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1,プロローグⅠ 僕たちは囲碁将棋部なのに全員囲碁も将棋もやったことがありません。

初投稿です。お手柔らかにお願いします(笑)

 僕――天野(てんの)(かなた)は――今、部室にいるみんなの前で今日の授業中ずっと考えていた重大な議題に結論を出そうとしていた。


「――要するにさ、異世界転移っていうのは現実にはありえないってことなんだよ。魔法があるのに科学でチートできるっていうのもありえないんだよ!だから……」


「はいはい、すごいねー。ところでさ、私もうあと強いトランプが2枚だけどだけどそんなトランプ出してていいの?」


 僕の前に丸くくっつけて並べた机に座っている4人の学生のうち、僕の正面に座る金髪の女子高生がまるで興味がないように言った。

 その言葉に対し、彼女のとなりに座る白衣をきたちびっ子は


「クックック。妾の天才的な頭脳によってもう勝ち筋は見えたゆえ!早く降参するがいい」


 と言った。


「……だから魔」


「――それはとても残念。そして私のトランプも残念……」


 僕のすぐそばに座る無表情な女子高生は僕の言葉に少しかぶせるように言った。


「……だから魔法……」


 周りの様子を最後まで伺っていた青年は言う。


「フッ!正義は常に勝つ!この勝負、俺がもらったっ!革命上がりだ!」


「「「そ、そんなー!」」」


 金髪、ちびっ子そして無表情な嘆きが部室に響く。


「だから言っているだろう!正義がいつも勝つ……「だから聞いてくれよ!僕の話をっ!今大事なとこなんだから!」


 そう、誰も聞いてくれていなかった。僕が一日もかけて考えていたことなのに……

 ていうかなんで僕抜きで大富豪やってるんだよ!僕をハブって楽しいか!


「いや、だってねぇ……」


「フン、そんな些事に妾が割ける時間などないわい」


「それは正義に関係あることなのか?悪いが今は目の前の正義を実行するので精一杯なんだ」


「ん。確かに奏にとっては()()()()()()大事なことかもしれない。でも私達には目の前の勝負のほうが大事」


 最後のが一番傷ついたよ……


「い、いやでもさ、気にならない?高校生くらいの時にみんな同じようなこと考えているんじゃないの?」


「「「考えない!」」」


「俺が思うにはそんなことを考える時期はもう中学生で終わってると思うんだけど……」


「でも、げ、げんに人類の代表たる僕が考えてるわけだし……」


「いや、あんたいつから人類の代表になったのよ……」


「人類の代表をなのるならせめて妾くらいの器になってからにしてほしいものよ」


『妾』だの偉そうで痛い発言している人類よりは人類代表に近いという自覚はあります。


「……そんなことより二回戦」


 そんなことよりって……


 無表情で厳しいこと言われるのは心に響く……


 だが、まあこれが僕が部長をやってる東京|勇者<いさお>中学高等学校『囲碁将棋部』の日常だ。

 みんなで放課後に適当なことを喋りながら(今日は僕の話を聞いてくれなかったが……)遊ぶ。

 それが一番楽しい。

(ちなみに最近の流行りは大富豪と人狼。個人的には大富豪で最後の方一気に出して勝ち抜けるのが一番楽しい。)


 おっと忘れていた。僕たちの部のことを語ろうというのに部員を紹介するのを忘れていた。


「……奏も二回戦からやる?」


 そう無表情に声を掛けてくれたのは、|待宵<まつよい>ちせ。高校で部活を作った時にからいきなり下の名前で呼ばれて驚いたものだ。なんでも本人が言うには僕たちは幼馴染らしい。僕は残念ながら彼女のことを覚えていなかったが、昔はよく一緒に遊んでいたみたいだ。そして今は僕の家の近くに帰ってきたらしい。

 それから彼女は思ったことがそのままポロッとでてしまうのでたまに毒をはく。


「……はい。参加させていただきます」


「なによ。奏くんもやりたかったのね。異世界転移なんてよくわからないこと考えてないで最初から参加すればよかったのに」


 金髪の彼女は|衣川<きぬがわ>|薫<かおり>という。金髪だが生粋の日本人。薫は頭もよく運動もできる絵に書いたような文武両道完璧超人だ。高校に内部進学したばかりだというのに、もう塾で猛勉強しているらしく毎日忙しそうだ。


