第11話 真価の復帰
約束通り領主様から通行手形を受け取り、さらに手紙の追加もしてもらった。
村への手紙には『クロウは学識があり、勉学に励ませるために王都へ行くことを許可した』という内容が書き加えられ、しばらく村に戻らなくても心配をかけずに済むはずだ。
「それじゃあキチジさん。
これを村に届けて、その後はプラウブルが用意されるまでの防衛を頼む。」
「ああ、任せてくれ。
自慢じゃねえが、『引きつけておいて』『逃げ切る』のだけは自信がある。
メガビースト相手ならどうとでもなるさ。」
頼りになるかというと微妙な男だが、人格は割と信用できる。
人型クリーチャーギアを持ってる野盗がそうそういるとも思えないし、帝国軍も無意味に村を襲う可能性はないだろう。
つまり、キチジさんが適任ということだ。
「後は……僕個人としての手紙と、お待ちかねの報酬だ。」
「あぁ、確認させてもらう。」
金貨の袋を手渡す。
「ひーふーみー…… うん?
最初の話より随分多くないか?」
「キチジさんはライトソルジャーの残骸は要らないって言ってただろ?」
「売りさばく伝手もないし、そういうのはビーストハンターの仕事でもないしな。」
「でも、あれを落としたのは共同戦果だからさ。
残骸は僕が修理部品に貰うとして、その分のボーナスも足しておいた。」
ボーナスの元は領主様に情報を伝えた時にもらった小遣いだ。
「いいのか!?
ありがたい……恩に着る!!」
「僕にとっては、部品の方がよっぽど価値があるからな。
……そういえば、何でそんなにお金に困ってたんだ?」
「あれ、言ってなかったか?
借金だよ。」
「借金? 何の?」
「詐欺に騙されてな……
『錬金術の研究に投資していただければ、できた金を差し上げます』ってやつ。
で、気がつけば、いつの間にやら借金まで負わされていて……
いけると思ったんだがなぁ……」
今時、錬金術詐欺に?
錬金術で金は造れないと証明されて久しいのに?
そもそも、研究して金が手に入る見込みがあるなら投資を募る必要がないと気付きそうなものなのだが。
「わたし、あんまりそういうのわからないんだけど……
キチジさん、頭は大丈夫なの……?」
「言うことが厳しいなあ……」
「セレン、気を使ってそういう言い方になったのはわかるけど、かえって切れ味が上がってるよ。」
少し、キチジさんに仕事を任せるのが不安になった。
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「さて……やるか!」
工房長の厚意で工房の敷地の一部を貸してもらえることになった。
設備も何もないただの空き地だが、安心して部品を広げられるだけでもありがたい。
「うーん……流石に整備が行き届いてるな……!」
正規軍のライトソルジャーは、野盗が使っていたものとは別物と言っても過言ではない状態の良さ。
コクピットブロックと主頭脳はないものの、他の部品を使えるだけで修理には十分だ。
「まずは借りてきた仮設テントを広げて……
セレン、手伝ってくれる?」
「うん。」
「露天でも直せないこともないんだけど……
できるだけ、ムサシスタッグの可変機構は見せたくないからな。」
魔導銃の改良のため、工房長は今は忙しい盛り。
わざわざこちらの作業を覗きに来る余裕はないはず。
「どういうわけか、可変機は全然普及してないからなあ……
物珍しさで変に騒がれたり、探りに来られたりしても困る。」
100年前の時点で王国に全データを送ったのだから、今更ムサシスタッグに価値があるとは思えないが。
もしかして、当時は可変機なんて見向きもされなかったのだろうか。
量産にはあまり向かない機能だし、そのまま忘れ去られたとか?
「まあ、もし見られても、可変機の発想自体なければ気付かないかもしれないけど。
とにかく、整備が済めば人型形態を安心して扱えるようになるはずだ。」
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「厚みがある分、装甲の劣化はほとんどない。
フレーム部も同様。
問題はパイプ類……特に可動部の軟質パーツは……」
「ボロボロにひび割れてるね。」
「よくこれで漏れなかったな……
セレン、レンチ取って。16のやつ。」
「これ?」
「うん。
……ナットもバカになってる。
全然緩まない。」
「油差す?」
「いや、切っちゃおう。
位置的にその方が早いし、こんなボロいナット、再利用しないから。」
「じゃあ、もいじゃうね?」
「うん。
……うん?」
セレンは、素手でボルトをねじ切った。
「……セレンを造った人は、なんでここまで怪力にしたんだろうね?」
「さあ?」
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「うーん……」
「どうしたの、クロウ?」
「いや、このパーツ。
このままだと、修理してもまた壊れそうかなって。」
「あ、ホントだ。」
「いっそのこと、ここの負荷がなくなるように改造した方が……」
「この前の、魔導銃の改造案。
応用できるんじゃない?」
「なるほど、それなら……いけそうだ。
すごいじゃないか、セレン!」
「……褒められた?」
「うん、褒めた。」
「えへへ。」
無表情だ。
「真顔で口だけ『えへへ』って言っても……
っていうか、誰かに習ったの?」
「工房長さんが、『愛嬌も覚えな』って。」
「あー…… 言いそう。」
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かなりの日数が掛かったが、体感的にはあっという間だった。
「チェック良しっ!
ここでテスト変形するわけにはいかないけど、それ以外は完璧だ……!」
「わー。」
セレンは無表情で拍手した。
「また無表情で……
いや、これはこれで可愛いのか?」
「じゃあ、これが『愛嬌』ってこと?」
「違うと思うけど……セレンの個性として、そういうことにしておくのもアリかな?」
ともあれ。
これでムサシスタッグは、ほぼ100%の性能を発揮できる。
「調子に乗って、ちょっと改造もしたけど……」
「大丈夫だと思う。
少なくとも、わたしの計算だとバランスは崩れていない。」
「セレンがそう言うなら、大丈夫かな?」
一緒に本格的な作業をしてみてわかったが、セレンの計算能力は非常に高い。
これも人造人間ゆえの特性だろうか。
「おう、整備は終わったのか?」
「工房長!
お世話になりました。」
「別に、場所を貸しただけで世話はしてないけどな。
……お前のクリーチャーギアも、良いクリーチャーギアだよな。」
「まあ、あくまで虫型相当のスペックですが。」
正直言って自慢したいところだが、そういうわけにもいかない。
「ただの虫型ってわけでもないんだろう?
こいつには何かがある。
それが何かまでは、俺にはわからねえけどよ。」
正直、工房長にはある程度感づかれるだろうとは思っていた。
どうやら忙しかっただけでなく、気を使ってあえて近づかないようにしてくれていたようだ。
「はい、大切な相棒です。」
「よし……その意気だ!
いつだって『俺のクリーチャーギアは無敵!』って、そんな気持ちでいな!
それがクリーチャーギアの乗り手ってもんだぜ!!」
工房長の言葉は力強かった。
「……わかってますよ。
僕のムサシスタッグは――」
100年経っても、僕の最高の傑作だから。




