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自己紹介は忘れずに

 初心者である自分の同行役を買って出てくれたメイド服の少女。そして、背中には巨大な剣。

「おっと! 申し遅れました。私『海野みるく』と申します」

「ご丁寧にどうも。……えっと、牡蠣がお好きなんですか?」

「そんなところです」

 ついついお酒が進んじゃうんですよねーとか言われても反応に困るんですが。

「ということは、みるくさんは成人の方なんですね」

「勿論ですよ! といっても、この格好じゃあ説得力無いですよね~」

 パッと見は自分と同じか、やや少し年下に見えるくらいである。

 どうやら有償のサービスで見た目を変更できる<外見変更>というシステムがあるそうで、それを利用することで自身の外見から変更することができる。というものらしい。

 ちなみに、初期の姿は自分の背丈や容姿から近いパーツが自動選別されるという話も聞くことができた。


 今度は自分の番だな。

「オレは『Yu-Ki』です。ユキ、って呼んでください」

「えぇ。よろしくお願いしますね、ユキ君」

 相変わらずペコリという擬音が似合う可愛らしいお辞儀だ。

 みるくさんの視線が、俺の左腕のあたりに向く。

 そこには木の板を金属の縁で留めた所謂『盾』があり、自分の左腕にベルトで固定してある。

「武器は<盾剣(ガーズ)>を使ってらっしゃるんですね」

「えぇ、初心者向けっぽっかったのでコレにしちゃいました」

 自分が選んだのは<盾剣>と呼ばれる防御型の近接武器だ。もうひとつの武器である剣は腰のベルトの左側面に括り付けた鞘に収められている。


 ちなみに、この世界にはいわゆる『戦闘の職業』というものが存在しない。

 プレイヤーは自分で使いたい武器を選び、強敵と対峙するという至ってシンプルなものだ。

 自分の選んだ<盾剣>は防御性能が他の武器よりも高いこともあり、初心者向けと謳われている。

 何はともあれ、この世界に慣れるためにと選んだ武器ではあるものの……。やはり初心者向けの武器を選ぶというのはちょっとチキンプレイが過ぎただろうか。

「<盾剣>ってどうなんですかね? 慣れてくると別の武器に変えたほうがいいんですかね?」

「そんなことはありませんよ。むしろ熟練者ほど<盾剣>の重要性を説きますよ」

 そうなのか。知らずに選んだとはいえそこまでとは思わなかった……。


「<盾剣>の強みは、まず何といっても[盾防御]による生存力の高さですね」

 他の武器種とは異なり、盾を構えているだけで防御が成立するため、敵の攻撃からのダメージを受ける回数を減らせるのだという。

 戦闘を継続する能力が高い為、初見の相手のパターン把握のためにとりあえず持っていく人も多いらしい。


「それに、敵の攻撃に合わせて[盾防御]を行うことで、強力なカウンター攻撃を繰り出せるんです」

 それこそが<盾剣>の真骨頂なのだとみるくさんは語ってくれた。

 まだ理解の及ばない部分も多いため詳細な説明は省くが、要するに『防御面も強いのに、攻撃面も弱くない。極めればメチャメチャ強いまである』という事らしい。

 当然、ある疑問が生まれてる。

「でも、それじゃあ多くの人が<盾剣>選ぶんじゃないですか?」

「そうですよ。現状、<盾剣>使いのランカーは多いですね、レイドボスを単独で討伐する動画も上がってますし」

 ……それは逆に大丈夫なのか? 他の武器の立場無いんじゃないだろうか。

「あぁ、でも他の武器を使っている方でも強い方はいっぱいいますから!」

 そこは安心して、お好きな武器を使ってください。と気遣ってくれた。

 武器によっては使いやすかったり扱い辛いものはあれど、どれも固有のアクションが面白く性能も大きな差はつかないということらしい。

「私の尊敬する<大剣(トゥハンド)>使いの方だって、全然強いですからね」

 というのはみるくさんの弁。一体どんな人なんだろうか。

 ちなみに<大剣>は振りが遅い代わりに一撃の威力が高い初心者向けの武器らしい。一部のスキルが[溜め攻撃]に対応しており、溜め時間に応じて威力があがるそうな。

 とはいえ、自分はしばらくは<盾剣>のお世話になろうかなと思う。最初に惹かれたというのも間違いではないし。


「さて、ユキ君はまず【訓練場跡地】に行くんでしたっけ?」

「はい。といっても、最初のボスみたいな敵にボコボコにされた訳ですけども……」

 最初の敵に負けてしまったという気恥ずかしさはあるものの、自分は初心者なのだから仕方がないと思うことにする。

「それじゃあ一緒に行きましょうか。最初は練習あるのみですよ」

「ありがとうございます! 頑張りますのでよろしくお願いします!」

 みるくさんもきっとやりたいことがあるだろうに……。本当にありがたい申し出である。


「あ、みるくさん。スイマセンがもうひとつお願いしても良いですか?」

 ヒロさんが申し訳なさそうにみるくさんに頭をさげる。

 傍らで静かにタブレットを操作していたのか、まるで気配を感じなかったな。

「どうかしましたか?」

「いえ、もうひとり新規で始められた方が【訓練場跡地】付近にいるようなので、見かけたらご一緒してあげてほしいのですが……大丈夫そうですか?」

「なるほど。私は大丈夫ですけど、ユキ君はどうですか?」

 みるくさんは新人2人を連れてダンジョンに挑むことになる、ということか。

 それが彼女にとってどれほどの負担かわからないし、世話される立場の自分が文句を言うものでもないだろう。

「みるくさんが大丈夫なら、オレは従うだけです」

「えっと……。そこまで上下関係は意識しなくていいんですよ~?」

 少しばかり堅苦しく振舞い過ぎただろうか?

 もっとフレンドリーにいきましょう、と優しく気遣ってくれることに感謝しかないのだが。これ以上困らせても仕方がないな。

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