「どうせ僕の話より大富豪のほうが面白いですよ」


「そう拗ねるでない。どうしてもと乞うなら妾が大富豪の必勝法を教えてやらんでもないぞ」


 必勝法を知ってるならさっきのゲームはなぜ勝てなかったのかは、この際つっこまないであげた。

 さっきから痛い発言をしている彼女は|蘭野<らんの>|鈴<すず>。すずはとても高1と思えないほど背が小さい。

 さっきから白衣を着ていたり偉そうな喋り方をしていたが、実は彼女は勉強が苦手だ。これは僕だけが知っている情報(とはいってもみんなも薄々気づいているんじゃないかと思ってる)。

 白衣、背の低さ、痛い発言と三拍子で小物臭がする。僕は部のマスコットだと考えている。


「そんなに聞いてほしいなら俺が少しだけ聞くよ。それが正義になるだろうしね」


 さっきからずっと『正義』『正義』言っているのは|胆吹<いぶき>|竜太郎<りゅうたろう>。僕と同じクラスで今は席が近い。よく一緒に昼飯を食べる。

 竜太郎が『正義』に拘っているのは彼曰く


『昔、自分の信じていた正義の味方に裏切られたことがあるんだ。その時に「正義」というものが信じられなくなった。だったら自分が絶対の正義になろうと思ったのさ』


 だそうだ。

(ちなみに彼は自分の『正義』通りにいかないことがあると大変なことになるが、それはまたの機会に話そう。)


 という女子三人男二人が囲碁将棋部のメンバーだ。


 竜之介がトランプをみんなに配り終わった。

 大富豪に集中しなくては。心理戦は序盤から始まっている。


 しかも負けた人は部活終わりにジュースを奢らされるうえに部屋の後片付けまでやらされるので負けられない。


(ええと、自分のカードはJ,2♡,1◇,13◇,13♡,10◇,10♡,8◇,5◇,3◇か。いいカードが来たな。逆に来すぎて怖いくらいだ。反則上がりにならないように注意しつつ、8切りを使って一気に上がるのがポイントだな。この勝負もらった!)


 だがここでひとつ揺さぶりを掛けてみるのも一興。


「なあ。新学期が始まって一週間がたつけど、もちろんみんな夏休みの宿題は提出し終わったよな」


 ただの何事もない世間話のように僕はいう。だが実はこの発言は特定の人を習った攻撃だ。

 大富豪という楽しいことをしているなかで急に現実を見せる。これにより、宿題が終わってないひとは気持ちが宿題の方にいってしまい大富豪の方に身が入りづらくなるという魂胆だ。

 そして僕は勉強が嫌いな鈴はまだ終わっていないと考えている。


 この勝負、確実に勝たせていただく。

 世の中は弱肉強食。いわば非情なのだ。


「もちろん、終わっているわよ。早め早めに終わらせるのは当たり前でしょう」


「今年はかなりの量の宿題が出たけど、なんとか終わったな。」


 薫は(鈴個人を狙った攻撃だとは気づいていないだろうが)僕の意図を汲み取ってさらにプレッシャーをかけてきた。

 竜太郎は彼の正義にかけて絶対に終わらせていると思っていた。


「も、もちろん!終わったに決まっているじゃない。わ、妾は夏休み始まってから、い、一週間で終わらせたぞ」


 やはりまだ終わっていないようで、かなり動揺を誘えたようだ。これは作戦成功か、と思いきやここで思わぬ副産物に気づいた。


「…………」


 そう。ちせが黙ったままなのだ。黙った彼女の顔は若干青ざめている気がする。


「……ねぇ。英作文の再提出っていつまでだったっけ?……」


「たしか17:00までだった気がするわね」


 どうやらちせは英作文の宿題が再提出になり、まだ提出していなかったみたいだ。


 ちなみに今、この部屋の時計は17:57を示していた。


「ちせ、まだ提出していなかったのか?英語Cの先生の正義は時間厳守だ。期限は守ったほうがいい」


 と竜太郎が追い打ちを掛けた。

 それを聞いて


「……ごめんなさい。用事があるのを忘れてて今思い出した。もう帰らないと」


 といいながら彼女はかばんを持って部室を出ていってしまった。用事とはもちろん提出のことだろう。


「お、おう気をつけてな」


「ちせさん。また明日」


「クク。妾のオーラに怖気づいたか」


「ちせに正義があらんことを」


 最後のほうの言葉は聞こえなかっただろう。(竜太郎は人と分かれるときには必ずといっていいほど正義をいんってくれる)

 ちせはそれくらいの速さで去っていった。

 彼女のいた席には2♠,1♡,13♣,12◇,11◇,9♡,9◇,5♠,4♡,4◇,3♡のカードが残った。


 彼女もそこそこの手札だ。


「どうする?続きする?」


 僕は続きをやるか皆に聞いた。

 いやだってねえ、いいカードの偏り具合からして勝てそうなんだから。


「私はもう一回配り直すべきだと思うわ」


「そうだな、勝てそうな試合だったが仕切り直しにするべきだと妾は思うぞ」


 と言いながら、鈴は自分の手札を広げた。

 3♠,3♣,4♣,4♠,5♡,5♣,6♣,6◇,6♡,9♠,9♣。

 弱っ!

