第12話 煙突の村
領主様の街を出て数日。
上り下りの多い山間の道を進む。
地図によれば、そろそろ村があるはずだ。
「あれかな、クロウ。」
「うん、間違いないな。」
セレンの声に頷く。
モニターには、遠くにそびえたつ棒状の何かが映っている。
「大きな……柱?」
「煙突だよ。
あそこは昔から製鉄が盛んな村なんだ。」
あの煙突は、100年前から変わらないままだ。
懐かしい。
ムサシスタッグを造っていた時、あの村にはよく鋼材を買いに行ったものだ。
『いつもの行商じゃないな?
何の用だ!?』
村の入り口にあるスピーカーから声が響く。
野盗かと思われ、警戒されているようだ。
「旅のビーストハンターです。
領主アラウィズ様の街から来て、王都を目指しています。
今、降りますから。」
この場合、信用を得るには生身をさらすのが手っ取り早いだろう。
「あれ?
クロウって、ビーストハンターだったの?」
「いや、違うけど。
そういうことにしておけば、仕事でも貰えるかなって思ってさ。」
領主様にもらった報酬は大半はキチジさんに渡してしまい、残りはムサシスタッグの修理に使った。
つまり、どこかで路銀を稼ぐ必要がある。
キチジさんの話だと、ビーストハンターには資格などは必要ないらしいので、僕もメガビーストを狩って路銀にしようと思った次第だ。
『ビーストハンターか……
わかった、降りてこい!』
●●●
領主様にもらった通行手形もあったので、警戒を解くのはさほど難しくなかった。
ムサシスタッグは入り口の脇に止め、徒歩で村に入る。
クワガタの村は森の中にあった為、建物は木造だったが、この村では建物はレンガ造りが基本だ。
その中でもひときわ目立つのは、遠くからでも見える巨大な煙突と、高炉。
100年経って建物に入れ替わりがあっても、煙突と高炉は昔と変わらないままだ。
少し感慨深く思っていると、30歳過ぎくらいの男が近づいてきた。
「旅のビーストハンターと言ったが、まだ子供じゃないか。
しかも、女の子を連れて?」
「元服はしています。
こちらは姉です。」
まあ、大嘘だが。
セレンが無言でこちらを見ている。
「噂でも聞いて来たのか?
最近、ライノホーンが出たって……」
ライノホーンは四脚獣型のメガビーストだ。
動きは鈍重だが、丈夫な皮膚と大きな一本ヅノをもつ。
体は大きく、力も非常に強く、メガビーストの中でも上位の脅威だ。
「危なくって、鉄鉱石を掘りにも行けない。
ライノホーンに対抗できそうなクリーチャーギアも乗り手も、こんな村にはいない。
領主様にどうにかしてもらおうと、思っていたところだが……」
ビーストハンターを名乗って正解だったようだ。
早速仕事が舞い込んできた。
「しかし、ビーストハンターといっても駆け出しのヒヨッコか……」
男が僕を見る目は、あからさまに落胆したものだった。
「いえ、大丈夫です。
ライノホーン相手ならどうにかできます。」
「はったりはよせ。
お前のクリーチャーギアは虫型だろう?
多少は武装してるみたいだが、とてもじゃないがまともな戦力にはならん。
最低でも人型が5,6体はいないと……
仲間はいないのか?」
「今、呼べる心当たりはないですね。」
仲間といえそうなのはキチジさんだが、僕自身が頼んだ仕事の最中だ。
「じゃ、ダメか……
まあいい。小僧、仕事が欲しいなら、駄賃は出してやるから使いにでも行って……」
「え、でも、相手はライノホーンでしょう?
虫型なら、むしろ人型より適任では?」
人型のメリットは、柔軟な運用と機動性。
デメリットは、最大パワーに劣り重量級の武器を扱えないこと。
虫型はその逆で、速度と汎用性に劣るが、安定性とパワーで勝る。
鈍足ながらタフなライノホーンを狩るなら、人型の機動性は不要だし、攻撃能力が不足気味だ。
無論、正規軍の二個小隊(クリーチャーギア8機)もあれば余裕をもって戦えるだろうが……
ちなみに理想は遠距離から大型の魔導砲で叩くこと。
どちらにせよ今の装備では無理だが。
「何を言ってるんだ!?
王国軍が配備してるクリーチャーギアは全部人型だろう!
何十年も昔ならともかく、今時は戦場に虫型の入る余地なんてない。
常識だろうが!」
「えぇ……?」
軍の工房に人型しかなくて、奇妙だとは思っていた。
村を襲った野盗も、『虫型なんぞで人型に』みたいなことを言っていた気はする。
だが、クリーチャーギアの発明者として、虫型が人型に完全に劣ると思われるのは心外だ。
ホーガンはあくまで相手と状況に合わせて使い分けるために、虫型、動物型、人型を別々に用意したのだから。
「悪いことは言わん。
『大物狩りで一気に名を上げよう』なんて考えるのはやめときな。
どんな業界でも下積みは大事なんだ、焦らずにやることだな。」
多分、この男は親切なだけで、この忠告も善意で言っているんだろう。
だが、こちらは勝てると確信しているのだ、稼ぐチャンスを逃すわけにはいかない。
反論しようとしたところで、
「任せてみても、かまわんじゃろ。」
横手から、老人の声がかかった。
「村長!」
どうやら、この村の村長らしい。
「自分からやると言っておるんじゃ、他人が余計な世話を焼くこともあるまい。
上手くいけばそれで良し、駄目でも逃げるくらいのことはできるじゃろ。
まあ、似たような歳の息子がいるお前さんとしちゃ、見殺しにしたくないというのもわかるがのう。」
「だけど、こんな虫型じゃあ……!」
「案外やるかもしれんぞ?
わしの爺さんの時代は、虫型でメガビーストと戦ってたと聞くしの。
よく話しておったわい。」
「また、『クワガタムシ型に乗ったクソ強い老人』の話か?」
「そう、それそれ。
ふらっとやって来て、この村を襲っていたメガビーストを退治し、鋼材を買って帰っていったという……」
「クリーチャーギアが出始めたばかりの大昔の話だろう?」
っていうか、前世のことだ。
ムサシスタッグのの最終調整の途中で、確かにそんなことがあった気もする。
「わしが言いたいのは、虫型も捨てたもんじゃないかもしれん、ってことじゃ。
勝算はあるんじゃろう?」
「もちろんです。」
「もし退治できたら、十分な報酬は約束しよう。
具体的にはこんなところじゃな。」
老人が携帯用の算盤をはじいて見せてきた。
「……結構な額ですね。
お任せ下さい、やってみせましょう!」
●●●
村の人と話している間、ずっと黙っていたセレンだが、2人が離れると口を開いた。
「大丈夫なの?」
「ライノホーンなら、ムサシスタッグとの相性はいい方だし……
万一のことがあっても、隠し玉もあるからな。」
「隠し玉?」
「ほら、修理の時に仕込んだアレ。」
「アレって……こういう時に使うものだっけ?」
「本来の使い方じゃないけどな。」




