第16話 故郷の恩師
森を抜け、次の街に着いてから丸一日が経過した。
僕は民間の工房と交渉し、ライトソルジャーの残骸一つと引き換えに場所と工具を融通してもらっていた。
「あの隊長が乗っていた機体……調べてみたら、『ヘヴィソルジャー85式』っていう、35年前に採用された機体みたいだ。
出力はそこそこあるけど、重量はかなり重い。
それであれだけ動けるんだから、あらためて乗り手の腕前に感心するよ。
あれほどまで性能の限界を引き出せる人、まずいないだろうな。」
「へぇ……
そこまですごい人だったんだ。」
「一度会って、話をしてみたいもんだ。」
分解したヘヴィソルジャー・ライトソルジャーの部品は、ムサシスタッグの予備部品としてある程度確保し、残りは売却することにした。
手元に残したのは汎用部品の他、長剣、魔導銃、盾、一部の装甲。
「正規軍用の魔導銃が2丁手に入ったから、野盗が使ってた衝撃弾用のヤツと交換しよう。
シンプルなのも悪くないけど、多彩な魔弾を使えるのはやっぱり魅力的だ。
あとは装甲。
重量のバランスさえ合ってれば、機動性は維持したままもう少し装甲を増やせるはず……
長剣と盾はモノが良いから、どこかで使い道が……」
「クロウ、わたしが手伝うことはある?」
セレンに問われ、少し考える。
今日の主な予定は、改造プランの概略図を描くこと。
多少の力仕事は工房据え付けの鶴型クリーチャーギアを使えば済む。
重量バランスの計算は手伝ってほしいが、こちらは明日でいい。
「うーん…… 今は特にないかな?
何かやりたいことがあるのか?」
「うん。
わたし、一人で街を歩いてみたい。」
●●●
~セレン~
わたしが起動してから、ほぼ1カ月が経つ。
一人きりになるのは、初めてのことだった。
「……が……でさー。」
「へぇ、そうなんだ? でも……」
断片的に耳に入る、知らない人同士の会話。
「いらっしゃい!
どうだい、そこのお姉さん! 見るだけでもいいから!」
店先に並んだ、知らない物。
クロウといるときには、気づかなかったもの。
いつもと違うって、新鮮な気分。
機械であるわたしが『気分』なんていうのも、おかしなものだけど。
「あっ。」
「あら?」
余所見をしていたから、人とぶつかりそうになった。
とっさに避けたけど、無理な動きをしたので転んでしまった。
「大丈夫?
ごめんなさいね。」
「いえ、わたしが勝手に転んだだけだから。
それに、怪我はしてない。」
ぶつかりそうになった相手は、20歳半ばくらいの赤髪の女性だった。
自分の美的感覚に自信はないが、多分、相当な美人なんだと思う。
プロポーションも抜群で、それを見せつけるような服装だ。
「でも貴女、服が少し汚れてしまっているわ。
ほら、ここ……あら?」
女性はわたしの服を触り、そこで手が止まった。
「貴女、もしかしてクワガタの村から来たの?」
「……どうしてわかったの?」
「この生地の模様と染め方、あの村独特の物なのよ。
懐かしいわね。私もあそこの出身なの。」
「あの村の……?」
「あら?
でも、あの村に貴女くらいの歳の女の子なんていたかしら?」
「あの、わたしは……」
どうしよう。
クロウは正体を隠さなきゃいけないって言ってた。
だけど、人に聞かれたときなんて言い訳しようか、考えてなかった。
「もしかして、領主の街の子?
クワガタの村の人から貰ったとか?」
「あっ、そう!
クロウのお母さんに貰ったの!」
よかった。
不自然にならずに、なんとか話を繋げられそうだ。
「クロウ?」
「あ、えっと、クロウっていうのは……」
「クロウって、あの『守り神様』にいっつも張り付いてたクロウ?」
「知ってるの?」
「知ってるも何も……あの子にクリーチャーギアの乗り方を教えたのは私よ。」
クロウに?
言われてみれば、本の勉強は一人でできても、実際にクリーチャーギアを動かすのは誰かに習わないと無理だ。
「私はクラーム。魔導士をやっているの。
貴女は?」
「わたしは、セレン。
クロウの――」
言いかけて、言葉に詰まる。
わたしは、クロウの何なんだろう?
クロウは、煙突の村でわたしを紹介するときは『姉だ』と言っていたけど、この人に嘘は通じない。
今日は、今まで考えたことのないことばかり考えてる気がする。
「……友達?」
とりあえず口に出してみたけど、なんだか違う気がした。
●●●
「久しぶりね、クロウ。」
作業中に声を掛けられ、手を止める。
「え? ……クラーム先生!?」
話しかけられた声が予想外のものだったため、認識するのに少し時間がかかった。
子供のころ、僕に様々な知識を与えてくれた近所のお姉さん。
セレンが、その人を連れて戻ってきたのだ。
「聞いていたけど、あらためて見ると驚くわね。
本当に守り神様を動かしたなんて。」
「どうして先生がここに……
セレンが連れてきたのか?」
「うん。
街を歩いてたら、偶然知り合って……」
クラーム先生はセレンの頭をなでている。
「随分立派になったものねぇ。
こんな可愛い恋人まで連れて……」
「恋人!?」
聞き捨てならない発言が、先生の口から出た。
一方セレンは、首を横に振っている。
「違うよ?
わたしは友達だって言ったんだけど……」
「こんな美人さん捉まえて、しかも2人きりで旅してきたんでしょ?
恋人じゃなかったら何だって言うのよ!」
「……って言って、きかなくって。」
「あー……」
そういえば、先生はこういうところがあった。
勝手に恋愛と結び付けて思い込む癖というか、妙なおせっかいを焼きたがるというか……
「それで、あらためて聞くけど……
先生は何の用で?」
「王都に行くんでしょ?
私も丁度王都に行こうと思っていたから、一緒に行こうと思ってね。」
「先生が?」
「ええ。
近いうちに、王都で何か大騒動が起きるみたいよ。」
「大騒動って……」
「知ってるでしょう?
私の占いはよく当たるって。」




