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第10話 工房の試練



「で、一体何事かね?」


「領主様にお伝えしなければならないことができましたので、戻ってきました。」


 6時間ぶりに、僕たちは屋敷の使者の間に来ていた。


「あのクワガタが背負っている、クリーチャーギアでも入ってそうな包みに関係しているのかね?」


「ええ。

 ……ですが、お話する前に領主様にお願いしたいことがありまして。」


 領主様の眉がピクリと動いた。


「私を強請ゆすろうというのか?」


「とんでもない!

 ただ、僕にも事情ができてしまいまして……

 領主様がお困りになるほどのことではないんですが、少々お手数をおかけしますから。」


「ふむ……約束はできんが、言ってみたまえ。」


「王都へ向かう許可と、少々の口添えをお願いしたく。」


「……それくらいなら構わん。

 で、君が伝えねばならぬこととは?」


「帝国軍に襲われました。」


 領主様の顔色がサッと変わる。


「……まさか、あの包みは!」


「お察しの通り、ライトソルジャー90式です。

 部隊章もナンバーも消されていましたが、連携の上手さと整備状況の良さから、間違いないかと。」


「私の領内で……!

 やってくれるな、帝国……!!」


 領主様は、もはや怒りを隠そうともしない。

 よほど腹に据えかねているのだろう。


「しかし、良く撃退できたものだね?」


「キチジさんのおかげです。」


 キチジさんは『俺!?』と言いたげな顔をしたが、口に出すのはこらえてくれた。

 ムサシスタッグのことはできるだけ秘密にしておきたいので、かわりにキチジさんに目立ってもらうことになる。


「ですが、どうして僕が狙われたのかわからなくて。

 珍しいものといえば、村の『守り神様』くらいのものですが……

 今更あんな古いものを狙って帝国が動くでしょうか?」


「なるほど……

 何が狙いかわからないから、国境から遠い王都に行きたいということか。」


「ご理解いただけて助かります。

 ただ、そうなると両親や村長に心配をかけてしまいますので……

 『領主様のすすめで、学問のために王都へ向かった』と、手紙に書いていただきたいのですが……」


「……両親や村長をあざむこうというのは、感心しないな。」


「……駄目でしょうか?」


「欺こうというのは感心しない。

 もし、そのように書いてほしいというなら……君がそれだけ有望な知恵者であると示したまえ。」



●●●



「村長からの手紙だと、たしか君はクリーチャーギアの技師になりたいんだったな?」


「はい、その通りです。」


 僕たちは領主様に連れられて王国軍の基地に来ていた。


「ならば、ちょうどよい。

 知っての通り、私の領地は帝国との国境に接している。

 小競り合いはしょっちゅう起こり、配備されているクリーチャーギアは出撃と整備を繰り返しておる。」


 整備工房に並ぶ人型クリーチャーギアは壮観ではあるが、ここにあるということは不具合があるということだ。


「"イエローナイト"と"レッドガンナー"。

 少々古い機体だが、前線を支えてくれる頼もしい戦力だ。

 ……しかし、残念ながら我らが王国は、クリーチャーギアの質において帝国に劣る。

 物量と国力の差で拮抗しているとはいえ、な。」


「それで、僕は何をすれば?」


 ここに連れてきたということは、意図があってのことに決まっている。


「何か一つ、案を出せ。

 クリーチャーギアの性能を上げる方法、整備性を上げる手段、あるいは操作性が良くなる何か……

 有効そうなものなら何でも良い。

 実際に結果が伴わなくても構わん。

 『試す価値はありそうだ』と納得できるものを出せ。」


「それはまた……」


 長年運用されて、最適化されているはずのものに口を出せとは、なかなかの無理難題だ。


「無茶を言っているのは百も承知。

 本題は君の知恵を試すテストだが……

 もし"何か"有効なものが見つかれば、と思わずにはいられん状況なのだ。」


 焼けた銃身を交換する者、歪んだ装甲を叩く者、すり減った関節を分解する者。

 働いている技師たちは共通して、顔に疲れの色が見える。


「……わかりました、明日またうかがいます。」


「わずかながら、期待させてもらうよ。」



●●●



「クロウ君、何とかなるのか?」


 キチジさんは不安げに顔を曇らせている。


「領主様が満足するかはわからないけど、一応考えはある。

 そのために一日もらったからな。」


 整備工房の様子は長時間見たわけではないが、それでもある程度のことはわかる。


「図書館……いや、宿の方がやりやすいか。

 セレンにも手伝ってもらいたいんだ。」


「わたし?」


「うん。

 セレンの知識なら、僕が言ったことを理解して文章にまとめれると思うから。」



●●●



 翌日。

 領主様立ち合いの元、工房長と顔を合わせることになった。


