第17話 硝子の瞳
~セレン~
わたしは、だれ?
わたしは、セレン。
わたしは、なに?
わたしは、魔動機械。
クロウは、だれ?
クロウは、わたしを起動した人。たぶん。
わたしは、クロウのなに?
わたしは――
「何か、元気がないみたいね?」
声をかけられたことで、思考に没頭しすぎていたことに気付いた。
「クラームさん。」
「クロウもダメねえ。
可愛い恋人に、こんな顔をさせちゃって。」
「いえ、クロウは関係なくて……」
とっさに嘘をついた。
理由は自分でもわからないけど。
「あの子、頭は悪くないのに気が利かなくってねぇ……」
嘘だと気づいたのか、最初から聞いてないのか。クラームはそのまま話を続ける。
「セレンちゃんも大人しい子だし、文句があったらちゃんと言わなきゃダメよ?」
「ちゃんと言わなきゃダメ……」
「そうよ。
ただでさえ気が利かないクロウのことだもの。
言いたいことは言って、聞きたいことは聞かないとね?」
「……ありがとう。
ちょっと、クロウのところに行ってくる。」
「ええ、行ってらっしゃい!」
●●●
クラーム先生の言う大騒動というのは気になるが、はっきりしたことがわからない以上、今は考える意味がない。
今までは、『王都付近まで行けば帝国の追っ手も来られないだろう』という予想をもとに行動してきた。
だが、状況によっては王都でも『何か』ある、ということは頭に入れておこうと思う。
「とりあえず、改造を終わらせないと。
装甲のバランスをセレンに計算してもらって……」
「ねえ、クロウ。」
「あ、セレン!
ちょうどいいところに……」
言いかけて、セレンの雰囲気がいつもと少し違うことに気付いた。
表情はいつも通りの無表情。
声の調子も変わらない。
だけど、何かが違う。
「わたしって、クロウの何?」
「何って……」
言葉自体は、まるで『恋人を相手に拗ねてみせている少女』みたいな言葉。
だけど、セレンの意図がそうでないことは明白だ。
「昨日、クラームさんと話していて、思ったの。
『わたしはクロウの友達』って言ったけど、なんだか違う気がして。
でも、それならなんて言うのが正しかったんだろうって。」
「僕とセレンの関係を表す言葉ってこと?」
「うん、いろいろ考えたの。
クラームさんは『恋人』って言ってたけど、それは違う。
わたしは魔動機械。恋人にはなれない。
それで、いろんな言葉を探してみたの。
『仲間』『兄弟分』『助手』……でも、どれもピンとこなくて。
……どうしたの、クロウ?」
セレンの言葉を聞いて、僕は感動していた。
情緒を持ち、悩み、言葉を探す。
誰がこの姿を見て、ただの魔動機械などと言えるだろうか。
僕はそれに、できる限り真摯に応える義務がある。
なんと言うべきか少し考え、
「僕はムサシスタッグのことを、最高の相棒だと思っている。
あれ以上の『傑作』は誰にも造れないとも、思っている。」
「うん。」
急に別の話題を出した僕の言葉を、セレンは真剣に聞いてくれている。
「セレンは……きっと、別の誰かにとっての『傑作』で、その人にしか造れないものなんだと思う。
僕の"最高"の相棒だと思っているムサシスタッグと比べても、まったく遜色ないほどセレンは"最高"だ。」
「うん。」
心ある存在であるセレンを、ただの器物であるムサシスタッグと比べること自体、本当は正しくない行いなんだろう。
だけど、それが僕の本心だ。
僕は多分倫理観が狂っているが、それゆえにセレンの価値を信じている。
「結論を言うと、『僕にも言葉にできない』。
ただ、セレンの存在は素晴らしいものだってことを、伝えたかった。」
「……うん、なんとなくわかった。」
正直、セレンに関しては少し嫉妬心がある。
いったい誰が、これほど完璧な『傑作』を造りあげたのか。
分野が違うとはいえ、前世の最終傑作すら上回る傑作ではないか?
「まあ、そもそも人造人間自体が世界初の存在だから、他者との関係を表す言葉が無いのは当たり前なんだけど……」
「それだと、最初から話にならないよ?」
「まあな。
とりあえず、もし他人に関係を聞かれたら……
そうだな、一緒に旅をしてるわけだし、『連れ合い』とでも言えばいいんじゃないか?」
「連れ合い?」
「そう。
お互いに"連れ""合"っているから、連れ合い。
一緒に旅をしている人って意味さ。」
「ふーん……?
わかった、次からそう言う。」
●●●
~セレン~
翌日。
わたしはクロウと二人で街を歩いていた。
クラームさんが『工房にこもってばかりいないで、たまには外に出なさい!』と、クロウを追い出したからだ。
「よかったのかな?
作業が遅れると、クラーム先生が王都へ向かう予定も遅れると思うんだけど。」
「問題ないからクロウを外に出したんじゃないの?」
「それもそう……なのか?」
クロウとの、他愛のない会話。
周りの店先を見ながら歩き、ときどきクロウの横顔を見て、また歩く。
いつもと同じ、落ち着く感じ。
機械であるわたしが『感じ』なんていうのも、おかしなものだけど。
「セレン、何かあった?」
「え?」
「なんだか、嬉しそうにしてる気がしたんだけど……」
「うん……この前みたいに、一人で歩くのも新鮮だったけど、やっぱりクロウと一緒がいいなって思って。」
「……そっか。」
私がそう言うと、クロウは笑ってた。
ふと、露店でアクセサリーが並べられていのが目に入る。
「いらっしゃい! どうぞ、見るだけでも見ていって……
おや、お嬢さん、恋人と一緒かい?
これなんてどうだい?」
店のおじさんが、にこやかに商品を勧めてきた。
見せてきたのは、かわいらしく、華やかな指輪。
「あっいえ、恋人じゃないです。」
「おや、そうなのかい?」
丁度、昨日クロウと話したばかりのこと。
今度は自信をもって答えられる。
「はい、『連れ合い』です。」
「……こりゃ失礼! ごふう…でしたか!」
雑踏にまぎれて、後半の言葉が一部聞き取れなかった。
「仲睦まじくて、結構なことで!
だったらこっちがオススメかな?」
店のおじさんは少し驚いた様子で、今度は落ち着いたデザインのロケットペンダントを見せてきた。
旅の記念に写真を入れるといい、って意味なのかな?
なんとなく、笑顔の種類が変わった気がするけど。
「セレン、気に入った?」
「よくわかんないけど、悪くないと思う。」
「じゃあ、僕が買うよ。」
「……ありがとう。」
クロウの手で、ロケットを首にかけてもらった。
このロケットに、何を入れよう?




