言ってるけど、セレンの未来だからな?」