「これが改善案を書面にまとめたものです。」


 束ねた書類を机に置いた。


「……見せてもらおうか。」


 工房長は、かなり機嫌が悪いようであった。

 もっとも、僕のような若造が偉そうに意見しようというのだから当然だ。

 僕が同じ立場でも、多分同じように気に入らないと思うだろう。

 だが、遠慮するわけにもいかない。

 領主様に認めてもらわないことには、旅に出れるかどうかも怪しいのだから。


「まずはこちら。

 魔導銃が原因の故障についてです。」


 レポートを指さす。


「こちらに配備されている部隊では、一番多く使う弾は火炎弾ですよね?」


「そうだ。

 あれが一番、敵機にダメージを与えるのに向いているからな。」


 魔導銃の弾には種類によって役割がある。

 火炎弾は直接的な破壊能力。

 氷結弾は動作の阻害。

 衝撃弾は低コストで連射性に優れる。

 雷撃弾は内部機構の破壊。


 人型対人型のクリーチャーギア戦で使うなら、火炎弾が基本だろう。


「ですが、欠点として熱による銃身の変形、破損が多い。

 また、最悪クリーチャーギア自体も熱によって破損することがある。

 この工房でも、修理が必要になる要因としてかなりの割合を占めているのでは?」


「そんなことはわかっている!

 なんだ、火炎弾を使うなっていうのか!?」


 工房長は声を荒らげる。


「いえ、対クリーチャーギアでは火炎弾が便利なのは事実。

 なので、こちらを。」


 僕が見せたのは、設計図を添えた魔導銃の改造案だ。


「これは……火炎弾専用の魔導銃だと?」


「既存の物を小改造して、冷却液のタンクと放熱部を追加したものです。

 僕が計算した、適切な冷却液の混合比も添えてあります。」


「魔導銃の汎用性を捨てろってのか?

 戦術部が黙ってないぞ!?」


「いえ、改造するのは一部のものだけです。

 ですが、それだけでも整備が必要な機体は減るはず。」


 僕はあらためて設計図を指さし、改造にはさほどの手間がかからないことを示す。


「野盗の真似をするのも癪ですが……連中の使う衝撃弾用の魔導銃は意外と便利です。

 弾は無料タダで、メンテナンスもほとんど不要。

 何かに特化する武器というのは、その性能だけに関しては高級品すら上回ります。」


「ふん…… まあ、俺もその意見には同意だ。

 正直、複数の弾頭を使い分けれる乗り手なんてのはそうそういないからな。

 取り違えの問題は……改造済みの銃を真っ赤にでも塗っておけば十分だろう。」


「とはいえ、僕の案と設計図は未熟なものですので、実際には工房長殿の腕前に頼ってしまうことになるのでしょうが……」


「別に俺だって、ボウズの設計図をそのまま使おうなんて考えちゃいないさ。

 現場ですり合わせが必要な部分もあるしな。

 だが、この図面だけでも大したもんだ。

 いいだろう。一つ、試作してみようじゃねえか。」


「本当ですか!?

 光栄です……!」


「何、俺の考えてたことと似たようなモンだったからな。」


 一番の課題は『気に入られる案を出すこと』だった。

 正論だけぶつけても、聞き入れてもらえないのは世の常。

 なので、『魔導銃の改造案』は、できるだけ工房長の気に入りそうなものとして用意した案だ。


 毎日同じような作業をしているとどうしても飽きる。

 たまには目新しい作業……例えば『新設計の装備の試作』のようなこともやりたくなるものだ。


「なるほど……

 見事なものだったぞ、少年。

 これならば、王都に行っても恥をかくこともあるまい。」


「ありがとうございます、領主様。」


 ひとまず、これで目的は果たした。


「あん?

 まだ書類があるじゃねえか。」


「あ、そっちはオマケというか……

 セレンが書いてくれたものなんですが……」


「そこの嬢ちゃんが?

 どれ……『整理整頓をきちんとしましょう』『必要な手順は誰でもわかるようにしましょう』……

 なんだ、ウチのカカアと同じようなことを言いやがる!」


「だって、ずいぶんと散らかってたから……」


 セレンは物おじせず言い放った。


「失礼かとは思いましたが、どうしても言っておきたいというものですから……」


「……いや、嬢ちゃんにそう言われちまうと反省しちまうなぁ。

 こいつは、写しを取って貼り出しておかねえとな。」



●●●



「クロウ、あれで良かった?」


「完璧だったよ、セレン。

 可愛いにあんなこと言われたら、多少は整理整頓やマニュアル化に気を使う……と思う。

 むしろ改善案の大本命はこっちだったからな。」


 工房において、工具は複数の人間で共有して使うもの。

 使った工具を元の場所に戻し、所在をはっきりさせる。

 整理整頓の徹底だけで、十分な効率化が見込めるはずだ。


「多分、工房長もわかっていたんだろうけど、忙しすぎて部下に言う余裕がなかったんだと思う。

 かといって、僕がわざわざ言うと角が立つからなぁ。」



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