第15話 鬼武者の咆哮
~帝国軍の部隊長、ジガット~
モニター越しに見えたのは、深緑の武者に氷結弾が直撃し、右膝関節が一瞬で凍り付く姿。
しかし、奴はバランスを崩しながらもギリギリで転倒せず、距離を開け、追撃の弾を装甲で受け流していた。
「あれで転ばないのか……!?」
敵機のバランス感覚に舌を巻くが、どちらにせよ動きは鈍っている。ほんの数秒寿命が延びただけに過ぎない。
現に、射撃角度を修正した部下たちによって装甲以外の場所にも弾が命中していき、あっという間に全身が凍り付く。
「恐ろしいほどのしぶとさだったが、これでトドメだ……!」
まともに動けなくなった敵機に対し、長剣を振りかぶり――
一瞬、前回のことが頭をよぎり、踏み込みを止めた。
その直後、異変が起きる。
深緑の武者の装甲がわずかにスライドし、全身から白煙を吹き出したのだ。
『隊長、これは!?』
一瞬で氷が砕け散り、動きを取り戻した武者は刀を振るう。
「……っ!」
あのまま踏み込んでいたら、前回同様に斬られていたことだろう。
氷を吹き飛ばし、武者は完全に元の姿に戻っている。
いや、正確には元とは少し違った。
量は減ったが依然として白煙は吹き続けているし、
「顔が変わった……!?」
頭部の装甲が開き、まるで笑っているようにも、怒っているようにも見える。
『GRuRuRuuuu……』
悪魔のような面に変じた武者が、唸り声をあげた。
「こいつは、まるで化け物じゃないか……!!」
任務では今までに何十というメガビーストと戦った。
民生機でも追い払えるような雑魚から、中隊単位で相手しなければ危険な上級種まで。
だが深緑の武者は、どんなメガビーストよりもクリーチャーじみて見えた。
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予想外の現象だった。
「クロウ、この音は何?」
「多分、開いた装甲の隙間を蒸気が通る音だと思う。」
人型形態ではクワガタ形態以上に熱が発生する。
そのために、クワガタ形態での強制放熱モードよりも放熱口が多めにして、さらに全身に分散させてある。
放熱口が多い分、無防備にならないように装甲の隙間は狭くしてあったのだが、そのせいですさまじい騒音が生じていた。
「……まあいい、音の問題は後だ!」
それより目の前の敵だ。
今なら『強制放熱』の影響で多少の被弾を無視できる。
「短期戦、こちらから仕掛ける!」
一気に踏み込み、敵の隊長機に密着する。
この距離なら、フレンドリーファイアを恐れて向こうの後衛もうかつに撃つことはできない。
そして、ゼロ距離からの乱打戦。
刀と剣が、あるいは刀と盾がぶつかり合い、火花が飛び散る。
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~ジガット~
深緑の武者が、蒸気を吹き出しながら二刀を振るう。
力、速さ、太刀筋の正確さ。どれをとっても一流の剣技。
だが、技の組み立てにはどこか素人臭さを感じる。
「この程度なら、どうとでもなる!」
二刀を盾で受け止めると同時に、機体の全重量を乗せて押し出す。
直後、外部スピーカーをオン。
「距離が開いた……今だ!!」
部下たちが魔導銃のトリガーを引き――
その寸前、距離を離したはずの二刀がモニターに大写しになった。
「っ!!? 飛刀術か!」
投擲された2振りの刀を、ギリギリのところで機体をよじり、かわす。
『うあぁっ!?』
『ぐおっ!?』
背面カメラのモニターに目を移す。
部下2人の機体に深々と魔導刀が突き立っていた。
「しまった……狙いはこっちか!」
私を狙ったと見せかけて、本当に狙っていたのは背後の部下だった。
とっさのことで避けきれず、2体は中枢部にダメージを負っているようだ。
これでは戦闘継続は不可能。
「だが、これで奴も武器を失っ……
何っ!?」
深緑の武者は、太く長い金属の円柱を振りかぶっていた。
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鋼と鋼が衝突する轟音が、森に響き渡る。
ムサシスタッグが振りぬいた鋼材は、敵の重装甲機の頭部を粉砕していた。
「これだけの質量でぶん殴れば、重装甲も関係ないだろ……!」
とはいえ、鋼材もぐんにゃり曲がってしまった。
新しい武器を作るために買った上質な鋼材だったので、少しもったいない気もする。
だが、命やムサシスタッグを失うよりマシだ。
「あっ……逃げていくよ?」
セレンが言う通り、中破した機体3体はコクピット部をパージし、残った1体がそれを回収して離脱していく。
「追わなくていいの?」
「追いつけないこともないけど、捕まえてもどうしようもないからなぁ……
殺して解決するわけでもないし、情報は欲しいけど尋問のやり方なんて知らないし。」
遠ざかる足音がだんだんと小さくなり、やがて完全に聞こえなくなった。
「はぁーーー…… 死ぬかと思った……」
気が抜けて、どっと疲れが噴き出してきた。
「そうなの?
