第14話 森の追撃者
森の中に、広く長い道が続いていた。
領主の街と王都をつなぐ、新街道。
100年前には存在していなかったものだ。
「すごいよね。
こんな広い森に、こんな立派な道を作るなんて。」
セレンが楽しげな声を上げる。
最近少しずつ、セレンの感情を感じ取れるようになってきた気がする。
「クリーチャーギアは土木にも使える万能機械だからな。」
100年前は、荷馬車も通れないような細い道だった。
当時はその方がメガビーストから身を隠すのに都合が良かったからだ。
だが、クリーチャーギアが普及すると、今度は細い道では使い物にならなかったのだろう。
「でも整地は結構雑だし、クリーチャーギアの『獣道』なのかも。」
「獣道?」
「ほら、路面をよく見ると、岩や切り株が雑に埋め込まれてるだろ?
多分、適当に木を伐採した後クリーチャーギアで踏み固めただけの道なんじゃないかな。」
村から村への移動がクリーチャーギアに乗っていることが前提なら、人間にとって歩きやすい道である必要はない。
「そっかぁ……スケールが違うね。」
「文字通りの意味での縮尺だな。」
話しているうちに、木々の生え方がまばらな地帯にさしかかっていた。
「さて、そろそろ中間地点かな?
聞いた話だと目印が…… うわっ!?」
ムサシスタッグが急停止した。
6本脚の性質上バランスを崩して転ぶことはないが、コクピットは大きく揺れ、衝撃を受ける。
とっさに計器を見ると、右後脚と左中脚が動かなくなったようだ。
「故障したの?」
「いや、これは……!」
僕が言い終わるより早く、道の両側から巨大な影が飛び出してきた。
「敵襲だっ!!!」
動く脚だけを使ってムサシスタッグを背後に跳躍させる。
直後、今までムサシスタッグがいた場所に魔弾が降り注いだ。
着弾した地面は凍り付いている。
脚が急に動かなくなったのも、これが原因か。
「氷結魔弾……!」
敵は4体のクリーチャーギア。
ライトソルジャー90式が3体に、初めて見る機体が1体。
ライトソルジャーは片手に盾、片手に魔導銃を装備している。
初見の機体はかなりの重装甲で、こちらの装備は盾と魔導長剣だ。
重装甲機が前に、ライトソルジャーは後ろに散開してフォーメーションをとっている。
「帝国の追手か……!」
例によって部隊章もナンバーも消してあるが、まず間違いないだろう。
その証拠に、脅しの文句の一つも言わずに魔導銃を撃ち掛けてきた。
僕は射撃をクワガタ形態のまま装甲で受けた。
装甲表面に氷が張り付くが、クワガタの背面は実質一枚板。多少凍っても動作の邪魔にはならない。
そこに、前衛の重装甲が距離を詰めてきた。
機体を左右に振りながら前進する機動と、片手盾の扱いが上手い。
据付の魔導銃で衝撃弾を連射するも、当たらない。
「クロウ。多分この人、前に襲ってきた人と同じ人だと思う。」
「えっ?
確かに似た動きだったけど……あの動きは帝国の基本戦術なんじゃないのか?」
「乗ってるクリーチャーギアが違うのに、機体を反転させるときの姿勢が同じ。」
「セレン、よくそんなことに気付くな。
なら、動きの先読みも……」
「ごめん、それは無理。
意識的にランダムな機動をしてるみたいだから、先読みはできないと思う。」
「そっか……
でも、相手が前と同じだとわかっただけでもありがたい!」
セレンに言われるまで、以前と同じ戦法をとろうと思っていた。
つまり、近寄ってきたところを不意打ちの変形、そこからの抜き打ちだ。
だけど、既に手の内がバレてるこの相手にはそれは通じない。
危うく大きな隙をさらすところだった。
「それなら……
『九百九十九』、抜刀!!」
音声入力を受け、ムサシスタッグが変形を開始する――
●●●
~帝国軍の部隊長、ジガット~
「今回は変形の出し惜しみは無しか!」
わざと間合いを詰め、向こうがカウンター狙いで変形したところを、さらにカウンターで返そうと狙っていた。だが、この距離では無理だ。
それにしても驚くのは、あのクワガタの変形開始から変形完了までの早さ。
現在においても可変機がほとんど存在しないのは、変形にかかる時間が実戦においては致命的な隙になるからだ。
その点あのクワガタは凄まじい。
さらに、前回は余裕がなかったが、今回はしっかりと変形する過程が見えた。
「防御姿勢が崩れないとはな……!」
コクピットや頭部、間接といった弱点になりうる部分は、変形中でも装甲の陰になるよう設計されている。
これでは変形時の隙を突くのも難しい。
「流石は"可変機1号"ということか……」
踏み込み、長剣を振るう。
深緑の武者は、それをサイドステップでかわす。
かわした先に、部下が氷結弾を撃ち込む。
部下の射撃を、肩に付いた盾状の装甲で受ける。
一連の動きはよどみなくつながり、高い機動性と多少の攻撃をものともしない頑強性がうかがえる。
それこそ、機動性ではライトソルジャーを上回り、頑強性でもこの機体を上回るだろう。
「だが、無敵ではない……!」
単騎での性能がどれ程優れていても、限界はある。
情報通りの性能なら、4体がかりの連携なら打ち破れるはずだ。
●●●
正直、このまま戦っていても相当厳しい。
まず、地形が悪い。
逃げようにも、道は直線なので後ろから狙い撃ちされる。
森に逃げ込んでも、こちらの動きが阻害されるだけなので無意味だ。
一方向こうの後衛は、ほとんど動き回る必要がないので森の中に片膝立ちの射撃姿勢で構えていられる。
連中にしてみれば、前衛の重装甲機がこちらの動きを阻害して、僕が後衛を狙いに行けないようにしていれば十分というわけだ。
「このっ……!」
また被弾し、わずかに装甲が重くなる。
なんとか頭部や関節部は守り切れているが、いつまでも避け続けるのは不可能だ。
そもそも、僕の乗り手としての腕前は特別優れているわけではない。
ムサシスタッグの高い性能と、僕がクリーチャーギアを知り尽くしているというアドバンテージで戦えているだけだ。
それに対し、敵は戦うために十分訓練した軍人が4人。
「クロウ、勝てるの?」
セレンは淡々とした口調で厳しいことを言う。
「難しい、けど……降参はできない。
勝たなきゃ先がないんだ、やってみるさ!」