 そりゃ、仕切り直したくなるわ。


「じゃあ配り直すね」


 そういいながら竜太郎はトランプを回収した。

 ちなみにその時見た竜太郎の手元には少なくともJと2×2枚、1×2枚が一瞬見えた。

 やべーよこいつ。


 竜太郎がトランプをきり直してくれる。


「そういやさ、今日は火曜日だけど、薫は塾に行かなくていいのか?薫にとって塾は絶対正義だと思っていたが」


 急に思い出したかのように竜太郎が言う。


 確かに薫は毎週火曜日と木曜日、塾に行くために囲碁将棋部の活動(活動といっていいものなのかわからないが)には少ししか参加しなかった。

 なぜなら


「え!?もうこんな時間!うっかりしてたわ。いけない、急いでいかないと間に合わない!授業は17:10からだもの」


 そう確か彼女の授業は17:10からだったのだ。普段だったらもう塾に向かっている時間帯だった。


「申し訳ないのだけど。私も抜けるわ。」


 まあ塾に行かなければならないのならしょうがない。


「薫に正義があらんことを」


「せいぜい汝も勉学に励むがいい」


「また明日な」


 薫は手を振りながら部室の扉を開けた。その横顔はどこか疲れたようでもありまた寂しそうに一瞬見えた気がした。


「また明日!」


 彼女はそういいながら部室を出ていった。


「さて、続きをやるかの」


「さ、さすがに三人だと、ねぇ。少なすぎると僕は思うよ」


「そうだな。今日は二人も帰っちゃったし終わりにするか。このあとは俺も町中の正義を守る仕事があるんだ」


 正義を守る仕事ってなんだよ!


 とはいえ僕は少し安堵した。今回の手札は非常に弱い上に革命もできない。

 危うくジュースを奢らされそうだと財布の中身の勘定をしていたところだった。


 逆に鈴は残念そうだった。どうやら手札が良かったみたいだ。

 さっきとはパターンが逆だ。


「じゃあ今日は解散にするか」


「おう。じゃあな!世界の正義のために今日は早めに帰らせてもらおう」


「クク、妾も今日は神に呼ばれてる気がするゆえ、早めに帰らせてもらおう」


 おそらく神=母親だろう。


 鈴と竜太郎は自然な動作で帰っていった。


 いや、雑な理由だけど単に片付けたくないだけやん。

 人に押し付けるなよ。


「まあでもそれがいいんだけどな」


 結局、僕はみんなでグダグダと話しながら遊ぶこの部活が好きなのかもしれない。


 だからこの時僕は気づかなかった。

 いや気づかないふりをしていただけかもしれない。みんなで遊ぶ部活が楽しすぎて。


 それが原因であんなことになるなんて僕は考えてもいなかった。僕は部長として部のみんなのことを常に考えていなければならないのに。


 そもそもありえないのだ。完璧超人であるはずの薫が塾のある曜日に気づかなかったことが。

 そもそも時間を忘れるはずがないのだ。ちせが教室を出ていく時に時間を確認しているのだから。


 だが、この時の僕はそんなことには気づかなかった。


「あぁ。次の部活も楽しいといいな」


 そうつぶやきながら僕は部室を出た。


 校舎から出ると、静寂の中昇りかけの月が見えた。

 今夜は三日月だった。

すいません。思ったよりプロローグが長くなってしまいました。

次はプロローグⅡを書いて、その次から本編(異世界転移)の予定です。


気にならないと思いますが、補足的ななにかを。

2回目の大富豪で配られたカードは

奏……J,2♡,1◇,13◇,13♡,10◇,10♡,8◇,5◇,3◇

薫……6♠,7♣,7◇,7♡,8♡,10♣,10♠,11♠,11♣,12♣,12♠

鈴……3♠,3♣,4♣,4♠,5♡,5♣,6♣,6◇,6♡,9♠,9♣

ちせ……2♠,1♡,13♣,12◇,11◇,9♡,9◇,5♠,4♡,4◇,3♡

竜太郎……7♠,8♠,8♣,10♡,11♡,12♡,13♠,1♣,1♠,2♣,J

です。

部室内の席配置は奏からみて時計回りに竜太郎、薫、鈴、ちせの順に円状に座っていました。

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