こっちはほとんど無傷だし、結構余裕に見えたけど。」
「結果で言えばそうだけど、一歩間違えば死んでたからな……」
刀を投げつけた時、もし避けられても後ろの機体に当たるように狙っていた。
だが、本当に避けられるとは思わなかった。
「あの隊長機の動き……重装甲の機体であれだけ動き回れるとか、異常だぞ……?」
同じ機体で真似をしろと言われても、僕なら一生訓練しても無理だ。
機動戦で勝てたのは、ムサシスタッグの大出力と重装甲のおかげだ。
思い返しても体が震えてくる。
「でも、勝ったのはクロウでしょ?
それが結果だよ。」
いつも通りの無表情で、セレンはそう言った。
「……まあ、そうだな。
もしかしたら死んでたかも、ってのを考えても仕方ないか。」
セレンの話し方は無機質だが、それゆえに落ち着く。
そうだ、こうして生きている以上、考えるべきは次に備えること。
「まずは、目の前の残骸をどう使うか、だな……」
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~ジガット~
「……してやられたな。」
「ジガット隊長……申し訳ありません、我々のせいで……!」
2人の部下が深々と頭を下げた。
「いや、あの状況では私が諸君らの立ち位置でも躱せなかっただろう。
奴は、私の機体が目隠しになるように刀を投げていたはずだ。」
もしかしたら、あの素人臭い剣技の組み立ても演技だったかもしれない。
「機体性能の差はあったが、こちらは4人で待ち伏せまでした。
だがあの結果。
単純に、奴の策と腕前が私たちを上回っていたということだ。」
「隊長がそこまで言う凄腕ですか……!?」
「直接斬り結んでよくわかった。
奴はこちらの機体の『限界』を読んでいる。」
「『限界』……ですか?」
「そうだ。
クリーチャーギアは機械である以上、間接の可動範囲や動作の速度に限界がある。
私が乗っても諸君が乗っても、同じ機体なら剣を振る速さは同じだ。」
「ですが、隊長の機体は……」
「ああ、私が使っていたヘヴィソルジャーは奴にとって初見の機体のはずだ。
だが、それでも見切られていた。
つまり……」
「手に負えないってことじゃないですか!?」
「少なくとも、今の私たちに支給された機体ではな。」
「「「……!」」」
何か、手を考えなければならない。
たとえどれほど手ごわい相手でも、帝国軍人として、武人として、このまま引き下がるわけには――
「ジガット隊長! あれは!?」
「む?」
部下の一人が空を指さす。
その先で、一羽の鳥がこちらに下りてくるのが見えた。
「本国からの指令か!」
鳥の脚につけられた金属のリングを取り外し、魔力を流すことでパスコードを解除。
魔導によって圧縮された文章が空中に浮かび上がる。
「隊長、いったい何が……?」
「これは……本国への帰還命令だと!?
だが、この任務は誰が引き継いで……」
文章に目を通していると、少々苦手なものの名前が書かれていた。
「……特殊情報部隊!
適任ではあるが、個人的にはあまり好きな手口ではないな……」




